慌ただしい朝
「ご主人様、起きてくださいにゃ」
優しそうな声が聞こえてきた。
この声の主は俺と同じ14歳の奴隷、オリビアだ。
俺は口を開く。
「おはよう。オリビアは今日も可愛いな。」
「そ、そんなこと言っても起きてもらいますからにゃ!」
「もう少しくらい寝かせてくれよ。」
「ご主人様が起きなくて怒られるのは私なんですよ。は・や・く起きてくださいにゃ!」
「はいはい」
オリビアに背中を押され、俺は渋々起き上がる。
しかし、本当に可愛い。
肩まで伸びている紫の髪からは微かに柑橘類のにおいが漂っており、
頭頂からは二つの猫耳が顔をのぞかせている。
すらっとした体は胸こそ大きくはないが、女性特有の丸みを帯びており、お尻から生えている尻尾が彼女の感情を表すかのようにゆさゆさと動いているという光景はこの世界でしか見ることができないものであろう。
猫人族と人族のハーフである彼女は俺の奴隷兼世話係であり、ただの奴隷と主人という以上の関係性を築けたと思っている。
俺は立ち上がり服を脱ぎ始めと、彼女は口を開いて
「ちょっと、おぼっちゃま、着替えるのは私が出て行った後にしてくださいにゃ!」
しっぽをピンと立て、顔を赤面させた彼女は持ってきたカゴを置いて急いで部屋から退出し、俺はカゴの中に用意された服を手に取った。
高級感と上品さを兼ね備えているその服には黒を基調とした服に金色の刺繍が施されており、正に貴族の服といった様子だ。
俺はオリビアのことを思い出してニヤニヤしながら、ゆっくりと服を身にまとった。
貴族の服。そう、俺はこの世界で貴族の息子として生まれたのだ。
それも、ただの貴族ではない。
俺の家、「マルクス辺境伯」は、我らが王国と仮想敵国たる帝国との国境にある伯爵家であり、かつては王家に次ぐ軍事力を誇る大軍を擁していた・・・らしい。
というのも帝国と王国が停戦協定を結んではや百年、我が故郷は戦争どころか紛争も経験したことがない領民が大半を占めるようになっていた。
それゆえに、俺たちマルクス家の役割も大きく変わった。
戦のない時代に大軍は不要とされて我が家の兵力は数十分の一にまで縮小し、軍馬が駆けていた訓練場は畑に、かつて城砦だった要塞は商人たちの宿場町へと姿を変えた。
帝国と戦うために作られた辺境伯領は、皮肉なことにむしろ帝国との貿易の要衝として機能している。
俺の住む城も、いまや軍事拠点というより行政の中心と化していて、かつて戦の指揮が執られた広間は、商人が自由に出入りすることが可能になっており、彼らが取り扱う品物も野菜から奴隷まで様々なものがあった。
「よいしょ。」
一通り朝の用意を済ませた俺は朝食をとるため、廊下へと出た。