あふれ出る才能
魔法陣に魔力を込める、今度はワインを対価に、具体的に何と交換したいか想像する。この過程はホア爺とのやりとりで慣れていた為スムーズだ。
――――やっぱり、ワインにはチーズが合いますわね、初めて食べましたが、塔でホア爺様が出してくれたあのモラツチーズ……本当に美味しかったですわ。
などとつい、余計なことを考えてしまう。魔法陣が輝く。
「すごいな、一発目で陣が発動したぞ……」
出てきたのはモラツチーズ、そしてそのままワインが残っていた。
「これは……送り忘れでしょうか」
「対価が送られてない……術式が書き換えられているようだ」
一から魔法陣を書いた本人が見なければ分からないほどごくわずかな変化があった。彼女の魔法は魔法陣そのものに影響を与え、彼女の望む術式に書き換えてしまっていた。
「アリシア嬢、これはただの移動魔法ではない」
エドルドの扱う移動魔法は、あくまでも自身の触れているもの、もしくは視界にあるものを行ったことのある場所へ移動する限定的なものだ。
対価なしで欲しいものを手に入れられる。これが公になれば、王も大臣も喜んで彼女を迎え入れるだろう。そして、国外に彼女が連れて行かれることを恐れ、城の厳重な警備のもと一生匿われた生活を送ることになる。
「……これは、君に使わせるわけにはいかない」
「えぇ」
幸いなことに、アリシアだけでまだこの術式を書くことは出来ない。彼女に移動魔法を教えることを諦めれば、間違えて発動させてしまった……ということも避けられるだろう。
「別の方法を考えよう……」
「そうですね」
困った……何をしても、術式が書き換えられる。
「こんなこと、今まではなかったのですが……」
「自覚していなかったこともあるだろうが……こんなに暴発するのは……恐らく塔での生活と僕や父殿の魔力を入れ替えさせたことも理由だろう」
禁忌魔法には様々な知られていない副作用がある。短期間に器を空にし、エドルドや父の魔力を入れたことが、アリシア自身の隠れた才能を暴走させていると考えられる。
「では……人前では魔法はもう使えませんわね」
「…………」
まずい状況だ。魔法もろくに使えないとなれば、側室すら叶わない。
「一旦休憩しましょうか……」
「すまない」
もしかしたら、アリシアは自分と一緒にならない方が幸せなのかもしれないと落ち込む。才能を隠さず、このまま自由に振る舞った方が、彼女は歴史に残る魔法使いとして生きていけるはずだ。その才で国と交渉した方が有利になる。エドルドの妻となれば、しがらみも多いだろう……
「それで? 私がお茶を出すのかい?」
当たり前のように管理人のお茶タイムにお邪魔するエドルドに、アリシアはキッチンを使わせてもらえないか確認するが……
「あぁ、それを貰えるなら喜んでおもてなしするよ」
アリシアが出したチーズ、そしてワインを指さす。
「あれ……そういえば、管理人さんなんだか雰囲気が……」
顔のむくみが少しだけ取れ、声の枯れ具合もクリアになったような感じがする。
「指輪をしてないからね……」
魔石の大量使いは副作用が出る……それが今はない状態だから、その影響がなくなってきているということなのだろう。
「影響がなくなってきているのか……そうか……その方法があったか!!」
「?」
「塔の、塔の中で思う存分魔法を使えば良いのだ」
「それはどういう……」
「前も話したが、塔には賢者からの制限魔法があって高貴な身分の者ほど入れない……だが、君がいれば、それも可能になるかもしれない。しかも、君は住人として認識されている。君と同行のもとであれば、トラップのリスクも避けられるだろう?」
「そうかもしれませんが……それが何か役に……」
「あそこは我が国の知識の象徴……身分の高い者でも、そこにある書物を学びたいと志高い者も多い。君の父が妻を助けたいと治療魔法の書を求めたのと同様に、塔に入りたいと望む者は多い。もし、君がそれを可能に出来るならば、それはこの国の大きな力になる」
賢者の作った塔であれば、アリシアが魔法を使っても、全て賢者の残した術式の影響と思ってもらえるだろう。アリシアのおかげで塔に入れるとなれば、彼女を尊重する者も出てくるはずだ。
「なにか分からんが、お前となら塔に入れるのかい?」
思わぬところで管理人が口を挟んできた。しまった、つい勢いで話してしまったが、管理人の前で話して良かったのだろうかと、一瞬考える。
「別に興味はない。だけど、もし塔に入れるのなら……私で試すのも悪くないだろう?」




