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どうせ失う人生だけど、どうせ失う人生だから。  作者: 葉泪 秋


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十話

「なんかさー、私が読んでるネット小説があるんだけどさ?」ユリカがスマホを退屈そうに眺めながら言った。私が視線で続きを促すと、「何も言わずに一ヶ月以上更新止まってんだよね」と続けた。

「もう、書くのやめちゃったんじゃない?」私が聞くと、ユリカは「でもその人のSNS見てみたら、普通に実生活が忙しくて手が回らないらしいんだよね。なんか部活とか色々大変みたい」と言った。

「あ、学生なんだ・・書いてる人・・」

「気長に待つしかないね」ユリカはスマホの画面を消し、立ち上がった。


 事件のことは頭から取り払い、私たちは母校へ向かった。

通学路を歩いているだけで、当時の思い出がいくつも蘇ってくる。

春と夏の間、少しもどかしくも心地良い陽射しが降り注ぐ午前9時。私たちは子供の頃通っていた小学校に足を運んだ。校門をくぐると、四人で静かに微笑みを交わしながら、足取りを合わせて歩き出した。

「懐かしいなぁ。ここでよく鬼ごっこしてたっけ?」駿が、少し皮肉っぽい笑みを浮かべながら言った。彼の言葉には、かつての無邪気な日々への郷愁が滲んでいた。

「そうそう。あんたがいつも鬼になるのが嫌だったんだよね。でも、結局負けちゃうんだから不思議」ユリカが、肩をすくめながら無気力そうに言った。

「まあ、駿は足が遅かったもんね。その分策略練ってたよなぁ~」

「僕はいつも、ここで勝負してるんだよ」駿が自分の頭を指さしながら自信満々に言い返すが、その口調にはほんのりとした照れが混じっていた。

たっちゃんは、みんなの会話に遅れてしまったことに気づき、慌てて追いつこうとする。

「みんな、待ってよ!お昼休みのときも、いつも先に行っちゃうんだから!」

彼は昔も今も変わらず、少しだけ皆より後れを取っていた。

私たちは校庭の真ん中にある大きな桜の樹の下で足を止めた。風が吹き、枝葉がざわめく音が耳に心地よく響く。その場所は、かつての集合場所でもあり、数え切れない思い出が詰まっている場所だった。

「この桜、こんなに大きかったんだね」私は、木の幹にそっと手を触れながら言った。

「ここだけ時間が止まってるみたいだな」駿が、手をポケットに入れながら、少し感傷的な声で呟いた。彼は昔から感情をあまり表に出さないが、今日は特別だった。

ユリカは黙って桜の木を見上げていた。彼女の気だるげな表情には、普段とは違う深い感情が潜んでいた。

「こんなに時間が経ったのに、ここは変わらないんだね」

たっちゃんは、その場にしゃがみ込み、地面に指で小さな絵を描き始めた。

「みんなでまた、ここで遊べたらいいのにね。昔みたいに」彼の無邪気な言葉に、私たち3人は顔を見合わせ、思わず笑みがこぼれた。

「たっちゃん、本当に変わらないね」私は微笑みながら言った。

「まぁ、たっちゃんがいなきゃ、このグループも成り立たないしね」駿の瞳は優しさで満たされていた。


時間はゆっくりと流れ、やがて夕暮れが訪れた。赤く染まる空の下、四人は桜の木の下で佇んでいた。かつての無邪気な子供たちは、今や大人になっていたが、この瞬間だけは何も変わらなかった。

