得意気のドヤ顔
「出来ましたわ!!」
アリシアは我ながらよくやったと少し得意気になる。学園で食べた温かく柔らかいパンが忘れられず、ちらりと見えた厨房の設備を応用したのだ。
大きな機械の中にはオレンジ色の暖かな空気をまとっているようだった。
「貯蔵庫を暖かくした感じだったと思うのよね」
ハムやソーセージといった保存食は冷たい空気を閉じ込めた空間に保管される。
それの逆をしてみたのだ。保存食には向いていないが、調理したものの温かさを保つ目的として使える。あの日、朝作ったパンが昼間でも出来立てのように感じたのは、きっとこの仕組みに違いないと、アリシアは何度も試してみたのだ。
「まったく、塔の中では継続した攻撃魔法は使えないから苦労しましたわ」
外で粉砕した岩のかけらを電動ノコギリでけずるようにある程度形を整え、少しずつかまどをつくっていった。その中を塔が弾くぎりぎりの高さの温度まで保てるように調整したのだ。
このぎりぎりの調整に苦労した。
高すぎると無効化され、低すぎれば意味がない。
かまどの中の密度を高めるに比例して、より高温でも大丈夫なようだった。
どうやらかまどの中は、別の空間として扱えるらしい。
これで料理を温める、以外にも簡単な調理はできそうだ。
「全く、あの方のせいで学園に行くのがより行きづらくなりましたもの」
ただでさえ私服の、それも質素な服装のアリシアは目立つというのに、あんな顔の整ったエドルドが隣を歩いては、注目は避けられない。
「あの方って、もしかしてぼくのことかな?」
突然、背後から話しかけられる。
アリシアは咄嗟に、拳パンチを振り向くと同時にお見舞いする。
いや、したはずだった。
塔が無効果するよりも素早く、短時間で発動させる拳パンチは、物理攻撃を極めたものだ。
だから、それをまともに喰らえばゴーレムですら一瞬で粉々に砕かれる。
というより、一瞬でかたをつけなければならない。
なのに、まともに当てたはずの手応えはなく、それどころか威力を一瞬で無効化された。
賢者がつくったこの塔よりも、早い反応速度で無効化されたのだ。
その事実にも驚きだが、目の前に立つ相手に更に驚く。
「……っと、やっぱり無力化の防護、極めておいて正解だったね」
そう言って、得意気に笑っているのは
「エ…エドルド…様…?」
間違いなく、エドルドだった。