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ヴィラン





あれから約一週間が経過した。


この一週間で本当に色々あって、

私の心境には大きな変化があった。




色々あったと言っても、

私はこの一週間ずっと部屋に籠りきりだった。


両親やお兄様、お医者様など、

あらゆる人が私の部屋を訪ねてきたけれど、

面会を突っぱね、とある『ゲーム』に熱を入れていた。


こんな世界にゲームなんてあるわけがないのだけれど、

あれは紛いなくゲームだった。


そう、宝石箱から突如現れたペンダントが映し出すものは、ただの映像ではなく、やはりゲームの映像だったのだ。


最初見た時はお兄様が横にいたからあまりしっかり見れなかったけれど、一人になってから確認をしたら、映像に触れることで操作ができることに気がついた。





そして、何よりも驚くべきことがあって。


それは、あのゲームの舞台が、

まさに私が今存在している世界だということだ。


すなわち、登場人物達も、この世界に実在する人間だったのだ。


この国の現皇帝や皇子、有名な貴族、

全て実在の人間で外見や性格まで同じだった。


そしてなんとゲームの中には、

由緒ある侯爵家であるウィステリア家も登場していた。


特にお兄様と私はストーリーに沢山登場するキャラクターで、お兄様は現実通り軽薄で女たらし、私は元々のフィオナの性格を再現しているのか傲慢で高飛車な、まさに悪役令嬢だった。


お兄様があれだけ過去の私を悪く言ったのも、

悔しいけれど納得出来た。





そして、このゲームは、ただ皇族や貴族たちの物語を楽しむゲームではない。


この世界にやって来てしまった異世界の女の子がヒロインの、恋愛ゲームだったのだ。


ヒロインは元々普通の女の子だけれど、

ある日特別な力を発現して『聖女』として持て囃される。




そもそもこの世界には『魔の力』という所謂魔術を使える人間が数多存在する。私もそのうちの一人だ。魔術には七つの属性が存在し、魔力を扱う者は皆いずれかの属性の魔術が使える。


そして、その『魔の力』には悪の側面があり、それが悪魔達が持つ『闇の力』だ。闇を操り、その瘴気で全てが朽ち果てるとされている。




『魔の力』と『闇の力』___


この世界の中でも特別とされる力だけれど、

それよりもさらに貴重な能力が存在する。


それが『聖神の力』と『聖女の力』だ。


『魔』は太古より俗世に存在する特別な力だけれど、

『聖』は神が御座す天の世界の力だとされている。


『聖神の力』は悪魔が呼ぶ闇を祓い、その瘴気を浄化するとされている。この国の皇族であるベルゴッド家は代々この力を受け継いでおり、国土に聖神の加護を付与して悪魔から民を守ってきた。


