重なる初めて
「食堂って、一体どこに……」
アリシアは少しパニックになっていた。
昨夜の話を昼までには通しておくからと、いつもより少し早く出た父に、まさか、自分のために父が時間を割いてくれるなんて、と驚愕し肝心の食事処の場所を聞くのを忘れてしまったのだ。
一体、ここに越してきてからいくつの初めてを経験しているだろう。
それくらい、今までの父との時間は希薄だった。
「それでも、一般の生徒の皆さんがお昼をとられる前にいただかなくては!」
アリシア自身、貴族の端くれではあるが、ここの生徒たちとは足元にも及ばない格差があることは分かっている。
そんな集団の中で一緒にランチだなんて、考えたくもない。
それでも、授業科目はいくつかの必須を除き、ほとんどが自由選択制のためか、自由時間を過ごしている生徒を見かけた。
私服のアリシアは制服制の中では目立つ。
遠くからでも簡単に注意を引いてしまうだろう。
なるべく…
なるべく素早く、かつ目立たないように動かなくては!
「……苦手ですが、致し方ありません」
アリシアは目を軽く閉じ、自分の周りの空気を少しずつ薄くするイメージをする。
徐々に自身と外気の境界があいまいになり、自分は空気の一部なんだと身体に錯覚させる。
少しずつ存在そのものをうすくしていく。
周りに存在感を感じさせなくさせる効果を持つ。
幼い頃、自分がいなくなれば両親が心配してくれるかもしれない。
そんな思いで練習した悲しい思い出の魔法だ。
初めて成功させた日
母が体調を崩し、家中が母にかかりっきりになっていた。
幼いながらも、自分の身の回りのことは自分でしていたアリシアに気にかける者はいなかった。
「………………っ!」
この感覚は、当時の気持ちを思い起こさせるから嫌いですわ。
「っと、あれ?高位魔法だね」
急に腕をつかまれる。
誰かに認識されれば強制解除されるため、おぼろげだったアリシアの存在は一気に戻る。
「ふーん、女の子だったんだ。面白い魔法使えるね」
しまった……
初めての事態に思考は完全に停止する。