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今日も、2人っきり。

作者: 有梨束
掲載日:2026/09/02

なんでもあり。

「ねえ、あなた。今日も家の外が静かですね」

「仕方がないよ。災厄が落ちて以来、街の復興も難しいからね」

「それにしても、侘しいですね。景色が変わらないというのは」

「おや、僕の奥さんは楽しみ上手だというのかい?」


女が男を見ると、可笑しそうに笑っていた。


「では、今日は掃除を楽しみましょう。知ってる?裏手のドアまわりに落石がまた落ちてきたって」

「気づかないふりをしていたかったな」

「そうもいかないわ、この家に使用人はいないのだから」

「僕たちがもう少し裕福だったらなぁ」

「気概を見せてちょうだいな、旦那様」

「……落石をどかしてきまーす」

「あ、逃げた」


男は庭に出て、女もまた違う庭に出て、食物の世話をする。

たいして立派なものはないが、どんな草も実も、一生懸命育てている。

最近は日照りが続いているから、そろそろ雨が降ってほしいところだ。


「今日もすくすく育ってね。私たち、あなたたちが頼りなの」

そう庭に声をかける女に、男の声が届く。


「ねえー!この石を皮が硬い実の上に落としてみるのは、どう?」

「ああ、あのずっと置いてある実ね」

「そう、ずっと前に誰かがくれたやつ」

「試してみましょうか、やれることがあるのはいいことだわ」


そう言って、女が家の中から実を持ってきた。

男が自分の頭よりも大きい石を持ち上げて、そのまま落とした。

一発では割れなかったが、何度もやっているとぐちゃりと割れた。


「……これは、また」

「……腐ってるね」

「さすがの私たちでも、お腹を壊しそうね」

「そうだね。残念、いいアイデアだと思ったのに」

「ふふふ、旦那様の力持ちなところが見れただけでもよかったわ」

「おや、惚れ直してくれたかい?」


男は冗談を言い、女も冗談を言う。

二人はいつだって、そうやって言葉を交わしている。

それがいつからそうだったかは、もう思い出せない。


落石の片付けが終わる頃には、夕方になっていた。

太陽だけは、規則正しく動いている。



「もう日が暮れたから、夫婦も終わりにしましょうか」


女の声に、男が頷いた。


今日も、ごっこ遊びは夕暮れと共に終わる。



「そうだね、明日の分の支度をしないといけないし」

「そういえば、庭の草が少しだけ増えていたんですよ。私たち、まだ食べるものがあるみたいよ」

「それはすごいことだね。なんだかんだ、僕たちはしぶとく生きているよね」


この世界に災厄が落ちた。

ほとんどの家屋は崩れ、街は崩れ、政治は機能しなくなり、国は消えた。

人々は怯え、悲しみ、奪い合うようになった。


この家だけはたまたま残っていて、避難場所に使われていた。


そこにいた者たちと、協力して暮らしあっていた。

それでも、そうは長く続かなかった。



「今日も、私たち二人っきり」


他の者も、とっくにいなくなった。

街から出た者は戻ってこなかったし、耐えきれなくて死んだ者も数知れず。


もう自分たちが人間だったかどうかも、危うい。


ただ、出て行かなかった彼らには、この家だけはある。


だから、この家が崩れない限りは、この家で生きていくのだろう。

互いに、互いを、騙し生かし合いながら。


「明日は何にしますか?」

「今日は大きな家の夫婦だったから、災厄前にいた貴族の主従関係でもしますか」

「じゃあ、私が主人で、あなたが執事ね」

「それで、明後日は友達をやりましょう」

「いいわね、見えないはずのお友達っていうのは?」

「いいですね、楽しそうです」


今日も世界に2人だけ。


2人しかいない世界を、今日も楽しんでやっていけるように、遊びながら生きていく。






お読みくださりありがとうございました!!

244日目。

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