返事がほしい
「…………」
「…………」
学園に着くや、すぐに救護班たちに全身チェックされ、手当を受ける。アリシア自体は大きな怪我はなかったが、疲労が溜まっているからと、お薬を煎じてもらった。ミオラが作ったものに比べるとシンプルな配合のようだった。お湯で薄め、飲みやすいようにとハーブを混ぜてくれているようだ。
「飲みやすいですわ」
本来、薬草の組み合わせは基本1種類から多くても2―3種類がほとんどだ。ミオラの組み合わせが天才のなせる技なのだろう。
それでもじんわりと身体が温まるのを感じる。
エドルドの方は、何やら大事になっているようだった。目に見えるだけでも、あちこち怪我をしているようだったが、救護班たちが複数人がかりで対応している。
「これは……」
「そんな……」
「なんてことを……」
気のせいか、皆の絶句した声が聞こえる。大丈夫なのかと不安になるが、先ほどまでは話をして、動いていたのだから大丈夫だろうと信じるしかない。
「さっきだって、私と話す元気はありましたし……」
そう言って、交わした口づけを思い出し、全身から火が出そうな気分になる。
「〜〜〜〜っ」
好きだと何度も言われた。彼には立場があるはずなのに、全てを失ったとはどういう意味なのだろうか……考え込むうちに、エドルドがまだ周りが制止する中治療から戻ってきた。
「もう良いだろう、治療は十分だ。他に手当てする者を優先してくれ」
「しかし! その腕は……」
「これは自分の剣で突き刺したものだ。毒はない。それに、この印が復元することは王の名において不可能だ」
「…………っ」
王の名において……つまり、王直々に施した魔法が込められているということだ。そして、それを無理に歪めようと触れば、重く罰せられる。
「エドルド様……お怪我は……」
「……全身打撲と切り傷、肋骨を数本骨折……」
「っ!?」
「だから……少し休ませてくれ」
ゴロリとアリシアの膝に頭を乗せ、目を閉じる。
「〜〜エドルド様っ!? そんな……しっかりベッドで休まれた方が……」
「手当てはしっかり受けた。それに、ここが良い。良いだろう?」
アリシアの手の平を自らの口元へ持っていくと、軽くキスをする。そのまま甘えるように見つめ、拒否しようのない許可を求める。
「〜〜〜〜っ!!」
「嫌ではないと、同意はもらっているからな」
軽く笑い、アリシアが包帯で巻かれた左腕を心配そうに見ていることに気がつく。他は、治癒魔法を贅沢にかけられ、痛みを鈍くしてもらっている。もちろん、治癒速度を早めたのみで、完治はしていない。この世界の治癒魔法は発展途上のため、小さな切り傷を除き、大きな病や怪我をすぐに完治させる術はないのだ。
左腕に関しては、治癒魔法を使うことすら許されておらず、止血と縫合のみをしている状態だ。止血しても滲んでくる血が痛々しい。
「大丈夫ですか?」
アリシアは腕にそっと触れる。
「左腕には……王家の印があったんだ」
「っ!?」
「……それに傷をつけてしまった僕には、もうカスラーとしての権利はないんだ」
「どうして……」
そこまで言って気づいてしまった。エドルドがあの場に留まっていたのは、逃げなかったからだ。最初は、学園の衛兵たちが助けてくれたのかと思ったが、それにしてはケガが多すぎる。そして、彼は先ほど治療班に自分で刺したと言っていた。
「闘ったのですね……」
「……愚かだと思うか?」
「………」
何も言えないでいた。エドルドが闘わなければ、アリシアは生きていなかったのだから。
「分かりませんわ……でも、私はエドルド様のおかげで生きています。それに……」
「…………」
「それに、嬉しいと……思ってないと言ったら嘘になりますので……」
「ハハッ……少し素直ではない言い方ではあるな」
身体を起こし、アリシアの隣に座り右手で手を握りしめる。
「っ!?」
「……返事を聞かせてくれないか?」
「……私も好きです」
「ありがとう」
そのまま強く抱きしめる。ようやく、アリシアに気持ちを伝えられた。そして、彼女もまた自分を好きだと言ってくれた。今はそれだけで十分だ。




