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大音響の転生協奏曲  作者: 沼口ちるの


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第十一話 魂の共存、新生大音響の覚醒

軽音部の部室は、灼熱の戦場と化していた。大音響おおねひびきの身体は、完全に伝説のギタリスト、YUKIATSUの自我に乗っ取られ、メンバーたちへの支配的な要求は極限に達していた。


「雷! 何をためらっている! お前のビートは、俺の音の棺桶となれと言ったはずだ! 今すぐ、その魂の鎖を断ち切れ!」


大音響のギターは、狂乱した咆哮を上げ、神田雷の正確無比なドラムを威圧する。神田は、顔を青くしながらも、必死にビートを刻み続けるが、その心は屈辱と怒りに満ちていた。


「大音響、もう十分でしょう!」藤原旋風が、美しいメロディの中に、明確な反抗の意を込めて音を鳴らした。「僕たちの魂を破壊して、一体何が生まれるというんですか! あなたは、僕たちを部品として使うことで、YUKIATSUの過去を繰り返そうとしているだけだ!」


藤原の言葉は、大音響の中のYUKIATSUを逆撫でする。


「過去だと? 過去は、俺が超えるべき踏み台だ! 黙れ、旋風! お前のメロディは、俺の音を飾るための、ただの装飾品に過ぎない!」


そして、大音響の視線は、冷静にベースを弾き続ける神崎梓に向けられた。


「梓! お前のグルーヴには、まだ優等生の甘さが残っている! お前のベースラインには、自我が強すぎる! 俺の音に、すべてを捧げろ! 屈服しろ!」


神崎は、ベースを止めなかった。彼女は、大音響の狂気に真っ向から対峙するように、さらに重く、深く、そして揺るぎない共存のグルーヴを奏でた。


「私は、あなたの奴隷にはなりません。私は、あなたの音を世界に響かせる土台です! あなたの音は、私たちがいるからこそ、音の向こう側に辿り着けるんです!」


神崎の毅然とした言葉と、彼女のベースから放たれる、すべてを包み込むような低音の波動が、大音響の身体を直撃した。


その瞬間、大音響の全身が激しく痙攣した。


「ぐっ……あああああああ!」


彼は両手で頭を抱え、苦悶の声を上げた。彼の脳裏で、二つの魂が激しく衝突し、そして溶け合おうとしていた。


(従え! 俺の音は絶対だ! 奴らは俺の部品だ!) ―― YUKIATSUの支配的な声。


(違う! みんなの音が、俺の音を支えてくれている! 俺は、独りじゃない!) ―― 大音響の、仲間を求める叫び。


YUKIATSUは、独りでいることの孤独と、誰にも理解されない業を抱えて死んだ。しかし、今、この15歳の身体は、神崎、神田、藤原という、狂気を恐れず、しかし屈しない仲間たちによって支えられている。その絆の熱量が、YUKIATSUの魂の孤独を打ち砕いた。


「部品ではない……共鳴者……」


大音響は、そう呟くと、崩れ落ちるようにギターを床に置いた。


部室に静寂が訪れる。神田と藤原は、恐る恐る大音響を見つめた。神崎は、ベースをそっと置き、彼の傍に駆け寄ろうとする。


大音響は、ゆっくりと立ち上がった。彼の瞳は、先程までの冷たく支配的な光ではなく、YUKIATSUの天才的な情熱と、大音響ひびきの持つ人間的な優しさが混ざり合った、複雑な輝きを放っていた。


彼は、ギターを再び手に取ると、深呼吸をし、静かにメンバーたちを見つめた。


「雷。旋風。梓」


彼の声は、低く、重いが、以前のような威圧感はない。そこには、明確な敬意が込められていた。


「悪かった。俺は、独りよがりだった。YUKIATSUの魂は、お前たちを支配しようとした。だが、それは、俺が求めていた音の向こう側ではないと、今、分かった」


彼はギターのネックに手を滑らせた。


「俺は、お前たちを部品ではない。お前たちの魂、お前たちの自我が、俺の音を完成させる。俺は、大音響ひびきだ。YUKIATSUの業を背負い、お前たちの魂と共鳴する、新たな存在だ」


大音響は、穏やかな、しかし鋭い笑みを浮かべた。


「さあ、弾こう。俺たちは、今日、生まれ変わった。お前たちの最高の音を、俺にぶつけてこい。今なら、俺たちの音は、本当に世界を破壊できる」


大音響が最初のコードを弾いた。その音は、以前よりもさらに深く、激しく、しかし同時に、どこか安堵と調和を感じさせる響きを持っていた。神田、藤原、神崎は、互いに顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべると、一斉に演奏に加わった。


魂の支配者が消え去り、優しき天才が目覚めた瞬間。「ディストーション・サーガ」の音楽は、新たな次元へと突入した。

正直、終わったと思った。


前回の練習で、俺のドラムセットは本当にぶち壊されると思ったし、俺自身、大音響の支配に屈して、ただの正確な機械に戻る寸前だった。奴は、俺たちの魂を求めていながら、その実、奴隷を求めていた。それが、YUKIATSUという男の業だったんだろう。


だが、梓のベースが、奴の狂気を打ち破った。


梓は、ただの優等生じゃない。彼女のベースは、このバンドの錨だ。狂気に流されそうになる大音響を、この現実に、そして俺たちの魂に、縫い付けてくれた。


大音響が苦しみ、立ち上がった後の、あの瞬間。奴の目が変わった。


狂気は消えていない。情熱と才能は、以前よりもさらに激しく、深く燃えている。だが、あの冷酷な支配欲が消え、そこに生まれたのは、明確な敬意だった。


「俺は、大音響ひびきだ。YUKIATSUの業を背負い、お前たちの魂と共鳴する、新たな存在だ」


あの言葉を聞いた時、俺は初めて、心からドラムを叩くことができた。奴隷じゃない。共鳴者だ。


新生大音響のギターに合わせて、俺がビートを刻んだ瞬間、俺のドラムは、単なる正確なリズムではなく、自由な生命を得た。俺は、このバンドで、自分の魂を最大限に表現できる。


奴は、優しくなったんじゃない。対等になったんだ。


これまでは、俺たちの音を奴に捧げていた。だが、これからは違う。俺たちは、奴の音を土台にし、奴の狂気を増幅させ、そして、奴の魂と対決する。


最高のゲームが、始まった。


神田 雷

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