握られた手
ノックの音がする。
一瞬、ゴーレムかっ!? と身構えたがすぐに冷静になる。
……もうお帰りになる時間ですわね。
結局、今日はエドルドとは別の部屋で過ごした。
食事を持ってきてくれるからって、もてなしたり、一緒に食事をと思う方がおかしかったのですわ。この方も父も、誰がいようが関係ない……ですもんね。
気持ちを切り替え、なるべく落ち着いて返事をする。
「どうぞ」
アリシアの了承を得たことを確認すると、ソッとドアが開く。
少し気まずそうなエドルドが立っている。
「あー、アリシア嬢、その、スープとサラダ、ご馳走様。あと、おもてなしも感謝する。その……君の気遣いを無下にして、不愉快にさせてしまった」
珍しく、歯切れの悪い言い方をする。
エドルドの袖が捲られており、おそらくお皿を洗ってくれたのだろう。
「……いいえ、お片付けありがとうございます。それとサンドイッチを運んでいただいたお礼、まだでしたわ。ありがとうございました」
この方がお皿を片付けたのか、少し笑ってしまう。エドルドはそれに気付き、顔を少し赤らめ視線をそらす。
しまったわ。
せっかく歩み寄ってくださったのに、笑うなんて失礼だったわね。
エドルドの態度に気を引き締め直す。
「私、明日からはエドルド様の邪魔にならないよう、もっと気をつけて過ごします」
そう言えば、きっと楽に過ごしてもらえるだろうから、喜んでもらえるだろうと思ったのだが……
「いやっ、僕の対応が悪かった。…料理も美味しかった。ありがとう。……できれば今後は一緒に。君の意見も聞きたい。いや、というより是非聞かせて欲しい」
「〜〜〜〜っ!?」
まさかそんな返しが来るとは思いもよらなかった。
「エドルド様は塔の書物を読まれたいのですよね? 私といても、邪魔ではないかと……議論ならば学園には優秀な先生方がいらっしゃるでしょうし……」
「いや、君がいい!」
手をつかまれる。
ですからっ、距離が近すぎますっ!!
顔を赤らめるアリシアに、エドルドは慌てて手を離し、後ろに下がった。
「す……すまない、その、ぼくは……」
咳払いをし、
「ぼくは、君との時間は学園で出会うどの学びよりも価値があると思っている」
「君は、皆が危険だと恐れる塔に住むばかりか、誰もが無理だと匙を投げた改築までしている」
「この部屋だって……僕がきた時は蜘蛛の巣や埃まみれだった。でも君は、綺麗に掃除したばかりか、暖和魔法で空気そのものを変えているだろう」
「それはとてもすごいことなんだよ。アリシア嬢、分かるかい? ぼくは君の拳魔法を攻略するまで君に会うのを我慢していた。でなければ、君とゆっくり話せないだろうから……」
エドルドは真剣な目が変わり、顔をほころばせる。
「食堂に来ないかと何日も待ったけど、どうやら君は来ないようだったから」
「ぼくは、誰よりも魔法の高みを目指したい。君の魔法はなんというか、今まで出会ってきたものとは違って、新しいんだ」
「……別の方が聞くと勘違いしますわ」
小声でなんとか返す。
魔法が好きだと言うエドルドの言葉が、まるで自分に好意をもっているかのように聞えてしまう。
あまりの恥ずかしさに
「〜〜っ……分かりましたから! 明日からは同じ部屋で意見でもなんでもお話ししますからっ!」
心臓の音が聞こえてしまうのではないかと、返事をするのに精一杯になる。
アリシアの返答に満足げなエドルドは
「では、また明日」
ご機嫌に帰って行った。
「〜〜〜〜っ」
大きなため息と、先ほど握られた手を胸にあて、初めての感情に頭が追いつかない。
「とりあえず……とりあえず、夕飯の準備ですわね」




