3 前世の記憶
目が覚めると、何の変哲もない天井が見えた。
見慣れた、自分の部屋の天井だ。
カーテンの隙間から朝日が差し込み、机の上には昨日開きっぱなしにしていたラノベや数学の参考書などが無作為に置いてある。
「・・・また寝落ちしてたか」
高校二年の春。学校と家を往復するだけの、ありふれた日常。
勉強もそこそこ、運動も人並み。放課後はすぐ帰宅してラノベを読みふける。
将来のことなんて特に考えず、ただなんとなく時間を過ごしていた。
こんなに平凡な俺だが、それでも中世ヨーロッパに興味があるという個性がある。
騎士や貴族の生き様、戦争や外交の駆け引きー考えるだけで身震いする。
だがそれらは全て現実の自分とは無縁の世界で、俺が生きるこの星は大変退屈だ。
「俺の人生、ずっとこんな感じで続くのかな……」
ふとつぶやきエモーションな気持ちに浸ろうとしたが、時計を見るとそう暇でもないことが思い出された。
急いで制服に着替え、朝食を流し込む。
春の風が吹き抜ける住宅街、制服姿の生徒たちが同じ方向へ歩いていく。
ふと、横断歩道で立ち止まる。信号は青。
何も考えず、歩き出した、まさにその時だった。
視界の端で、大型トラックが迫ってくるのが見えた。
耳をつんざくクラクション。だが、身体は動かなかった。
(あ、これ……やばいな)
刹那。全身を激痛が貫き、視界がぐるりと回る。
次に感じたのは、冷たいアスファルトの感触と、遠ざかる人々の声。
(俺、死ぬのか……?)
ぼんやりとした意識の中、なぜか「意外とあっけないな」と思った。
そして、最後に浮かんだのは――
(もうちょっと、面白い人生がよかったな……)
その願いが聞き入れられたのかどうかは知らない。
ただ一つ言えるのは俺が異世界の貴族ーハンス・マルクスーに憑依したということだけだ。
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