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若い2人の未来


「…………分かった、香は監査官より報告を受けている。塔に関しての攻撃行為およびアリシアちゃ……ハッベルト令嬢に対する危害、寮での管理人からの報告と併せてバージニア家に調査通達をしよう」


 ロナルドは、点滴を受けたままハッベルト父が診る療養室で一連の報告を受ける。


「それで? 報告通りならその鎮圧に成功した後も数時間塔に2人きりで留まっていたのは、安全の確認のためだけということで間違いないんだな?」



 ロナルドに嘘は通じない。厳しい眼差しがエドルドを捉える。これでは報告を受けているのか、尋問をしているのか分からない。


「いいえ」


 エドルドの返事に、アリシアも思わずどきりとする。まさか、父の前で何をしていたか言うつもりなのか……



「いいえ、とは?」


 ロナルドが鋭い視線を外さない。1ミリの偽りも逃さない意気込みを感じる。


「……父殿、僕は王位継承の資格を失い、婚約候補の条件は全て白紙となる身です。もちろん、解決すべき問題もまだありますが、エドルド・ログ・ディフェンサとして……お嬢様との婚約をお許し頂きたい」


「かはっ……」

「…………」

「〜〜〜〜っ!?」


 エドルドの申し出に、ハッベルトは黙る。もちろん、アリシアも驚きだった。好きと言われたその時から、終わりのある関係だと覚悟していた。彼が王族の血を引くことには変わらない、更に高度な魔法がこれだけ使えるのだ。それだけで、彼との結婚を望む者はいくらでも現れるだろう。



「…………エドルド君、恋愛感情だけで夫婦になる2人には、世間の風当たりは厳しいものだ」


 それは、母に恋をし、身分無相応な結婚をした父ならではの言葉だった。


「2人の問題だけではない、その子どもにも苦労をさせることになる。それは……君が大丈夫だと守ろうとしても、避けられない問題だ……アリシアは、君の未来をつぶした妻だと、社交界で一生の重荷を背負うことになる…………もし、君がアリシアをそれでも受け入れてくれるというならば、正妻ではなく、側室にという選択肢もある」




 父の言葉に、アリシアも静かに聞いていた。弱小貴族のアリシアでは、どう頑張ってもエドルドと肩を並べることは出来ない。彼ほどの地位があれば、時間をおいて側室になる方法が最も現実的なのだ。それだけでも、アリシアの家柄を考えれば、名誉なことといえよう。


 ハッベルトを見つめるロナルドもまた黙って聞いていた。父として語る彼の本音が嫌でも分かってしまうからだ。その口から出る言葉は全て、アリシアとエドルドの未来を気遣う本音であり、彼の提案には娘を傷つけるかもしれないという恐れを感じる。2人が想い合っているのは家系魔法で見なくても分かる……その2人に、幸せにはなれないと伝えるその心情は、友人として耐えられないものであった。



「…………父殿、今の僕ではお許し頂けなくて当然です。お嬢様を想う気持ちが先走りすぎてしまいました……必ず、認めていただけるその日まで、しばらくお時間をいただきたい」


「…………」




「アリシア嬢、もう少し待っていてくれないか? 必ず君が辛い思いをしないで済むように方法を見つける……」


 片膝をつき、アリシアの手をとるその姿は、守ると約束してくれたあの日と重なる。



「〜〜〜〜っ」


 小さく、首を縦にうなずく。





 それは、アリシアが初めて父の意向を無視し、自分の意思で応えた瞬間だった。







「ロナルド先生」


「おうっ!?」


 急に話しかけられ、驚く。まさか、ここで自分に話がふられるとは思わなかった。


「というわけで、やるべきことが山積みです。退室しても?」


「あぁ…………」



 エドルドはアリシアの手を取ると、一礼をし、部屋を出た。


 

「昔のお前を思い出すな……」


「…………」





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