第十一話 化学者の気づき
私はミシェル。化学者をしている。
近頃、世間がざわついている。
昨年発掘された古文書に記載の通りの卵が見つかったらしい。
世界が終焉するという疑わしい古文書ではあったが、急に信じる人が増えてきた。
学者である私には無関係だと思っていた。
だが、兵器では効果がないと古文書に記されていたため、広く意見を求められることとなった。
とりあえず、解読された古文書を読んでみる。
兵器では傷一つ付けられていない。地球を消滅させた後宇宙をさまようのだろう、卵も、体も、頑丈なようだ。
地球を消滅させるほどのエネルギーを、一体どうやって確保しているのか。
そうか、卵に生えている根だ。
とすると……。
私は、毒の使用を提案してみることにした。
ほどなくして、毒の使用が認めらた。
兵器が無力である以上、多少環境に悪影響があるとしても毒を試すほか無いようだ。
私は提案者として軍隊についていくことにした。
地中深く、静寂に包まれた広大な空洞。
ところどころ、マグマが赤く光り、闇をそっと照らしている。
空洞の中央付近に、ぽつんと置かれた卵。直径はおよそ50センチ。
卵からは根のようなものが伸び、地面にしっかりと絡みついている。
――古文書に記された通りの場所だった。
私も含め、全員がガスマスクと防護服を着用している。
あらゆる毒薬、化学兵器が次々と試されていく。
効果があるのかないのかわからない…、時間ばかりすぎていく。
やがて、卵の表面に細かなひびが入り、殻が静かに割れはじめる。
中から現れたのは、小さなドラゴン。
――どうやら毒による効果はなかったようだ。私は少し落胆した。
その幼い姿にはどこか愛らしさがあり、目はまだ閉じられている。
体を伸ばしたり、ねじったり、ぎこちなく動かしている。
やがて動きが落ち着き、そっと目を開く。白い瞳が、微かに光る。
んっ?白い…?古文書によれば瞳は紅かったはずだ。
幼いドラゴンは目に映るものには興味がない様子で、辺りに息を吹きかける。
ここも違う。ドラゴンはあくびをするはずだった。それにだんだん熱くなってきている。息は、熱風のようだ。
近くの兵士が「熱すぎる」とガスマスクを外した。着用している防護服はあまり耐熱性能はないようだ。
毒が充満しているこの洞窟で、すぐに毒の影響が出ると思ったが――意外にも、兵士は平然としている。
もしかして――毒が、息によって中和されたのか?
試しに少しだけ、ガスマスクを外してみる。……平気だ、やはり毒は中和されているようだ。
なぜ中和する必要がある?もしかして、ドラゴンは地球の消滅が目的ではない?
中和――これは、重要な気づきかもしれない。
もし古文書の通り地球が繰り返しているのであれば、我々には解決できなかったが、未来に託す価値があるかもしれない。
幼いドラゴンは姿勢を正し背筋を伸ばすと、体全体が淡く光を放ち始める。
我々にはもう時間は残されていないようだ…。
ミシェルは古文書に記載されていた神の存在に望みをかけ、両手をつなぎ祈りを捧げることにした。
「神様、このドラゴンは、意図的に毒の中和を行っております。このことを後世にお伝えください。」
最期の瞬間、光の中に、うっすらと女神のような立ち姿が見える。
両手を胸の前で祈るように握り、顔を伏せ、唇をかみしめている。
「後世には必ず伝えます。ありがとう。そしてごめんなさい。」
次の瞬間、地球は消滅した。
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