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2話

「ええっと、まずは何をすればよかったのかしら。久しぶりに転生者を迎えると手順を忘れてしまいますわ」


 私は手元の書類をパラパラとめくりながら呟いた。

 その姿を見てエリスは微笑みながら近づいてきた。


「まずは、世界の接続ですよ。こちらに識別番号を入力してください」


 書類の片付けにはもう少し時間がかかると思っていたため、私はエリスの登場に驚いていた。


「ああ、エリス。もう終わったの? 片付けしてくれてありがとう。あなたは仕事が早くて助かるわ」


「ありがとうございます、でも、私はまだまだ修行の身でありますので、アーク様ほどではありません」


「ええ、そうですわね。これからも精進なさい」


 私は満足げに頷き、識別番号の入力をした。


「識別番号は……っと」


 ――


 「あとは、向こうの神様が承認すれば、転生者がいらっしゃると思います」


 エリスが書類を整理しながら言う。私が転生を司る女神として就任してからずっと補佐として努めてきてくれた彼女は非常に頼もしい。


 「ええ、あとはスキルの付与と送り出しですね。エリス、準備はよろしくて?」


 「もちろんです」


 確かな返事を聞き、少し緊張を解くことができた。


 私たちがそんなやり取りをしていると、転生の間の中央に光が集まり、徐々に人影が浮かび上がってきた。光が収まると、そこには一人の青年が立っていた。


 彼の名前はサイトウ・カズキ。身長は180センチほどだろうか、全体的に筋肉質な体格を持っている。髪は少し長めで、自然なウェーブがかかっており、落ち着いた雰囲気を醸し出している。目は深い茶色で、優しさと誠実さが感じられる。顔立ちは整っており、鼻筋が通っていて、唇は少し薄め。その表情には温かみがあった。


 カズキはこの状況に緊張しているようであったが、その中にもこれから始まる第2の人生への期待が表れていた。しっかりとした態度で周囲を見回し、状況を把握しようとしている。


 私はそんなカズキの様子を見て、彼が適応力のある異世界人であることを確信した。

 

「こんにちは。サイトウ・カズキさん。私は女神アークです」


 私は、練習どおり優しく微笑み挨拶した。カズキもまた、緊張を少し和らげながら、丁寧に頭を下げた。

 

「初めまして、アーク様。私はサイトウ・カズキです」


 彼の礼儀正しい態度、そして、しっかりとした声に、アークはほっと胸を撫でおろした。

 

「異世界については向こうの神様から聞いていますね。これからあなたにはスキルを付与しますのでついてきてください」


「ありがとうございます」


 カズキは目を輝かせながら私の言葉に耳を傾けていた。その真摯な態度と、緊張しながらも決意に満ちた表情が印象的だった。彼の前世の経験が確かに真面目で責任感の強い人柄を形作っていることが感じられた。


「では、こちらへ」


 私はスキル付与を行う部屋の扉を開き、カズキを招き入れる。部屋の中にはいくつもの光の玉が浮かんでいた。それぞれの光の玉がスキルを付与するものである。


「ここで、あなたには3つのスキルを選んでもらいます。自分に合うと思うものを選んでください」


 カズキは慎重にあたりを見渡している。


「この……超回復スキルというのは、どのようなものですか?」


「それは、体内の治癒力を飛躍的に高めるスキルです! 小さな怪我や風邪なら数分で回復しますし、体の疲れもすぐに取れるので、冒険中の活動効率がぐっと上がりますよ!」


 慎重な性格ゆえか、カズキはスキルの内容についてたくさん質問してくれた。


「それでは、こちらのスキルは?」


「それは、……」


 ――


 どれくらいの時間がたったか、カズキは3つのスキルを決めたようだ。


「アーク様、この3つでお願いします」


「超回復スキルと、剣技スキル、そして、大防衛スキルですね。攻守バランスの良い選択だと思います」


 スキルの選択を終えたカズキを連れて、私は先ほどの部屋へと向かった。廊下を歩きながら、カズキに役割や転生先について説明した。


「あなたがこれから向かうのは剣と魔法の世界エルデランです。そこでは魔王が誕生し、世界を脅かしています。あなたには異世界人として、その世界を救ってもらいたいのです」


 カズキは真剣な表情で頷いた。


「分かりました。精一杯頑張ります」


 私はカズキの決意を感じながら続けた。


「期待していますよ、カズキさん。あなたならきっとやり遂げられるでしょう。スキルを活かし、仲間と協力しながら戦ってください」


 廊下を歩きながら、私はさらに説明を加えた。


 「エルデランでは、仲間との絆が何よりも重要です。困難に直面しても、決して諦めず、共に乗り越えていくことが求められます」


 カズキは頷き、「どんな困難も乗り越えてみせます」と確かな声で答えた。


 その言葉に、私の胸にはほのかな安心感が広がった。


 ――

 

 カズキとの会話を続けていたとき、私はうっかり自分のローブの裾を踏んでしまい、前に躓いてしまった。


「あっ!」と声を上げると転ぶ前にカズキが素早く手を伸ばし、私をしっかりと支えてくれた。


「大丈夫ですか、アーク様?」カズキの優しい声と力強い手に支えられて、恥ずかしさから私は顔を赤らめながら頷いた。


「ありがとう、カズキさん。助かりました」


 私が照れ隠しに笑うと、カズキもまた少し顔を赤らめていた。

 

 転移を行う部屋に到着すると、エリスがすでに準備を終わらせて待っていた。彼女は一礼して、「アーク様、準備は整いました」と報告した。


「ありがとう、エリス。それでは、カズキさん、こちらへどうぞ」


 カズキは深く一礼し、光の円の中に立った。


 「アーク様、エリスさん、これからの旅で数多くを学び、成長し、必ず世界を救ってみせます」


 私は微笑みながら、「あなたならきっとできます、カズキさん。新たな世界での旅が今、始まります。どうか無事に、そして成功を収めてください」と告げた。


「アーク様、またお会いできますか」


 カズキは真剣な眼差しで尋ねた。ここ神界へ人間が立ち入る機会は転生のこのタイミング以外には非常に限られている。


「あなたが世界を救うことができれば、きっと」


 私はそう答えながら、内心では彼と再び会うことはないだろうと思っていた。神界の規則は厳格であり、人間がここに戻ることはほとんどない。しかし、その事実を今ここで彼に伝えるのは酷だと思い、微笑みを絶やさなかった。


 カズキは再び深く一礼し、光に包まれて異世界へと転生していった。その光が消えかけた瞬間、カズキは私に優しく微笑んだ。その笑顔に特別な感情が込められていることには気づかず、私はただカズキの決意を感じ取っていた。

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