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花のように飾って





窓から射し込むあたたかい日の光と、

麗らかな陽気に包まれて、ゆらゆらと微睡んでいた。





「お嬢様、本日の外出はやめておきましょうか?」





背後からそんな優しい声が聞こえて、

私はようやくはっと目を覚ます。


すると正面の鏡越しに、侍女のハンナと目が合った。


それと同時に、綺麗に着飾られた自分の姿が目に入る。





「すごい……」





私は自らの頬に手をあてると、

唖然とそんな素直な感想を呟いた。


美しいプラチナブロントの髪が綺麗に結われ、

淡いライラック色の花飾りがあしらわれている。


ドレスもライラック色で揃えて、

繊細に煌めく銀の装飾が美しい。


そして、淡い藤紫の丸く大きな瞳が、

まるで澄んだ宝石のようで、

私は我ながらこの令嬢の美しさに息を飲んだ。






「フィオナお嬢様はこのベルゴッド帝国随一の美女と謳われておりますから、どんなドレスをお召になってもお似合いです。」


「いや、すごいのはハンナだよ。

こんなにも綺麗に着飾れるなんて__」


「とんでもないです…!

でも、記憶を失われる前のお嬢様にこうして侍女に取り立てて頂いたのも、お化粧や髪結いの術があったからなんです。」






照れ臭そうにそう言う彼女を見つめて、

私は自然と微笑みが零れる。




私がこの世界で『フィオナ』という令嬢として目を覚ましてから、一週間ほどが経とうとしていた。


最初は何が起こったのかさっぱり分からなかったけれど、ようやく状況が掴めてきた。フィオナの輝くような美貌にも目が慣れてきた。




フィオナはこのベルゴッド帝国において大きな権力を持つウィステリア侯爵家という貴族の令嬢で、約ひと月前に眠りについてから、何故か目を覚まさなくなったのだという。


どんな医者に診せても原因が分からず、神殿から治癒魔術師を呼んでも一向に目を覚まさなかったらしい。


そんなフィオナの身体に、何故か私の魂が入って、唐突に目を覚ましたというわけだ。


さすがに私が異世界で暮らしていたただのOLだということは、告白する勇気がなかった。だから今のところはフィオナの振りをして何とかやり過ごしている。


とは言えこの世界のことを何も知らない私は、記憶障害と診断された。そして、脳への刺激を避けるために、目を覚ましてから念の為一週間は必要最低限以外では面会を断絶とした方が良いと言われたのだった。


その間私は、侍女のハンナとだけ会話が許された。


そして、その間にフィオナの家族のことを教えてもらった。





ウィステリア家は代々魔術の才に秀でており、ベルゴッド最大の魔術組織である魔術協会を取り仕切ってきた。


そんなウィステリア家は現在、当主とその妻、そして私含む二人の子供の四人家族だ。


両親は穏やかで優しい性格で、魔術協会のグランドマスターを務める権力者であり、領地経営や政治の手腕にも優れた人達らしい。


けれど、一人娘のフィオナに対してはべらぼうに甘く、これまで一度たりとも叱ったことはないのだとか。


そして、兄のジルは私より三つ年上で、

容姿端麗で優秀な人なのだという。


両親やフィオナとは血の繋がりがなく、

フィオナが十歳の時に、養子として迎えられたらしい。


フィオナはそんな三人の家族に愛され、

これまですくすくと育ってきたということだ。





そして、それ以外にもこの一週間で進展はあった。


フィオナの身体に入ったばかりの頃は、彼女の記憶を一切思い出すことは出来なかったけれど、ここ最近夢の中で、フィオナの記憶の断片を思い出すことがあるのだ。


そのおかげで、会ったことがない人達のことも何となく顔と名前は頭の中に浮かんでくるようになった。





「そんなことよりお嬢様……

本当にお身体の調子は大丈夫ですか?」


「え…?」


「先程から表情が少し険しいように見えましたので…

もし本調子ではないよいでしたら、

本日の外出は延期にいたしましょう。」






そう、今日は面会断絶からようやく一週間が経って、

リハビリも兼ねてハンナと二人で街へ出かけようとしていたのだ。







「ううん、大丈夫だよ。」






少しうとうとしていたり考え事をしていたりで、

いつもの調子ではなくて心配させてしまったのか、

ハンナはどこか悲しげな顔をしていた。


そんな彼女を安心させるように、

私は柔らかく微笑んだ。



その刹那だった___






「フィオナ、入るよ」






コンコン、と扉を叩く音が聞こえたかと思えば、

扉の向こうから男の人の声が聞こえて、

私とハンナは思わず目を丸くする。


そして、私も彼女も反応をする間もなく、

無遠慮に扉が開かれた。



そして____






「やあ、フィオナ。久しぶりだね。」






扉を開けて部屋に入ってきた男性の姿を見て、

私は思わず呆然としたのだった。









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