似たもの親子
「ご馳走様でした」
温かいクレープ生地に、粉砂糖をまぶしたデザートまでしっかりいただいた。
久しぶりの甘味ですもの。
抗えませんでしたわ。お父様、ごめんなさい。
アリシアは心の中で懺悔する。
食事代は父の給与から引かれるだろうから、あまり贅沢はできない。ここに来る回数は控えなければと、気を引き締めなおす。
「……それでは私はこれで失礼します。」
やはり塔のキッチン事情をなんとかしたいところだ。有害と認識されなければ問題ないのであれば、突破口はあるはずだ。
なにより、この学園を歩き回るのはやはり避けたい。
今日の食事を糧に、またしばらくは頑張れそうだ。
「アリシア・フロン・ハッベルト嬢」
フルネームを呼ばれ、ギョッとする。
その声色はすこぶる穏やかだ。
「僕はエドルド…エドルド・ログ・ディフェンサだ。今更ですが、レディの対応を間違えてしまいました。先に無礼を働いたことを許して頂きたい。高度な魔法の連発に、つい興奮してしまいました」
先ほどまでのなれなれしい態度とは一変、胸に手を当て、誠意を示した紳士的な態度に、ついたじろいでしまう。
「いえ、こちらこそ、失礼がありましたので」
先ほどの無礼とは、きっと肩をつかまれたことだろう。
近い距離感を思い出し、頬が熱くなる。
とりあえず、私の挨拶は問題なかったということなのかしら。
内心、自信喪失していたため、エドルドの対応に安堵する。
「良かった」
アリシアの返答に、顔をほころばせる。
〜〜っ!?
この方、やはり危険ですわ。
不意打ちをくらい、動揺した気持ちを鎮める。
やはり、しばらくはこちらに来ることは控えようと新たに決意したアリシアだった。
「お父様……」
夕食時、今日会ったエドルドについて聞こうとしたところで口を閉じる。
学園内で生徒を叩きのめそうとしたくだりを知られてはまずい。それに初対面の殿方と結果的に2人で食事をとったとなれば、少しはしたない気もしてきた。
エドルドは父について知っているような口ぶりだったが、いつもと変わらない様子からみて、おそらく何も知らないとみえる。
「なんだ?」
口を閉ざしたままだった為、書物を片手に、かたいパンを口にする父が顔をあげる。
よし、今は言わない方が賢明ですわね。
「今日は食堂で食事できるよう手配してくださり、ありがとうございました」
「……あぁ」
また書物に目を戻し、いつもと同じように、1人の世界に入る父に、私もお父様の娘だわ。今日はすぐ考え事ばかりして、周りが見えてなかったですもの。
なんとなく、父との絆を感じた気がした。
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