素晴らしき両思い
エドルドはアリシアの手を取る。
「アリシア嬢……平気か?」
カレンの幻覚魔法は、ロナルドが打ち消してくれたが、念の為、アリシアの体調を確認する。短期間で何度も香を嗅いでいる場合、短時間でも影響が出やすいのだ。エドルドは、幼少の頃から毒や幻術への耐性訓練をしてきた。その為、比較的免疫がついている。
「なんだか、くらくらしますわ……」
「今日はもう休んだ方がいいだろう……救護室は……他の手当が必要な者であふれているな。塔も危険だし、女子寮は……おそらくバージニア嬢の部屋が空いているが、嫌だよな……お父上に相談…」
アリシアはエドルドの襟元をつかみ、甘えるようにすり寄る。
「…………エドルド様の……お部屋に行きたいです」
「〜〜〜〜っ!?」
慌ててアリシアを離す。すると、急に離され涙目でこちらを見ている。
「ダメですか……? 早く、横になりたいです……」
お互いに好きだと伝え合ったとはいえ、急な甘えに衝撃を受ける。
「ダメでは……いや……ダメだろう……あそこは男子寮だ。レディを入れるわけには……」
「以前も寝室に寝かせてくれたではありませんか……」
「あれは、緊急事態で……」
「今は違いますの? 私……家に帰れませんのよ」
何かが爆発するような衝動が走る……両思いとは、こんなに、甘美なものなのか? ピッタリと身体をくっつけるアリシアに鼓動がこちらまで伝わって……
「?」
エドルドにまた身体を引き離される。
「アリシア嬢……幻覚魔法にかかっていたのか……」
ロナルドが跳ね除けたというのに、まだ回復したばかりのアリシアには既に術が成功しているようだった。こんなに身体を密着させているというのに、アリシアの鼓動はむしろリラックスしているような速さだった。幻覚をかけられている者特有の症状だ。
「……恐ろしい効果だな。ここが皆の前でなければ、勘違いするところだった……」
幸い、魔術の元は解除しているため、気を沈める煎じ薬でなんとかなりそうだ。
「もう大丈夫か?」
「……はい」
バージニア家の幻術は、記憶が残る。そのため、罪悪感や不本意なことをしてしまった羞恥心から元の生活に戻れなくなる者が出るリスクがあるため、扱い方には厳重さ、モラルが求められる。おそらく、カレンの今回の罪が正式に裁かれれば、バージニア家が表に出てくることはなくなるだろう。
アリシアはその恥ずかしさから、エドルドの顔を見れないでいた。
「心配するな……不本意だったと分かっている」
軽くアリシアの頭を叩き、フォローする。積極的なアリシアが嬉しかったというのが本音だが、顔はなんとか真顔をキープする。
「……不本意というわけでも……ありません」
「っ!?」
本当に……両思いとは素晴らしいものだ。
結局、エドルドは寮に戻り、アリシアは幻術にかかっていたこともあり仮眠室を使わせてもらえた。夜中、父やミオラが様子を見にきたようだがあまりの疲労に、気づくことなくそのまま眠っていた。
久しぶりの自分の部屋に、懐かしさと寂しさを覚える。狭くても、古くても、危なくても、3人での暮らしは楽しかった。ホア爺の怪我は大丈夫だろうか。彼は立場上、王命が出ている以上魔獣を全て討伐し終わるまで帰らない。そして、ここに戻ってくる可能性もない。
「ただいま」
当然返事はない。明日からまたやる事が多い。今日はそのまま眠りについた。
「明日は、塔の問題だな」
明日になれば移動魔法も使えるようになる、大丈夫だ、策はある。そのまま、エドルドも深い眠りに落ちる。




