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嘘の色

 グレスビーが動けるようになる前に、なんとか学園に避難できた。従者は学園の門番にすぐ事情を説明し、大量の魔力消費で動けなくなった2人をそのまま救護室に連れて行く。


 アリシアたちはケガがないか簡単な確認を受けたあと、それぞれ別室での聞き取りが始まった。


「それで、君はここの学園の生徒ではないようだね?」


 淡々と話しかけてくるのは、おそらく、ここの教授として働いているのだろうか。先ほど部屋に入室する前に、ロナルド教授と誰かが呼んでいた男だ。

せまい個室に一対一、ドア側に相手が座り、机を隔てて置いてある椅子に正面から座る。


 まるで、取り調べを受けている気分だ。 記録係はいないのだろうか?


「他の2人はここの生徒だからね。それぞれの部屋で聞き取りをしているが。君は一応今のところは部外者扱いになっている……悪い子には見えないし、生徒たちと年も変わらなさそうだから、怖い監視官は席を外させている」


 少し、冗談っぽく。だが、アリシアの心の声が聞こえているかのような返答をされる。


 父と年が近く見えるが、赤く染まった髪はエネルギッシュに感じ、白髪混じりの父と比べると若々しく見える。


「それで、君は 何者かな?」


 もう一度、ゆっくりと、しかしその視線から目を背けることは出来ないほどの圧を感じる。穏やかな口調とは別に、その目は全く笑っていない。



「……アリシア・フロン・ハッベルトと申します。父と一緒に賢者の塔の管理を務めています」


 アリシアが名乗ると、男はするどい目線から目を丸くする。


「えっ!? 君、ハッベルト君の娘さん? ってことは、えっ、アリシアちゃん??? 嘘だろ。ちょっと待って。えぇ?」


え?

アリシアちゃん?


え?

目がキラキラしてますわ。


え……


生まれて初めてちゃん付けされ、あまりの変わりように先程の圧力はなくなったものの、違う恐怖を感じる。


「いや、え? うそ! ごめ……怖かった? うわぁ怖かったよね。ごめん!! ほら、僕一応学園の警備体制の主任も兼ねててね? ちょっと嘘は許しませんよ的な仕事できるオーラ放ってないと立場上まずくてね? でも、ハッベルト君の娘さんって……いやぁ、大きくなったね! アハハ。赤ちゃん以来かな! また会えて嬉しいよ」


 急なハイテンションと一気に近づいてくる心の距離感に、アリシアの心は完全に不審者に出くわした時のごとく、表情は無になる。



「あっ! そんな顔しないで、アリシアちゃん。お…父さんそっくりって言うか……僕とハッベルト君は旧友で……あっ、信じてないでしょ!!!」


 そう言って一度乗り出した身を引き、コホンと息を整える。


「僕はロナルド・フロン・カクシマディアだ」


 アリシアの反応に少し笑いながら

「君のフロンは、僕のように気高く、勇ましく、誰からも信頼される尊さをもつ子になって欲しいと君のお父さんが名付け……」


「なにをベラベラと喋っているんだ」

 ロナルドの顔に厚い書類の束を押し付けるのは


「お父様! 」

 なぜ父がここに?いや、東の森から生徒たちが逃げてきたとなれば、当然娘もいると予想はできるとは思うが、まさかこんなに早くかけつけてくれるとは。


「……平気か?」

「はい。怪我はないと……あっ」


 父はかがみ込み、アリシアの右足首を確認する。

「ブーツが強化魔法の速度に耐えられなかったのだろう……靴が壊れて足を痛めてるな?」


 アリシアの数歩歩いただけの違和感をのがさない。やはり父の観察眼はごまかせなかったか。


 大したことはないからと、誰にも言ってなかったが、右足首がひそかにじんじんと痛んでいた。これくらいなら今までも耐えてきた痛みなので、後で塔に帰ってから薬草をぬればいいと隠していた。



「えええええぇっ! ちょっ、救護班! きゅうごはーーーーんっ!」

 急いで部屋から出ようとするロナルドに、父は顔に手を食い込ませる。


「ちょっ、痛い。ハッベルト君、いたっ、いだだだだだっ!」


「騒ぐな。警備統括主任が馬鹿だとバレるぞ」


 こんなお父様、見たことがないですわ。


 いつもと違う父の一面に、本当に父かと、一瞬疑ってしまう。


「そっ……そうだね。アリシアちゃんが怪我してるのに気づかないなんて……一生の不覚!!」


 机を飛び越え、アリシアの手を握る。

「ごめんね。足が痛いのを隠してたんだね。いい子そうなのに、嘘をついてる色が出てたから、一応ぼくが調査させてもらったんだ。痛い思いさせてごめんね」



 嘘の色?


 アリシアは、ロナルドの言葉に昔習ったこの国の伝説、賢者がいた時代。もう1人、別格の魔法の才を開花させ、この国の発展に大きく貢献した一族の名前を思い出す。

 カクシマディア家。相手の感情をオーラで捉え、対人での交渉や陰謀にいち早く対応し、数々の功績を残してきた今も続く一族だ。


 アリシアの動揺にニコッと微笑むと

「僕はこの姓に誇りを持っているけど、ここでは僕個人を評価してもらえるロナルドおじさん♡って呼んでくれると嬉しいかな」


「……娘が痛そうだ。」

「っ!? すぐに救護班呼んでくるからね!」


 ハッベルトの言葉にダッシュで部屋から出ていく。


「まったく……ところで、東の森で何が起こったんだ」


 避けては通れない質問がきてしまった。どこから説明すればいいだろう。



 これならロナルドの尋問の方がマシだったと、今更ながら後悔する。



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