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◆02◆

「はよ。何してんの?」

 この日も稜輔は何時にもなく爽やかな様子で話し掛けてきた。

「いやあ、掲示板探してんだけどなんか来てみたら中庭だった」

「はは、どうやったら中庭になるんだよ。しかもそっちの方向違うから」

「まじ……」

「まじ。それはこっちだって。場所さっき聞いたから行こうぜ」

 本当に自分の馬鹿さ加減には嫌気がさしてくる。と同時に軽くショックを受けた。今度は俺の足は一体どこへ行くつもりだったのか。



 稜輔は中学の三年間ずっとクラスメイトで、気の合う奴の一人だった。また同じ野球部ということもあり、健太の次に長く時間を共に過ごしていた。健太とのように休みの日もちょくちょく遊んだり、相談をし合ったりするような仲ではなかったが、良いも悪くも一言で言えば大雑把でさっぱりしたとこが魅力なのでとても良い友達だと思っている。彼のことを悪く言う人間はそういないだろう。

「貴、お前なんでこんなに早く来てんの」

「クラス表見るから……って言ったら分かるだろ。集合前は人が多いって聞いたからさ」

「……?」

「だーかーらー!」

「……ああ、そういうことね。相っ変わらずお前もお暇な奴だね〜」

「一途なんだよ、い・ち・ず!」

「つか、アホだろ」

「んなこと分かってるよ。健太にも昨日同じこと言われた」

「だろ?」

「うるせーよ。ていうか、そっちこそなんで早いんだよ」

「俺? 俺は時間間違えたの。九時から入学式だと思ってた」

 入学式は十時開始予定だった。彼が言う九時から始まるのだったら集合時間は八時半のはずだ。先程学校に着いたばかりだと言っていたから、それならお前は遅刻じゃねーかよ、と思う。人のことアホだとか言える立場でもないのではないか。

「お前も人のこと言えねーな……」

「なんだよそれ」

 稜輔は先日買ってもらったらしい新機種の携帯電話をいじりながら、適当そうに相槌を打った。誰かにメールを送っているようだった。

 見ると、携帯は同じ機種のこれまた同じ色だった。彼の携帯を見たのはその日が初めてだった。なんだか少しげんなりする。男同士のお揃いほど気持ち悪いものはそうそうないと思う。



 稜輔の言う通りに進んでいくと、名物の桜並木が目に入ってきた。何本ものソメイヨシノは敷地外からも見える位置に植えてあり、大通りを道行く人の心を和ませる存在でもあった。そのことは昔から知っていたが、こんなにも近くで、そしてこんなにも多くの桜の木を見るのは初めてだった。その年は例年にない暖冬により花弁は舞いゆくばかりであったが、足下に広がった薄桃色の絨毯はそれはそれでとても美しかった。

 桜並木を抜けほんの暫く歩いていると、前方で緑色の板の前にちらほらと人が集まっているのが見える。どうやらそれがお望みの掲示板のようだ。

 先日入学祝いにと、父さんに買ってもらったシルバーの腕時計に目を落とすともう九時を過ぎていた。バスを降りてから二十分近くもうろちょろしていたことになる。

 ざっと周りを見渡すと、三十人くらいの新入生がいた。思っていたよりも人が多かったので驚いた。これなら本当に早く家を出て正解だったと言える。

 健太くん、ご愁傷様です、などと心の中で思う。いやしかし彼のことだから、もしかしたら自分のクラス分けなど気にもしていないのかもしれないが。



「さてさて、結花(ゆか)はどこかな〜」

 そう稜輔は満面の笑みで言う。 

 結花とは稜輔と同じく同級生だった人で、俺はあまり話したことはなかったのだが奴は相当惚れ込んでいるらしい。家は隣同士なので、そう稜輔の幼馴染みだ。

「B組ね。えっと俺はっと……」

 普段でもテンションの高い稜輔はいつも以上に浮かれていた。俺は結花と一度も同じクラスになったことがないので、もちろん稜輔も同様だった。今度こそ、と呟く彼の気持ちが痛いほどよく分かった。

「なんだー。俺、E組じゃん。ショック〜」

 一瞬にして肩を落とし、泣き真似をして寄ってくる稜輔には同情した。でもそんな彼には目も暮れずに、俺は自分の名前と、そしてもう一つの少女の名前を必死に探した。その時の俺には彼が結花と同じクラスかどうかだなんて、考える余裕はなかったのだ。

「なんだよ、つれない奴う」

「お前見つけるの早いな。俺の名前……どこだよ」

 一学年のクラスは、全コースを合わせるとA〜I組まであった。A組だけは特進コースという特待生のみのクラスなので俺には関係がないのだが、その他の八つのクラス表の中から自分の名前を探し出さなければならなかった。これがなかなか大変なのである。  



「おい、ほらあそこ。貴もE組じゃんか!」

 彼が指さす先には、確かに俺の名前があった。


   一年E組十五番 藤森貴幸(ふじもりたかゆき)


「また同じクラスかい。まあ、仲良くしようぜ、友よ」

 そう言いながら稜輔は俺の頭を叩く。

 そんなことは気に止めずに、透かさずもう一つの名前を同じE組の中から探した。

「お前の愛しの君は……」

 と一緒に探し出す稜輔。

 次の瞬間、叫んだのは二人同時だった。

「あ、あった!」


   一年E組二十七番 香坂杏奈(こうさかあんな)

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