第三十二話 神の悩み
自室に戻り、「プリド全記」を読み終えると、私は静かに椅子にもたれかかった。
手元には「プリド全記」。
その重みは、思っていた以上に心に深く響いていた。
ロボットの創造主たちは、とても魅力的な人たちだった。
規模の小さい文明ながら、言語に対する理解度がとても優れていたようだ。
言語学の発展とともに、機械による言語の機械学習ができないか、検討された。
複数の方法が試され、そのうちの一つが成功を収めることになる。
膨大な量の言語データを投入し、大量に計算するという方法だ。
単純だが、計算の得意な機械には適していた。徐々に機械の中で言葉が構成されはじめた。
そして、それに伴って、人工頭脳を持つロボットもほぼ同時期に作られた。
新しい言語に対しても、行動と言葉を比較することによって、比較的短期間で学習できるようロボットには組み込まれているようだった。
ロボットが私の言語をすぐに理解したのもうなずけた。
「初日に、誰もいないからって身振り手振り多めで、独り言をつぶやいていたのが功を奏していたという事かしら…。」
でも、観察されていたという事だ…。今、考えると少し恥ずかしい…。
明日までに「プリド全記」をどうするか返事をする必要がある。
私は、コーヒーを口に含み、深く考え始めた…。
本の継承については特に問題を感じていない。本を天界へ送れば十分だろう。
たくさん複製されて多くの神々に読まれ、創造主たちも満足する結果となるに違いない。
ただ、目的が達成された後のロボットたちの行動が気がかりだった。
プリド全記と星の調査結果を総合して判断すると、創造主たちがいなくなってから3000年は経過している。
3000年間ロボットたちは黙々と働いているのだ。
ロボットに対する一つ目の命令の「他者への継承」が完了した場合、どうなるだろうか?
次の命令の「星をできるだけ維持すること」のためにロボットたちは、自らを消そうとしてしまうのではないだろうか?
その“星の維持”という命令の中に、ロボット自身の存在は含まれているだろうか?
今、私にできることを、ひとつずつ順に考えてみる。
ロボットの3000年という時間、創造主たちの誇り、どの選択を選んでもそれらを背負うことになる。
どの選択肢も簡単には決断できない。
1.「プリド全記」を継承する。
→ 最も自然な選択に思える。
けれど、命令が果たされたその瞬間、ロボットたちは次の命令へと進んでしまうだろう。
それが“自己消滅”であったとしても、彼らは疑問を持たず実行する。命令に忠実なロボットだからこそ。
2.星の時を戻し、創造主たちを災害から救う。
→ 噴火に強い作物を教えるなどして、災害自体から救うこともできると思う。
ただ、それは創造主たちの重い選択を否定することになる気がしてしまい、気が引ける…。
彼らが誇りをもって終わらせた文明に、私が手を加えることは正しいと言えるのだろうか。
3.「プリド全記」の継承をしない。
→ 何もしない選択肢もあった。
ただその場合、ロボットたちは、目的を果たせぬまま、また長い間働き続けることになるかもしれない。
既に3000年も待っていたのだ。何らかの行動は起こしてあげたい。
4.ロボットの命令主をかえる。
→ ロボットの所有者を変えて、ロボットを助けることはできる。
この星のロボットは、かなり高性能でとても優秀な気がする。
お互いに嬉しい判断ではあると思う。
しかしそれは、彼らの“創造主”を忘れさせることになる。
私が神だからといって、そんなことをしていいのだろうか。
どれを選んでも正しい気がするし、どれを選んでも間違っている気もする。
私は本を閉じ、静かに目を閉じた。
明日までに、答えを出さなければならない。
でも今は、静かに創造主たちに寄り添ってみたかった。
私は、もう一度プリド全記を読んでみることにした。
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