第三十三話 プリド全記
私はソファに腰を下ろし、もう一度『プリド全記』を開いた。
「未来よ、やむなく終焉を選んだ我々より、豊かであれ。誇り高くあれ。」
力強く、静かな祈りのような一文から始まる。
前半には、プリド文明の歴史が綴られていた。
小さな星では、初期の頃から分業が進んでいたようだ。
農業技術の発展により、農業に従事する者は徐々に減り、代わって学問、文学、芸術、美術に身を投じる人々が増えていく。
とりわけ言語の機械学習が進んだことで、自立型ロボットが誕生し、そこからの文明の進化は目覚ましい速さだった。
後半には、ロボットが記録した人々とのやりとりが残されている。抜粋して読んでいく。
機械番号A05002 農業用ロボットの記録
農家のおばあさん:ロボットさん、いつも働いてくれてありがとね。今日はこれくらいにしようか。子供たちもロボットに挨拶なさい。
近所の子供:いつもありがとう。また明日ね。
農家のおばあさん:さ、子供たち、一緒に帰ろうか。
近所の子供:あっ、星だ!。…。なんかあの星不思議。僕に話しかけてる気がする…。
農家のおばあさん:あー、あの星かい。そうやって話しかけて近づいてきた子供を――たべちゃうぞー!。
なんてね。でも、あの星には近づいてはいけないという言い伝えがあるのは本当だよ。
さあ、あの星の事なんて忘れて、今日は早く帰って明日に備えてお休み。
近所の子供:いつもお疲れ様!今日ねー。学校でねー…。
農家のおばあさん:こらこら、まじめに働いてるロボットの邪魔しちゃいけないよ。家で勉強しなさい。
近所の子供:わっ、逃げろー!また明日な!
農家のおばあさん:どうしたんだい、浮かない顔して。
学者:最近、実験がうまくいかなくて……。あまり役に立てず、申し訳なくて。
農家のおばあさん:学者も大変だねぇ。でもいいんじゃないかい?失敗したり成功したりで。
今日はたくさんご飯を食べて、ぐっすり眠って、明日また頑張りなさい。
失敗できるってことは、それだけ豊かだってことなんだよ。気にしなさんな。
農家のおばあさん:昨日の噴火は大変だったね。でも、みんな事前に避難できてよかったよ。これも学者さんのおかげだね。
学者:ええ、事前に予測できたのは幸いでした。ただ、火山灰の影響が少し心配です。
農家のおばあさん:そうかい。まぁ、心配しても仕方ない。いつも通り暮らすだけだね。
機械番号A05015 室内用ロボットの記録
近所の母親:もう食べ物がないよ。子供たちも毎日泣いてる。どうにか、子供たちだけでも救えないか。
学者:土壌を変えるにも、宇宙へ逃げるにも、時間が足りません。お役に立てず、すみません。
村の村長:もう食料もわずか。多少生き延びたところで、未来がないということか。学者さんには感謝してるよ。気にしなさんな。
村の年長者:我々は、みんなで暮らしてきた。つまり……何が言いたいかというと……えっと……。
体力の少ない子供や年寄りから、徐々に弱ってきている。最期は、みんな一緒がいいかもしれない。
農家のおばあさん:それしかないかもしれんね。みんなで、最期まで仲良く、笑顔でいたい。
機械番号A05022 室内用ロボットの人との最後の記録
村の年長者:残念だが我々はもうダメだ。お前たちは残って星の維持を頼む。そして我々の生きた証を他の人に伝えてくれないか…。
農家のおばあさん:いつもありがとね。ロボットさんたちには申し訳ないけど、私たちはさよならだね。ロボットさんたちは頑張るんだよ…。
最後には、彼らが誇りとした文学、音楽、芸術についての記録が添えられていた。
そして、その最終ページには創造主たちの詩が静かに記されていた。
「私たちは命ある限り言葉を紡ぐ。そして、 私たちの命は語られることで続いていく。」
本を閉じたとき、私はしばらく言葉が出なかった。
小さな星の人々のさりげない日常に、大きな豊かさを感じた。
そんな豊かな日常を最期まで演じきった人々に、私は胸がいっぱいになった。
この星のすべてを大切にしたい――歴史も、人々も、機械も、星そのものも、すべてを、守りたいと思った。
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