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塔に住む父娘

 ここは、国内でも選ばれた地位、そして才ある者たちが通うセントミア学園。


 上流階級のご子息、ご令嬢が多く通うこの学園には、古くから幾重にも複雑な保護魔法をかけられ、改築することも、取り壊すことも出来なくなった古い塔がある。


 高くそびえ立ち、階段で上がるしかないその塔には、かつて賢者が書き記した書籍が多くあり、昼夜かまわず研究していた跡が残っている。






 真夜中、小さな灯りを頼りに階段を降りるアリシアは、緊張していた。


 どうか、先ほどの物音が父でありますように。


――ガチャリ

 願いどおり、その古びた部屋には父がいた。

「…お父様、そろそろお休みになってください」



 安心と困惑の溜め息がもれる。


 先日、父とともにこの古塔に越してきた。


 父は平民出身だが、当時、強盗に襲われた母たち家族を救出し、婿養子という形で母と結婚したのだとか。



 母は生まれつき身体が弱く、よそへ嫁ぐことが難しかった。婿養子の志願者がでるほどの高い地位も財力もなく、母の病の進行を抑える薬を調合できたのも、父だけだった。



 きっと、とても努力したのだろう。


 平民で、教育の機会を得られなかった父が独学で魔法を学び、薬を調合するに至る過程は容易ではない。



 母は私を産んだことで体調を崩し、長く伏せることになってしまった。



 父は、母の病を研究するために、かつて賢者が住んでいたという古塔に目をつけた。

 賢者もまた、病への研究にいくつか手をつけていたとされている。


 しかし、塔にある書物らは賢者がかけたとされる保護魔法により外へ持ち出すことは出来ず、塔自体にも、いくつものトラップがかけられている。


 何が起こるか分からない。


 それでも、我が国の最高知識の象徴だ。

 少し離れたところに学園をつくり、そこに薬学を教える准教授として働き、住み込みで古塔を管理する条件で、学園は父を迎え入れた。


 実際は、肝試し感覚で出入りする生徒たちの監視をさせることが目的なのだろう。


 上流階級である生徒たちに何かあれば学園の責任となる。学園にとっても父からの申し出は、塔の管理責任を押し付けられると考えたのだろう。



「あぁ、アリシアか。……すまないな」

 すまない、はこんな時間に起こしたことへの謝罪なのだろうか。それとも年頃の娘をこんなところへ連れてきてしまった罪悪感からなのだろうか。


 アリシアたちが雇っている使用人は多くなく、母親の看病と世話にまわっている。


 だが、誰も連れて来れなかった1番の理由は



ゴオオオオオオッ


 壁についた手の位置が揺れ、大きな音を出す。

石壁から巨大な手が出来上がっていく。


――あぁ、ゴーレムだ。




「お父様、失礼します」


 右手にエネルギーを倍増し、ゴーレムが完成する前に壁を力強く叩きつける。



「ふんっ!!」


 思い切り叩きつけた拳は魔法陣ごと破壊できたのだろう。

 すぐに動いていた壁は大人しくなった。




 少し赤くなった拳をさする。やはり、使用人たちに荷解きを手伝ってもらうのは無理そうだと諦めた。


 今のトラップは発動するまで分からなかった。




「……今日は私も休もう。お前も休みなさい」

「お休みなさい。お父様」



 塔の一室、月を窓から見られる高さの部屋を選んだ。最低限のベッドとカーテン、身だしなみを整える簡易的なドレッサーを置いている。

 近くの部屋に水場が通っているのも、この部屋にした決め手の1つだ。


――やはり水場は大事だ。


 父の部屋は、外へ出入りしやすいよう下の方にあるため、少し離れている。



 明日からは新学期。

 アリシアと父の新生活の幕開けでもあるのだ。





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