特別な対応
「長期戦……」
エドルドが考え込む。
「そうか……アリシア嬢、足のリハビリを進めよう」
「?」
「グレスビーはただでさえ賢い。すぐに討伐とならないのであれば、ロナルド教授の言ったとおり、最初に刺激した僕らを狙うだろう」
「…………」
「その足では負担が大きい……必ず守るが、足が動くにこしたことはないからな」
そう言って、手を握りまっすぐ見つめてくる。
「……えぇ」
「それには賛成ですが、なぜ手を握る必要が?」
ミオラが割り込む。
「そういうのは、ちゃんと順をふんでからでは?」
無表情で圧をかける。
「…………」
「無視ですか?」
「ホア爺、救護班は薬を置いたらさっさと帰るように伝えてくれるか?」
「いや、しかし。アリシアお嬢様のお世話もあるかと……」
「僕がするので、問題ない」
「……そういえば、もうお風呂に入られたようですが?」
ホア爺の指摘に真っ赤になる。あの時は、まさか幻覚魔法を使っているとは思わなかったのだ。当分2人きりの生活を覚悟して、目隠しとタオルを巻いていたとはいえ、殿方とお風呂だなんて……
「もう……お嫁に行けません……」
ぼそりと呟くアリシアに、ミオラが目を大きく見開く。
「何をっ!? アリシアさまっ!!?」
「うぅっ……何も聞かないで」
それから、エドルドはミオラに何やら小言を言われていたが、救護班を抜けてきたのだろう。仕方なく薬の種類を変え調合し、足の状態をみて特別メニューを作って移動魔法で戻っていった。
帰り際に
「アリシア嬢を襲った輩を拘束して学園の地下に送っている。あとは任せた」
とミオラに伝えていた。
とりあえず、生きていることが分かり安堵する。
殺意があったかまでは分からない。あのまま息の根を止める勢いだっただけに、気がかりだった。
ホア爺は大量に持ち込んだ食材たちを素早く調理していき、簡易設備で可能な限りの料理をしていた。
予定外の1日ではあったが、足の固定がとれ、久しぶりの自由をかみしめる。
「まだ無理はしないように!!」
ミオラの細かいメニュー表を参考に、階段を少し上がっては足踏みするリハビリをこなしていく。その間、エドルドは側を離れず、いつバランスを崩しても支えられる距離にいる。無言の圧力を感じるが、邪魔とも言えない。結局全てのメニューが終わるまで付き添ってくれた。
「あの……」
「なんだ?」
その物言いはいつも以上に穏やかで、まるでアリシアが特別な相手として扱ってくれていると勘違いしてしまいそうになる。
「いったい何を?」
「リハビリメニューのあとは、マッサージだか?」
そう言って、ミオラのメニュー表を指差す。
「それは、お風呂に入りながら自分で出来ますので!!」




