忘れ物
雨だというのに傘を忘れて
木陰や軒先に隠れながら駅まで走る帰り道
濡れて額に貼りついた前髪が
なんだか惨めに見えました
心のアンテナはいつも圏外で
いま自分はどこにいるんだろうって
幾度も地図を開いたところで
居場所も帰る場所もありません
生まれた場所はおぼえていますが
思い出なんてほとんどなくて
自分が自分であるって証拠も
どこか置き忘れてきた次第です
だったらせめてこれだけはと
後生大事に持っていた夢は
たえがたい夜の握力に潰され
ゴミ箱の底の空き缶のようです