会いにいきたい
アリシアは一歩下がる。
生まれて初めて出会った変態への対応が分からない。
「っと……すまない、アリシア嬢。ごほん。つい品のない行動をとってしまった。ぼくは魔学のこととなると人が変わってしまって……」
軽く咳払いをし、すぐに態度を改める。
だが、一度抱いた印象は変わらず、アリシアはどう反応すべきか、決めかねる。
「……良ければ、この塔にある書物を僕にも読ませて欲しいんだ。突然の移動移動での訪問は控えたい。……どうやらここは、君の家、なのだろう?」
怖がらせたと思ったのか、声のトーンを落とし、まるで小動物でもなだめるように、やわらかい口調で話しかける。
「家……まぁ、そうですわね。仮ですが。……塔の財産を独り占めする権利は私たちにはございませんし……ただ、学園から生徒たちの出入りがないようにと言われてまして……」
アリシアは困った。
ここの書物の価値は高く、独占するような状態を良しとは思っていなかった。ここの書物があれば、どんなに魔学は発展しただろうと、何度も思った。
父と生活して、何度か訪問者はいた。だが、塔自体に意思があるかのように、まるで入れる人を選んでいるかのように、アリシアたちの出入り口にかけた制限魔法とは関係なく、弾かれることが多々あった。
学園の教授たちの多くは、入ることすらかなわないようだった。
何が基準なのかはわからないが、父と私が塔に入れるのを確認されてからは、トントン拍子に話が進んでいったことから考えても、そんなに多くはないのかもしれない。
そうすると、既に何度もここに来ているエドルドは棟から拒絶されていないというわけだ。
だが、学園からの管理人としての役割もある。
悩むアリシアに、エドラドは提案してみる。
「たとえば、塔にではなく、君に会いにくるというのが理由ならどうだろう?」
突然の発言に大きく動揺する。
「何をおっしゃって!!」
「塔の外に持ち出せないものも、このリビングになら持ってこれるだろう。平日のお昼時に、君とここでランチを食べにくる。そのついでに書物を読ませてもらう。あくまでも目的は君との食事だ。塔の管理といっても、君に誰も会いに来てはいけないとは言われてないだろう?」
この方は……
息を吐くように正論をならべる彼に、近づかない方がいいかもしれない、と心に思うアリシアだった。




