短編版:門番の俺のスキルが【見送る】だけのゴミスキルだったので、真面目に定年まで勤め上げたら、いつの間にか国を救っていた件
ハズレスキルもの、ってのもPV稼げるジャンルだよな。 でも、どうせなら徹底的に地味で、役に立たないスキルが最強だったら面白いだろ?派手な戦闘や魔法はない。ただ、おじいさんが真面目に仕事してるだけ。そういう話が、俺は好きなんだ。
俺、ヨハン、六十四歳。王都の東門を守る、ただの門番だ。この道、五十年。雨の日も風の日も、俺はこの門に立ち続けてきた。
この世界では、誰もが神から与えられた「スキル」を持つ。剣聖、大賢者、聖女。人々はそれぞれのスキルを磨き、立身出世を夢見る。そんな中、俺のスキルは【見送る者】。……ただ、それだけだ。
スキルの効果は単純。この門から旅立つ者たちの背中を見送り、「いってらっしゃい」と声をかける。それだけ。戦闘力は皆無。生産性もない。おかげで、万年平門番。同僚からは「ヨハンの爺さんのスキルは、世界一のゴミスキルだな!」と笑われ続けてきた。
定年を明日に控えた、ある日のことだった。
「じゃあ、行ってきます!」
元気よく声をかけてきたのは、まだあどけなさの残る新米冒険者の少女だった。聞けば、初めてのクエストで、ゴブリン退治に行くのだという。その瞳は希望に満ちていたが、握りしめた剣は小刻みに震えていた。
昔の自分を思い出した。大きな夢を抱いて王都に出てきた、あの頃の自分を。俺は、いつの間にか忘れてしまっていた感情のままに、心から少女に声をかけた。
「お嬢ちゃん、気をつけてな。あんたの旅路に、幸運があることを祈ってる」
その瞬間、脳内に懐かしい声が響いた。
《ピーン!スキル【見送る者】のレベルが2に上がりました》
《新たな能力『旅人の靴紐が、少しだけ解けにくくなる』を獲得しました》
……は?
五十年、うんともすんとも言わなかったスキルが、今、レベルアップした?しかも、獲得した能力、しょぼすぎないか?
だが、俺の中で何かが変わった。もしかしたら、ただ見送るだけではダメだったのかもしれない。心からの「祈り」を込めてこそ、このスキルは意味を成すのではないか?
次の日、俺は定年返上を申し出た。もちろん、皆に笑われた。だが、俺は気にしなかった。
それから、俺は祈りを込めて、全ての人々を見送り続けた。
キャラバンを組む商人には、「道中ご安全に。商売繁盛を祈ります」。
《ピーン!レベルアップ!『荷馬車の車輪の軋む音が、少しだけ静かになる』を獲得!》
吟遊詩人には、「あなたの歌が、多くの人の心に届きますように」。
《ピーン!レベルアップ!『リュートの弦が、ほんの少しだけ切れにくくなる』を獲得!》
故郷に帰る若者には、「達者でな。ご両親によろしく」。
《ピーン!レベルアップ!『道中の弁当が、気持ちだけ傷みにくくなる』を獲得!》
俺のスキルのレベルは、面白いように上がっていった。だが、得られる能力は、どれもこれも、言われなければ誰も気づかないような、地味で、些細なものばかり。
しかし、不思議なことが起こり始めた。
「東門から旅立つと、なぜか旅がうまくいく」
そんな噂が、まことしやかに囁かれ始めたのだ。俺が見送った商人たちは皆、大きな利益を上げて帰ってきた。冒険者たちは、危険なクエストでも、なぜか致命的な危機を回避できた。東門は、いつしか「幸運の門」と呼ばれるようになり、人々はわざわざ俺に見送られるため、長い列を作るようになった。
そして、俺が門番になって六十年。スキルレベルが99になった、その年。
魔王軍が、大挙して王国に侵攻してきた。
絶望的な戦力差。王国中の騎士、兵士、そして冒険者たちが、国の命運を背負い、東門から出撃していく。俺は、その一人ひとりの顔を見ながら、これまでで最も強く、深く、祈りを込めて声をかけた。
「皆、武運を祈る。必ずや、生きて帰ってこい」
その時、脳内に、今まで聞いたこともない壮大なファンファーレが鳴り響いた。
《ピーン!スキル【見送る者】がレベルMAXに到達しました》
《究極能力『見送られし者たちよ、汝らの道行きに、決して迷いはない』が発動します》
その意味を、俺は知る由もなかった。
数週間後。王国に、勝利の報せが舞い込んだ。
奇跡的な圧勝だったという。魔王軍が得意とする、幻惑魔法や大規模な転移トラップが、なぜか一切機能しなかったらしい。王国軍は一切の混乱なく、最短距離で敵の中枢を叩くことができたのだと。
王様も、将軍も、誰一人として、その理由が分からなかった。
ただ一人、俺を除いては。
今日も俺は、東門に立つ。旅立つ若者の背中に、そっと声をかける。
「いってらっしゃい。達者でな」
世界を救った力は、今日も、旅人の靴紐が解けないように、ささやかな奇跡を起こし続ける。
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レベルアップしても靴紐が解けなくなるとか、くだらなくていいだろ?でも、そういう小さなことの積み重ねが、大きな力になるんだよな。人生みたいで。