笑顔が嫌いな神様 【月夜譚No.291】
祭壇の前では笑ってはいけないらしい。そんな言い伝えがある為、この村の祭りはいつも静かだ。別に祭壇前でなければ構わないと思うのだが、村人達は祟りを恐れて祭りの期間中は家にいてもにこりともしない。
何でも、村で祀っている神は笑顔が嫌いなのだという。その昔、まだ神でなかった御身が人々に謂れのない罪を着せられ、その首謀者であった人間に嘲笑われたことに由縁する。
村の畑で採れた野菜や果物、村人達の手で作られた料理の皿などが祭壇に並べられていくのを、彼女は遠目に眺めていた。
粛々と進められる準備の中、祭壇の後方の隅で白い衣を纏った少年が地べたに座り込んで頬杖をついている。それはつまらなそうな表情で、複雑そうな瞳に祭壇を映す。
ふと少年が顔を上げ、彼女と目が合った。途端に相好を崩して手を振ってくる彼に、彼女は曖昧に手を掲げた。申し訳ないが、ここで彼女が笑ってしまうわけにはいかない。
言い伝えは、あくまでも言い伝えだ。過去にあったことは事実であるそうだが、楽しく幸せな笑顔は寧ろ好きなのだと嬉しそうに言った笑みが今でも忘れられない。
彼女にしか見えない少年は、満面の笑みで手を振り続けていた。