「またいつか、ここに来よう」私の言葉に、他の3人も静かに頷いた。

あ、しまった・・・・自分でまたしても『また今度』を増やしてしまった。

まぁ、楽しみが増えるのはいいことだけど・・楽しさの借金を増やしてしまうのは少し怖い。返せずに自分の人生が終わる可能性もあるんだし。


夢のような時間はあっという間に過ぎていき、別れのときがやって来てしまった。

「それじゃ、またいつか会おうね」ユリカが言った。

「うん、事件のことは私に任せて」

「悪いな、こんな大変なこと押し付けちゃって」駿が申し訳無さそうに言ったが、私は「私がやるって言ったんだよ。別にみんなのせいじゃない」とフォローした。

「みんな、お元気で!健康には気をつけて!」たっちゃんが手を振りながら駅へ入っていった。それを見た駿が「一番健康に気を使うべきなのはあいつだろ」と呟いていたのは内緒。


解散し、私一人になると、横に禅太が現れた。

「面倒事に巻き込まれたようじゃな」禅太が開口一番に言い放った。

「なんで知ってんのよ・・」

「たまたまあの公園に居合わせただけじゃ、別に暇だからお主らの後をつけていたわけではない」自ら全ての答えを吐いてしまうとは。

「にしても、これどうすんの?殺人事件とか最悪だし・・・・」

「警察からの情報を待つしかないじゃろ。それまではここに残るんじゃ」彼は三色団子を食べながら言った。一体どこで買ったのやら。


 後日、私は面談室に座り、静かに息を整えながら、目の前に居る警察官が捜査の結果を話し始めるのを待っていた。隣には、禅太が無言で佇んでいる。彼の存在が、どこか心強い。

警察官は手元のファイルをめくり、重々しい口調で話し始めた。「まず、昨日の件ですが、発見されたハンカチと片方の靴については、確かに血痕が確認されました。そして、靴の持ち主は近くの学校に勤める教師であることが判明しています」

教師・・・・まさか、被害者がそんなに身近な人だとは思っていなかった。私たちが見つけたものが、どんな事件に繋がっているのか、急に現実味を帯びてきた。

「まだ捜査は続いていますが、現時点で確認できたのは、その教師が最近、何らかの問題に巻き込まれていた可能性があるということです。具体的には、校内でのトラブルや、誰かからの脅迫を受けていたかもしれません」

私は目の前の警察官を見つめた。彼の言葉が頭の中でぐるぐると回り、何かを言わなければと思ったけれど、口を開くことができなかった。

禅太が静かに視線を警察官に向けた「その教師が何か特別な理由で狙われた可能性は考えられますか?例えば、学校の外での関係など」

警察官は一瞬驚いたように禅太を見たが、すぐに冷静に答えた。「そうですね。現在、その線についても調査を進めています。校内での人間関係や、過去の事件も含めて、できる限り情報を集めています」

私は禅太の方を見た。彼の質問は、まるで事件の核心に迫ろうとするかのようだった。

「具体的な動機が見つからない限り、犯人像を絞り込むのは難しいです。ただし、発見された靴の持ち主が現在行方不明であるため、失踪の背景には何らかの事件性があると考えられます。」

私の心臓がドキリとした。行方不明――それが意味するところは、決して良いことではない。

「もし何か思い出したことや、新しい情報があれば、すぐに連絡してください」警察官が私たちにそう言って、面談を終えようとした時、禅太がもう一度口を開いた。

「血痕のパターンや靴の状態から、事件のあった時間や場所は特定できましたか?」

その質問に警察官はしばし考え込んだ後、「まだ具体的なことは申し上げられませんが、血痕の状態から見て、事件は最近の出来事であると推測しています。場所についても特定は難しいですが、公園周辺の監視カメラや目撃情報を元に、追跡調査を行っています」と答えた。

面談室を出ると、私たちはしばらく無言のまま歩いた。禅太がいるからか、不思議と冷静さを保てている気がした。

「事件の背景が見えてくるまで、まだ時間がかかりそうだね」私がそう言うと、禅太は穏やかな微笑みを浮かべて頷いた。

「ふむ・・お主の『タイムリミット』に間に合うと良いんじゃが」禅太は意味深に呟いた。


「教師、ねぇ・・・・」私は家に帰る途中、遠目に小学校を眺めながら言った。

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