第四十九話 星の危険性
思念体って、地球ではゴーストとか幽霊とか呼ばれていたはず。
でも、記憶はあやふやだった。
「まずは、思念体について思い出さないと…。」
執務室の椅子に座って、天界の生命図鑑を開く。
ミカエルも一緒に図鑑をのぞき込んだ。
<<< 一般的な思念体の性質 >>>
【外見】
・基本的に丸い塊のような形。
・光や物質に反応しない物質で構成されており、人の目には見えない。
【行動】
・生命体に憑依する。その際、思考を乗っ取る。神様も例外ではない。
乗っ取られた個体は、顔から表情が消え、高度な行動はしなくなる。
・まわりの生命体に向かって呼びかける行動をとる。呼びかけて、近づいてきた生命体の思考を乗っ取る。
・思念体どうしで念波により会話している。
・ときおり、増殖する。
【危険性】
・多くの場合、思考の乗っ取りは一時的で大した影響は無いが、長期化すると極めて重大な影響をもたらす可能性がある。
乗っ取りが長引いた場合、文明が崩壊するのではないか――原因不明の文明崩壊のうちのいくつかについては、思念体が原因ではないかと考えられている。
思念体の乗っ取りからの回復については現在調査中とされる。
文明が思念体から回復した例として、すべての思念体が突然活動を停止した事例が報告されている。
生命図鑑の“乗っ取り”や“文明崩壊”などの不穏な言葉に、急に不安がよぎる。
私は、図鑑の情報と現地の状況をもとに、星の危険性について考えてみた。
「光や物質に反応しない物質ということは、壁とか関係なく思念体は動けるということ。
単体だと安定はできないとはいえ、ある程度は移動できると考えると、あの星に逃げ場はおそらくない…。
これはまずい状態ね。すべての人が思念体に乗っ取られているとみて、ほぼ間違いない気がする…。」
ミカエルは、黙ってうなずいた。私は、そのまま話を続ける。
「それに、社会性が失われていて、何年経過しているかわからない…。
産まれた時から思念体に乗っ取られていた人間がいたとしたら、どうなるんだろう…。
その人は思考を取り戻したとしても、文字が読めたりするのかな?えっと、もっと言うと、基本的な社会性って、保てるのかな?
もしかして…、仮に、思念体が突然活動を停止したら、社会性が急に失われて…、図鑑のように文明崩壊が起きるってことかな…?」
「そもそも、思念体自体をどうやって対応するかですら、わかっていないですね…。」
何が、いつ、起こるかわからない不安に、今度は私が黙ってうなずいた。
星の大きさからして、少なく見積もっても10億人以上の人がいる。
仮に思念体の問題を解決したとして、その10億人の社会性をどう確保するか――それが次の課題になる。
もしかしたら、10億人の大人の体を持った赤ちゃんをお世話する必要があるかもしれない…。想像するだけで、社会性の確保は、非常に難しい問題だった。
「でも、私たちで何とかしないといけない…。」私は言った。お互いの目を見て、うなづきあった。
「私、星の状況を確認してきます。」ドーナツが言った。
「私、機械だから思考を乗っ取られることは無いし、それに、プリド文明と同じ言葉を話す人たち、なんかほっとけない…。」
「わかった、まずは星の調査をお願い。食料の確保と社会性の維持、初等教育の方法を重点的に調査した方がいいと思う。」
「はい、わかりました。」
「その間に、私たちは、この思念体についてもっと調べておく。」
「はい。お願いします。」
私は、ドーナツを星に送り、ミカエルと二人で思念体の調査を継続した。
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