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7話

 あれから数日――。私たちは無事に街へ戻ることができた。カズキの仲間であるキースとカリンは治療院で手当てを受けながら静養している。幸いどちらも命に別状はなく、一安心だ。

 とはいえ、私にとっては初めての地上の生活。迷子にならないよう、カズキさんに案内してもらいながら、街の施設を巡っていた。


「ここが冒険者ギルドで、向かいのあの建物が鍛冶屋になります。あと、日用品ならここを真っすぐ行った先の市場で買えます。アーク様、覚えられますか?」

「も、もちろん!」


 本当は頭がパンクしそうだけれど、「女神が迷子になった」なんて恥ずかしすぎるので必死にメモを取っている。そんな私の様子を、カズキさんはどこか微笑ましそうに眺めていた。


「アーク様、もう少し歩けそうですか? キースとカリンの顔を見に行きましょう」

「ええ、そうしましょう。案内お願いしますわ」


 カズキさんの後ろをついて歩く。石畳の道は人が多く行き交い、活気であふれている。ふと、神界の透き通った静けさを懐かしく感じるが、このにぎやかな空気も悪くない――むしろ、温かささえ感じる。


 治療院は街はずれにある、こぢんまりとした建物だった。小さな扉を開けて中に入ると、薬草の香りが漂う落ち着いた空間が広がっていた。


「キース、カリン。調子はどう?」

 カズキさんが声をかけると、二人はベッドの上で顔を向けた。


「へへっ、まだ体中が痛むけど、大丈夫だぜ」

「わ、私は……少し頭がくらくらしますが、昨日よりはずっとマシです」


 キースは相変わらず元気そうで、カリンは薄い笑みを浮かべながらも回復に時間がかかりそうだ。それでもこの様子なら、すぐに冒険へ復帰できるだろう。

 私は二人に軽く頭を下げた。


「アーク様、今回は本当にありがとうございました。ところで、アーク様はこの街にはいつまでいらっしゃるんですか? よかったらいろんな話を聞きたいのですが。」

 弱々しい声でそう尋ねたのはカリンだ。


「ああ、あの超強かったゾルガスを倒したのはアーク様の属性付与魔法の力なんだってカズキから聞いたぜ。」


「実は、そのことなのですが……」

 私はカズキさんと視線を交わすと、意を決して口を開いた。


「先ほどカズキさんにも話したのですが、私、皆さんのパーティーに加えていただきたくて」


 その瞬間、キースが驚いたように目を見開く。

 

「え、アーク様が? 本当ですか?」

 カリンも思わず息を飲む。


「ええ、もちろん。本当ですわ。私とカズキさんの思惑も一致しましたので」


 カズキさんが軽く頷いて会話に加わる。

「この前の戦いで分かったと思うが、魔王軍は想像以上に力をつけている。パーティーを組むときにも話したが、俺はどうにかして魔王を倒したい。そして、アーク様も同じ目的を持っているんだ」


 目を閉じ、カズキさんは重々しく続けた。

「今後の魔王軍との戦闘で鍵となるのが“光属性”の魔法。アーク様は光属性の使い手として、必ず俺たちの力になってくれる。だから、一緒に旅をしてくないかと話していたのだ」

 これは事前にカズキさんと話し合って決めた内容だ。当初は二人で魔王討伐に向かうことも考えたが、カズキさんの推薦もあり、キースとカリンが承諾してくれれば共に旅をしたいという結論に至ったのだ。


 キースは勢いよくベッドから降りようとし、傷が痛んだのか顔をしかめながら唸ったが、それでも声には活気が宿っている。


「そういうことなら話が早ぇ! アーク様と一緒に戦えるなら、こんなに心強いことはないぜ。なあ、カリン?」


「はい……私も大賛成です」

 カリンは少し照れくさそうに微笑んで、穏やかなまなざしを私に向けた。


 カズキさんは満足げに頷くと、改めて二人に問いかける。

「それじゃあ、キース、カリン。これからも一緒に魔王軍と戦ってくれるか?」


「もちろんだ。むしろこっちからお願いしたいぐらいさ」

「私で良ければ、喜んでお力になります」


 「さっさと治して一緒に冒険がしたいぜ。 なあ、カリン」


 彼のくだけた様子に思わず微笑みが漏れると、カリンがはにかむように続けた。

 「ええ、アーク様には色々教えてもらいたいです」


 彼女はまだ顔色が優れないものの、私を歓迎してくれていることが伝わってきた。


 「じゃあ、パーティー登録をしてきますね。お二人はしっかり休んで、早く元気になってください」

 そう告げると、キースが片手を振りながら笑みを見せる。


 「いってらっしゃい!」


 私はカズキにそっと声をかける。


「行きましょうか。まだ案内してくださるんですよね?」

「ええ、もちろん。街の施設を一通り回っておけば、アーク様も何かと不便が減るはずです」

「頼りにしていますわ。キースさん、カリンさん、ゆっくり休んでくださいね」


 治療院を後にし、街の中心部へと続く石畳を歩いていたとき、カズキさんがふと立ち止まった。彼の視線の先には、掲示板を取り囲むようにして人だかりができている。その中に依頼の紙を貼り付けるギルド職員らしき人物の姿が見えた。


「新しい依頼が貼り出されたみたいですね。しかし、なにやら騒がしいですわ」


 私が首を傾げると、カズキさんは少し険しい表情を浮かべてその場に駆け寄る。ざわめきの中、誰かが口にした「魔王軍」という言葉が耳に飛び込んできた。


「……アーク様、どうやら厄介な知らせが入ったようですよ」


 カズキさんの声は低く、緊張感をはらんでいる。私も人ごみをかき分けて掲示板を覗き込むと、そこには「魔王軍の幹部らしき存在が近隣の村を襲撃。被害拡大のおそれあり――至急、討伐を求む」という趣旨の文面が大きく書かれていた。

次回更新は金曜日予定です。

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