そして、『聖女の力』はさらに珍しく、その力でどんな怪我や病も治すことが出来るとされている。聖女は、ここ百年間ベルゴッドで一人も現れていないらしい。




そんな貴重な力を持つ聖女であるヒロインが、

皇子や貴族と恋に落ちるというのがこのゲームの趣旨だ。


恋愛攻略対象は6人いて、

その全員が高貴な身分を持つ美男子達であった。


この国の皇子達や、三大公爵家の令息達。

それからなんと私の兄まで、攻略対象になっていた。


兄以外はハンナから教えて貰った名前しか知らなかったけれど、ゲームの中で初めて容姿を目にして、あまりの端正さに言葉を失いかけた。


皇子の二人はまさに御伽噺に出てくる王子様のような美しさだったし、私の幼馴染でもあるクロフォード公爵家の騎士兄弟も、まさにヒーローのようでかっこよかった。


そんな彼等との疑似恋愛をゲームの中で体験したわけだけれど、全てのルートをクリアして私の胸に残ったのは、甘酸っぱくて幸せなときめきの感情ではない。


そう、ただ『絶望』のひと言だった____





このゲームは王子様とお姫様の幸せな恋愛を描いた

ありきたりな御伽噺ではなかった。


物語では隣国のレクセウス帝国との戦争が描かれる。


聖女や攻略対象の青年達はその立場故に、

少なからず戦争に巻き込まれることとなる。


中には、悲惨な運命を辿る登場人物もいる。


攻略対象が複数いるため沢山のルートがあるけれど、

ほとんどの場合、例えハッピーエンドだとしても、

当人達以外の誰かしらが不幸な結末を迎えることとなる。


中でも最も酷い運命を辿るのが、

他でもないこの私だった。





フィオナは悪役令嬢として、

どのルートでもヒロインの恋路を邪魔して、

酷い嫌がらせやいじめをする。


そしてそれがだんだんとエスカレートしていき、

敵国に手を貸してヒロインや攻略対象を陥れる

極悪人になってしまうのだ。


そのため、ほとんどのルートで、

私は最終的に大罪人として処刑される。


そう、フィオナという令嬢は、

ヒロインをいじめるありきたりな悪役令嬢などではない。


国を裏切り罪を犯す、正真正銘のヴィランなのだ。





しかし、そんなフィオナが処刑を免れるルートもある。


それはいわゆる大団円エンドを迎える

皇太子ダリウスのルートと騎士グレンのルートだ。


この二人はこのゲームにおけるメインキャラクター、

いわば二枚看板というところだ。





そもそもなぜこの二人が二枚看板なのかというと、

それにも理由がある。


皇太子のダリウスはこの国の皇帝になるべくして生まれた選ばれし存在であり、実際ほとんどのルートで彼が皇帝に即位する。そんな彼が物語におけるメインキャラクターになるのも頷ける。


そして、重要なのはもう一人の方だ。


彼は私の幼馴染でもあるクロフォード家の次男であり、有望な騎士であるグレン。彼はなんと、ヒロインと幼い頃に出会っており、ヒロインの初恋の人なのだ。


そして、彼にはもうひとつ大きな秘密がある。


それは、彼が実は皇族の血を引くものだということ。


そう、グレンはクロフォード家の実子ではなく、現皇帝の隠し子なのだ。今は亡き皇帝の後妻の子であり、第二皇子のルークの弟である。実の母は身体が弱く、グレンを出産して直ぐに亡くなったらしい。


この国には忌まわしき風習があり、子を産んで母がすぐ亡くなった場合、その子どもは『悪魔の子』であるとされる。


実際に『悪魔の子』というのは存在し、産んだ母親が死に至るのは事実であるが、グレンの場合は違う。単に母親の身体が弱かっただけだが、グレンは『悪魔の子』であるとされた。


そのため、生まれてすぐにグレンは、地方の孤児院に引き渡された。ということになっている。実際は、グレンの実母と親交があったクロフォード家夫妻が彼を引き取ったのだった。


何にせよグレンはこの国の皇子であり、皇位継承権を持っている。さらに、グレンは後にダリウスに引けを取らない強力な聖神の力を発現させる。そのため、グレンルートでは、グレンが皇帝となるのだ。





そんな次期皇帝の資格を持つ選ばれし二人が

このゲームにおける二枚看板となっており、

二人のルートであれば大団円で物語は締めくくられる。


そして、私は処刑されることなく国外追放の刑となる。


戦争による被害も小さく、

登場人物が死の運命を辿ることもない。





逆に言うと、この二人以外のルートでは、

私は必ず処刑されることとなる。


そして、戦争による被害も大きく、

次期皇帝とされていたダリウスは病が悪化して死に至り、

新進気鋭の騎士であるグレンも戦場で命を落とす。





私の処刑エンド自体は、私がこれから自分の行動に気をつけてさえいればどうとでも変えられるだろう。


さすがに何の罪も犯していない令嬢が、

大罪人として処刑されることはないはず。


でもこの国に降り注ぐ戦火と、

ダリウスやグレンの死の運命はそう簡単に変えられない。





私はダリウスにもグレンにも会ったことはないけれど、

ゲームを一通りプレイしたことで、

彼らに対して情が芽生え始めていた。


例えゲームの中の出来事とはいえ、

私は彼らの死に痛いほど胸が締め付けられたし、

これが現実になると思うと怖くて堪らない。


だから、彼らを死なせたくないと、

心からそう思った。





未来はそう簡単に変えられない。


私のような高貴な身分だけが取り柄のただのしがない令嬢なら尚更、世界を変える力なんてない。


でも、未来を知っている私以外に、

他に誰が彼らを救ってくれるというのだろう。


そんな課題とずっと向き合って思い悩んだ。




その結果___


私はひとつの結論に至ったのだった。










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