今日も、2人っきり。
なんでもあり。
「ねえ、あなた。今日も家の外が静かですね」
「仕方がないよ。災厄が落ちて以来、街の復興も難しいからね」
「それにしても、侘しいですね。景色が変わらないというのは」
「おや、僕の奥さんは楽しみ上手だというのかい?」
女が男を見ると、可笑しそうに笑っていた。
「では、今日は掃除を楽しみましょう。知ってる?裏手のドアまわりに落石がまた落ちてきたって」
「気づかないふりをしていたかったな」
「そうもいかないわ、この家に使用人はいないのだから」
「僕たちがもう少し裕福だったらなぁ」
「気概を見せてちょうだいな、旦那様」
「……落石をどかしてきまーす」
「あ、逃げた」
男は庭に出て、女もまた違う庭に出て、食物の世話をする。
たいして立派なものはないが、どんな草も実も、一生懸命育てている。
最近は日照りが続いているから、そろそろ雨が降ってほしいところだ。
「今日もすくすく育ってね。私たち、あなたたちが頼りなの」
そう庭に声をかける女に、男の声が届く。
「ねえー!この石を皮が硬い実の上に落としてみるのは、どう?」
「ああ、あのずっと置いてある実ね」
「そう、ずっと前に誰かがくれたやつ」
「試してみましょうか、やれることがあるのはいいことだわ」
そう言って、女が家の中から実を持ってきた。
男が自分の頭よりも大きい石を持ち上げて、そのまま落とした。
一発では割れなかったが、何度もやっているとぐちゃりと割れた。
「……これは、また」
「……腐ってるね」
「さすがの私たちでも、お腹を壊しそうね」
「そうだね。残念、いいアイデアだと思ったのに」
「ふふふ、旦那様の力持ちなところが見れただけでもよかったわ」
「おや、惚れ直してくれたかい?」
男は冗談を言い、女も冗談を言う。
二人はいつだって、そうやって言葉を交わしている。
それがいつからそうだったかは、もう思い出せない。
落石の片付けが終わる頃には、夕方になっていた。
太陽だけは、規則正しく動いている。
「もう日が暮れたから、夫婦も終わりにしましょうか」
女の声に、男が頷いた。
今日も、ごっこ遊びは夕暮れと共に終わる。
「そうだね、明日の分の支度をしないといけないし」
「そういえば、庭の草が少しだけ増えていたんですよ。私たち、まだ食べるものがあるみたいよ」
「それはすごいことだね。なんだかんだ、僕たちはしぶとく生きているよね」
この世界に災厄が落ちた。
ほとんどの家屋は崩れ、街は崩れ、政治は機能しなくなり、国は消えた。
人々は怯え、悲しみ、奪い合うようになった。
この家だけはたまたま残っていて、避難場所に使われていた。
そこにいた者たちと、協力して暮らしあっていた。
それでも、そうは長く続かなかった。
「今日も、私たち二人っきり」
他の者も、とっくにいなくなった。
街から出た者は戻ってこなかったし、耐えきれなくて死んだ者も数知れず。
もう自分たちが人間だったかどうかも、危うい。
ただ、出て行かなかった彼らには、この家だけはある。
だから、この家が崩れない限りは、この家で生きていくのだろう。
互いに、互いを、騙し生かし合いながら。
「明日は何にしますか?」
「今日は大きな家の夫婦だったから、災厄前にいた貴族の主従関係でもしますか」
「じゃあ、私が主人で、あなたが執事ね」
「それで、明後日は友達をやりましょう」
「いいわね、見えないはずのお友達っていうのは?」
「いいですね、楽しそうです」
今日も世界に2人だけ。
2人しかいない世界を、今日も楽しんでやっていけるように、遊びながら生きていく。
了
お読みくださりありがとうございました!!
244日目。




