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語らない訪問者

 アリシアはベッドに腰掛けながら、ガラスのブローチを握りしめていた。



 思いがけない形でホア爺と交流を深められたことは嬉しかった。


 意識を集中させ、お菓子をいつも作ってくれたことへの感謝や今度は自分からも何かお礼をさせて欲しいからと、好みのものを聞かせて欲しいといったやりとりをする。ガラスに魔力をそそぎ、何を伝えたいか意識を集中させると、ぽわぽわっと頭から色とりどりの光が出てきてすいっとガラス面に入っていく。


 食べ物のことばかりだと思われないかしら。と半分心配しながらも、初めて見る可愛らしい魔法につい夢中になってしまった。


 最初こそカタコトのような少ない文字が入っていくだけだったが、気づけば2時間ほどやりとりをしてしまっていた。



 ホア爺様も忙しいのに、夢中になってしまったわ。ましてや、上流階級御用達の様な魔法をこんなやりとりで多用してしまって……ホア爺様とのやりとりが楽しくてつい……



 思わず反省してしまう。



 今日は色んなことがあったわね。ミオラもまだ戻ってこないようだし……


 今までは1人の時間なんて慣れっこだったのに、なんだか寂しいわ。



 そう思いふけっていると、ドアを叩く音がする。

ミオラかと一瞬思ったが、彼女はドアに登録しているため、ノックをしたあとはすぐに自分で入れるはずだ。それとも、ドアが開けられない状態なのか……


 悩んだが、もう一度ドアを叩く音がした為、なんとかドア越しまで移動する。


「ミオラちゃんなの?」



 返事がない。迷ったが、寮には不審な者は入れないはず……そう思い、そっとドアを開けた。


「なっ!?」

 そこには全身血だらけで傷を負った娘が今にも倒れそうな状態で立っている。


「大丈夫ですかっ!?」

 まさか、グレスビーの被害に?


 慌てて駆け寄ろうとすると首を横に振り、一歩後ろへと引く。震えて怖がっているようにも見える。


「……大丈夫よ。怖いことは何もしないわ。その、とりあえず中へ入って手当をさせてくれないかしら?」


 ドアを開け、ソファの方を指差しながらなるべくゆっくりと声をかける。




 ソファにはなんとか座ってくれたが、アリシアが側へ寄ろうとすると身体を震わせ、怖がってしまう。


「私は、この部屋を借りている者で……塔の管理をしているの。貴方はここの学園の生徒かしら? 側へ寄っても?」


 声をかけてみるも、うつむいて返事をしない。



 困ったわ。こんな時、ミオラがいればいいのだけど……


 とにかく、彼女の怪我が心配だわ……とても怖がっているようだし、どうすれば……


 考えたが、歩くのがやっとな自分ではどうしようもないと判断し、助けを呼ぶことに。



「……少しだけ待っててくれるかしら? 他の人を呼んできますわ」



 そう言ってなんとか部屋から出る。ホア爺に相談しようと思ったが、こんな時間に呼ぶのには抵抗がある。


 意を決して、カレンの部屋のドアをたたく。


「なんですか?」

 先日、怖い顔をしたメイドの1人が出てくる。


「遅い時間にすみません。私の部屋に今怪我人がいまして。手を借して頂きたいのですが……」


 アリシアの顔をみるなり、メイドは更に表情をきつくする。


「カレンお嬢様から聞きましたよ。人の婚約者にちょっかいを出しているような方のお話など聞くつもりはございません」


 そう言われ閉め出されてしまった。



 困ったわ。


 1人ではあまり動けませんし……仕方ありません。

ホア爺様に一度連絡して、誰か人手を呼んでもらうしかないですわ。


 部屋に戻ると、先ほどの女性は居なくなっていた。



 ????


 あのような状態でどこに?




「アリシア様〜〜! 戻りました」

 ミオラが少し疲れた顔で、だが嬉しそうに戻ってきた。


 部屋を歩き回っているアリシアに気付き

「アリシア様っ! なにをっ!? そんなに動かれては怪我に障りますよ!!」


 慌ててアリシアを抱える。


「っ!? ミオラちゃっ……良かったわ、それが……」


 さきほどのことを簡単に話す。ミオラは徐々に顔を青ざめながら


「それは……心配ですが……ただ、部外者がここに来ることは出来ないはずです。名前が登録されてる方でなければ、移動魔法は発動しませんし。そんな大怪我されてる方がうろついていれば、見回りの者が気づくはずです。それに……」


 アリシアはミオラが感じている違和感に気づく、

血の跡や人が座っていたような痕跡が感じられないのだ。



「そうね。でも……確かにいたのよ」


 そう言うしかない。


「アリシア様、私はアリシア様を信じます」

「ありがとう……今日は疲れたでしょう。ミオラちゃんも休んで」


「そうなんです! なんとですね! 今日、手当の対応をしていましたら、私が作った薬草入りのお粥が皆に配られまして! 食べた方たち、回復の気が少しだけ高まったんですよ!」


 ミオラは少し早口で、嬉しそうに話す。



 喜んでくれて良かったですわ。効果は私で証明済ですもの。



「ミオラちゃん。実は作り置きされた料理がたくさんあるの。良ければ、お薬は後で煎じてくれる?」


 アリシアの言葉に、ミオラはまた目を輝かす。


「分かりました! 任せてください」


 明日、念のため寮の管理人には報告だけしておこう。








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