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7/12

辿るべき運命





一週間部屋に閉じこもって

とあるゲームと向き合ったその結果。


私が辿り着いたひとつの結論。



それは___





ヒロインである聖女を、

皇太子ダリウスもしくは騎士グレンの

どちらかと恋愛をさせる。


それが、この物語を大団円で終結させる

たったひとつの方法だ。


聖女がダリウスかグレンと恋愛をして、ゲーム通りに物事が進めば、戦争は丸く収まってベルゴッドは救われるし、

悲痛な運命を辿るキャラクターもいない。


そして、私も処刑されずに済む。





私にこの国の未来を変える力はない。


でも、一人の少女の恋を助けて、

規定通りに物語を進めさせるくらいはできるはずだ。


ヒロインがダリウスかグレンと恋をすれば、

この国の未来は救われるのだ。






「これしかない…!!!」






約一週間の脳内作戦会議の末、

私は手にしていた羽根付きの万年筆を放り投げ、

びっしりと文字が書かれた羊皮紙を掲げた。


これは私が寝る間も惜しんで考えた

『目指せ大団円作戦』の行動内容が事細かに記された

一枚の紙切れだ。


この国の未来を救うため、

そして私の死の未来を回避するため。


みんなが幸せになるために必要なこと。






「お嬢様、よろしいでしょうか…?」






満足気に羊皮紙を眺めていた私の背後から、

か弱い女の声が聞こえて私は思わず肩を震わせた。


この機密事項が書かれた紙を見られる訳にはいかず、

咄嗟に胸元に手を忍び込ませて服の中に紙を隠した。


そして、作り笑いを浮かべて振り返ると、

そこには怯えた顔をしたメイドが立っていた。


やはりまだ私は使用人達に怖がられているらしい。


ハンナはしばらく一緒に過ごしてきて、だいぶ慣れてくれた様子だけれど、他の使用人達はまだあまり話したことがないし、昔の私に植え付けられた恐怖心が消えていないのも無理はない。






「クロフォード公爵家より

お嬢様へお手紙が届いております…」






彼女は恐る恐るそう述べると、

封筒を私に差し出した。


その細い手は小刻みに震えていて、

罪悪感で胸がぎゅっと締め付けられる。






「ありがとう」






私は大袈裟なほど朗らかな声音でそう紡いで、

彼女に笑いかけた。


けれど彼女は私と目を合わせることも無く、

目線を俯かせたまま深く頭を下げると、

そのまま逃げるように立ち去っていってしまう。


そんな彼女の後ろ姿を眺めながら、

私はまだまだ時間がかかりそうだと、

苦笑いを浮かべるのだった。





それから手元に残った封筒に視線を落とす。


その封蝋はクロフォード公爵家の紋章になっていた。


ゲームの中でも何度か目にした大鷹が羽ばたく姿の紋章。


クロフォード家は優秀な騎士の家系で、

現当主も国内随一の剣の腕を持ち、

ベルゴッド騎士団の団長を務めている。


そして、クロフォード家とウィステリア家は、

代々親交が深く絶対的な協力関係にある。


クロフォード家の子息の二人は、

私と年齢が近かったため幼馴染のように育ってきたらしい。


二人はゲームの攻略対象だからよく知っているけれど、

実際のフィオナの記憶は断片的なものしか残っておらず、傲慢で我儘なフィオナとどんな関係だったのかは分からない。






私はゆっくりと手紙の封を開けて、

中の便箋を取り出した。


送り主はクロフォード兄弟の兄であるカインのようだ。


上質な一枚の紙に、

日頃剣を振るう騎士とは思えないほど

丁寧で綺麗な文字が綴られていた。


その内容はとても簡素なもので、

長い間意識を失っていた私を心配していることや

無事目が覚めたことを喜んでいること、

そしてクロフォード公爵家にも機会があれば立ち寄って欲しいという言葉で手紙は締めくくられていた。


彼が本当にフィオナの身を案じていたのかは分からないけれど、文面だけ見ると建前というか社交辞令のようにも見えてしまう。


やはり、幼馴染とはいえ、

そこまで仲は良くなかったのだろうか。


そんなことを思っていたその刹那。


私は便箋の下の方に小さく書かれた文字に気が付いた。


“P.S. 体調が優れないのならまた林檎を剥いてあげる”






「これ………」






前にカインに林檎を剥いて貰ったことがあったのだろうか。


そんな疑問が浮かんだその瞬間。






「………っ!」







ズキンと脳を刺すような痛みが走って、

視界が真っ白になる。


そして目まぐるしく思考が回転して、

あらゆる感情や記憶がとめどなく溢れ出した。


まるで自分の頭ではないみたいに、

ぐるぐると勝手に掻き乱されていく。






痛い、助けて。


そう思ってぎゅっと目を瞑り蹲る。






「フィオナ……!」






誰かを呼ぶ声が聞こえたような気がしたけれど、

その頃には私はもう意識を手放していた。










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