表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

堀籠短編集

短編版:門番の俺のスキルが【見送る】だけのゴミスキルだったので、真面目に定年まで勤め上げたら、いつの間にか国を救っていた件

ハズレスキルもの、ってのもPV稼げるジャンルだよな。 でも、どうせなら徹底的に地味で、役に立たないスキルが最強だったら面白いだろ?派手な戦闘や魔法はない。ただ、おじいさんが真面目に仕事してるだけ。そういう話が、俺は好きなんだ。

 俺、ヨハン、六十四歳。王都の東門を守る、ただの門番だ。この道、五十年。雨の日も風の日も、俺はこの門に立ち続けてきた。

 この世界では、誰もが神から与えられた「スキル」を持つ。剣聖、大賢者、聖女。人々はそれぞれのスキルを磨き、立身出世を夢見る。そんな中、俺のスキルは【見送る者】。……ただ、それだけだ。

 スキルの効果は単純。この門から旅立つ者たちの背中を見送り、「いってらっしゃい」と声をかける。それだけ。戦闘力は皆無。生産性もない。おかげで、万年平門番。同僚からは「ヨハンの爺さんのスキルは、世界一のゴミスキルだな!」と笑われ続けてきた。

 定年を明日に控えた、ある日のことだった。

「じゃあ、行ってきます!」

 元気よく声をかけてきたのは、まだあどけなさの残る新米冒険者の少女だった。聞けば、初めてのクエストで、ゴブリン退治に行くのだという。その瞳は希望に満ちていたが、握りしめた剣は小刻みに震えていた。

 昔の自分を思い出した。大きな夢を抱いて王都に出てきた、あの頃の自分を。俺は、いつの間にか忘れてしまっていた感情のままに、心から少女に声をかけた。

「お嬢ちゃん、気をつけてな。あんたの旅路に、幸運があることを祈ってる」

 その瞬間、脳内に懐かしい声が響いた。

《ピーン!スキル【見送る者】のレベルが2に上がりました》

《新たな能力『旅人の靴紐が、少しだけ解けにくくなる』を獲得しました》

 ……は?

 五十年、うんともすんとも言わなかったスキルが、今、レベルアップした?しかも、獲得した能力、しょぼすぎないか?

 だが、俺の中で何かが変わった。もしかしたら、ただ見送るだけではダメだったのかもしれない。心からの「祈り」を込めてこそ、このスキルは意味を成すのではないか?

 次の日、俺は定年返上を申し出た。もちろん、皆に笑われた。だが、俺は気にしなかった。

 それから、俺は祈りを込めて、全ての人々を見送り続けた。

 キャラバンを組む商人には、「道中ご安全に。商売繁盛を祈ります」。

《ピーン!レベルアップ!『荷馬車の車輪の軋む音が、少しだけ静かになる』を獲得!》

 吟遊詩人には、「あなたの歌が、多くの人の心に届きますように」。

《ピーン!レベルアップ!『リュートの弦が、ほんの少しだけ切れにくくなる』を獲得!》

 故郷に帰る若者には、「達者でな。ご両親によろしく」。

《ピーン!レベルアップ!『道中の弁当が、気持ちだけ傷みにくくなる』を獲得!》

 俺のスキルのレベルは、面白いように上がっていった。だが、得られる能力は、どれもこれも、言われなければ誰も気づかないような、地味で、些細なものばかり。

 しかし、不思議なことが起こり始めた。

「東門から旅立つと、なぜか旅がうまくいく」

 そんな噂が、まことしやかに囁かれ始めたのだ。俺が見送った商人たちは皆、大きな利益を上げて帰ってきた。冒険者たちは、危険なクエストでも、なぜか致命的な危機を回避できた。東門は、いつしか「幸運の門」と呼ばれるようになり、人々はわざわざ俺に見送られるため、長い列を作るようになった。

 そして、俺が門番になって六十年。スキルレベルが99になった、その年。

 魔王軍が、大挙して王国に侵攻してきた。

 絶望的な戦力差。王国中の騎士、兵士、そして冒険者たちが、国の命運を背負い、東門から出撃していく。俺は、その一人ひとりの顔を見ながら、これまでで最も強く、深く、祈りを込めて声をかけた。

「皆、武運を祈る。必ずや、生きて帰ってこい」

 その時、脳内に、今まで聞いたこともない壮大なファンファーレが鳴り響いた。

《ピーン!スキル【見送る者】がレベルMAXに到達しました》

《究極能力『見送られし者たちよ、汝らの道行きに、決して迷いはない』が発動します》

 その意味を、俺は知る由もなかった。

 数週間後。王国に、勝利の報せが舞い込んだ。

 奇跡的な圧勝だったという。魔王軍が得意とする、幻惑魔法や大規模な転移トラップが、なぜか一切機能しなかったらしい。王国軍は一切の混乱なく、最短距離で敵の中枢を叩くことができたのだと。

 王様も、将軍も、誰一人として、その理由が分からなかった。

 ただ一人、俺を除いては。

 今日も俺は、東門に立つ。旅立つ若者の背中に、そっと声をかける。

「いってらっしゃい。達者でな」

 世界を救った力は、今日も、旅人の靴紐が解けないように、ささやかな奇跡を起こし続ける。

【ご好評につき、長編化!】

長編はこちら

↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

https://ncode.syosetu.com/n3392ks/


レベルアップしても靴紐が解けなくなるとか、くだらなくていいだろ?でも、そういう小さなことの積み重ねが、大きな力になるんだよな。人生みたいで。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感動した。 ただ、このじいちゃん引退したらスキル発動することもなくなり、小さな不幸再発しそう。 「小さな不幸に対処する」経験不足でやばいこと起きるんだろうな。
誰も自分の幸運を誰がもたらしたのか気付いてないけど、そのことに嘆くわけでもなく、むしろ誇りにさえ思ってそうな主人公めちゃめちゃカッコイイって思いました! 年齢なんて関係なく自分の磨き方を知って誰かの役…
あ、ヤバい。仕事中なのに泣く。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