危険な視線
「うん、うまいな」
にこやかに微笑むのは、1番会いたくないと思っていた人物、エドルドだ。
なぜか平日に私服で、完成したばかりのかまどで試しに沸かしたお湯で作った珈琲を優雅に飲む。
……まだお父様にもお出ししていないのに、なぜこの方をもてなしているのでしょう。
アリシアの攻撃魔法を何でもなかったかのように受け止められた事実にも衝撃だったが、そもそも、塔に入ってきた気配にすら気づかなかった。何かトラップが発動した気配もなかったし、何より、学園との約束で生徒たちが怪我をしないよう、父とアリシアは幾重にも制限魔法をかけ、簡単に塔に入れないようにしていた。塔に入れるのは、アリシアと父、そして2人が許可した者だけとしているはずだ。
したはずだったのだ……
突然現れたエドルドは
「やぁ、アリシア嬢。惚ける気持ちも分かるが、まずは客人をもてなすのがマナーじゃないかな?」
そう言われ、言われるままに飲み物を出した自分にも腹が立った。
「珈琲とは、珍しいね」
そう、一般的には紅茶がメジャーではあるが、不眠不休で身体を動かしたい父はカフェインの多い珈琲を好んでいた。
アリシアも、美味しくいれようと試行錯誤して試飲するうちに、すっかり珈琲派になっていた。
「こちらには、茶葉を持ってきませんでしたので」
簡単に返答だけしておく。
さすがに無視は出来ない。
しかし、なんなんだこの男は。
アリシアは怒りの矛先をエドルドに向ける。
急に現れたのはそちらだ。お呼ばれしていない相手をもてなす必要はないのでは?
……そう、急に現れたようだった。
「まさか、移動魔法を?」
塔の入り口から突破したのではなく、この部屋に突然出てきたのであれば、入り口の制限魔法を無視できたのも、トラップが発動しなかったのも、気配がなかったことも、全て納得できる。
「へぇ、察しがいいね」
アリシアの予想が当たったのだろう、満足そうににこりと笑う。
初めての場所に移動魔法は使えない。ということは、アリシアたちが来るずっと前に、ここに来たことがある、ということになる。
「以前からここにいらしてたのですか?」
アリシアの問いに、
「まぁ、ね。塔の書物は学園で学ぶよりも価値がある。まぁ、人目を盗んで来てたんだけど。余計なアホどもが冷やかしで訪れたせいで、しばらく監視の目が厳しくなって……かなり迷惑だったけどね」
薄めに開く瞳は冷たく、にこやかな表情からの温度差にゾッとする。
つまり、監視役として来た私たちも邪魔、ということなのだろう。
「……」
「あ、君は例外だよ。…もちろん、ハッベルト助教授もね。ぼくは強い人たちは大好きさ。更に努力家は特にね……」
ゾゾゾゾッ
寒気を感じる。
こっこの方……変態ですわ。




