第十三話 生物学者の挑戦
対策を検討する打ち合わせは、とても難航していた。
あちこちで怒号が飛び交い、議論はすでに議論ではなくなっていた。
「古文書に記載されている技術よりもより高度な兵器はいつできる!?」
「そんな簡単にできるわけがないだと!?やるしかないんだ!化学兵器でもいい!やれ!」
「できるわけがない!間に合うわけがない!もっと現実的に考えろ!」………
自分の提案に自信を持てなかった私は、皆が怒り疲れた頃を見計らって、静かに切り出した。
「逆に……培養液に浸してみてはどうか?」
「それは、いつからできる?」
「用意はある。すぐにでも開始できる。」
「なら、さっさと始めろ。こっちは忙しいんだ。そんなことにわざわざ議会を通すな!」
疲れ切った空気の中、会話はまともに成立していなかった。
相手がこちらの話を理解しているとは到底思えなかったが、
打ち合わせの議事録には、培養液の提案が正式に許可されたことが記された。
複数人の助手とともに、急いで培養液をかき集め、卵のある洞窟に向かった。
議事録のおかげで、予算も人手も集まり、一般人が立ち入れない洞窟にも、問題なく入ることができた。
地中深く、静寂に包まれた広大な空洞。
ところどころ、マグマが赤く光り、闇をそっと照らしている。
空洞の中央付近に、ぽつんと置かれた卵。直径はおよそ50センチ。
卵からは根のようなものが伸び、地面にしっかりと絡みついている。
――古文書に記された通りだった。
助手たちと手分けして、装置を組み立てる。
卵の周囲にガラスを組み立て、培養液を注ぎ込む。
漏れを防ぐため、ガラスと地面の境目を溶接する。
培養液は地面に染み込み、徐々に減っていくため、都度補充した。
何も変化がないという観察が続く。観察記録といえば培養液の補充量ぐらい。
あまりにも変化がないため観察場所に電灯を設置したり、椅子を作ったりしていた。
培養液や電池、食料の追加をお願いした助手に、地上の様子を聞いてみる。
打ち合わせは、すでに行われなくなっているらしい。
あるものは地球の反対側へ逃げ、あるものは飛行機にのり、そしてあるものはシェルターに避難した。
これらの情報は、混乱を避けるため、一般には伏せられているようだ。
卵を壊す部隊が現れない代わりに、助手たちは最期まで私の研究に付き添ってくれるようだ。
本当は少し心細かった。助手たちが残ってくれてとても心強いし、何より退屈しないで済みそうだ。
古文書について語り合うことにしよう…。
私は、助手たちに聞いてみた。
「解読された古文書読んでみましたか?」
「はい、もちろん。とても不思議な物語でした…。地球消滅という恐ろしさの一方、とても好奇心が掻き立てられました…。」
「わかる…。過去の失敗がたくさん描かれていて、興味深かったというか…。なんかこの場所に誘い込まれた気がします…。それに…。」
「それに…?どうぞ続けて。」
「もし、神様がいるとしたら、多分とても真面目なんだろうなって…。」
「それ、自分も思いました。普通の古文書に比べて読みやすかったんですよね…。私たちにあわせて書いてあるような…。」
「ずっと言い伝えられてきた物語みたいな気がしました…。」
私は、助手たちの感想を聞き、にっこり笑って言った。
「神様はずっと気ままな存在だと思っていましたが、私たちのことをよく知らべ、私たちに合わせて古文書に記載する…。
とても苦労している存在なのかもしれませんね…。」
助手たちは黙ってうなずいた。
その後、もし神がいたらどんな人なのか予想しあった。
神様がいたらどんな人なのか、どんな性格なのか、そして、男ばっかりの深夜の洞窟で、どんな美人なのかを予想しあった。
ひと月ほど経過しただろうか。卵に、少しずつ変化が現れた。
「この研究も、そろそろ終わりそうですね。」
助手たちは、神妙な顔で会話していた。
やがて、卵の表面に細かなひびが入り、殻が静かに割れはじめる。
中から現れたのは、小さなドラゴン。
その幼い姿にはどこか愛らしさがあり、目はまだ閉じられている。
体を伸ばしたり、ねじったり、ぎこちなく動かしている。
――記された通りに現実が進んでいく。
「こんな小さなドラゴンが、地球を消滅させるなんて……」
やがて動きが落ち着き、そっと目を開く。紅い瞳が、微かに光る。
きょろきょろと辺りを見回すと培養液を飲んでいるようだ。
飲み終えるとかわいらしくげっぷをする。
「んっ?古文書の記載と違うようだ。もしかしてうまくいったのか!?」
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