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実験小説

めちゃくちゃなファンタジー

作者: フルビルタス太郎

 この世界(ダリームエ)の人は、数え八歳になると神様から職業と()()()と呼ばれるその職業固有の力が与えられる。この職業は、その生を全うするまで変えることが出来ず、それ故、与えられる職業次第でその後の運命が大きく左右されてしまう。例えば、騎士の嫡男が吟遊詩人という職業を与えられたことにより追放されたり、逆に読み書きすら満足に出来なかった少年が賢者という職業を得たことにより一夜にして大賢者の養子になったりと、まさに人生の分かれ道といった具合だ。もちろん、与えられる職業の中には道具屋とか、役人とか、百姓といった無難なものもある。かくいう僕、アレン・スーリアも郵便屋という無難な職業を授かった中の一人だった。

 古びた自転車を漕ぎながら坂を登っていく。両脇には既製品を組み替えて作ったヘンテコな新物体(オブジェ)――ダダイスト達が作りそうな――が、ずらっと並んでいる。ふと、目の前に薔薇の緑門――モネの絵に出てきそうな――が現れる。その奥には重厚な白亜の館――全体的にネオルネッサンス様式の外観をしている――が見えた。ここが、今回の配達先である魔法使いアリエムの屋敷だ。

「やあ、アレンッ!」

 木苺を啄んでいた鳥――ウィリアム・モリスデザインのいちご泥棒のような鳥――がそう言って飛んでくる。

「やあ、次郎。こんにちは、」

 僕がそう言うと、彼は顔を顰めながら、

「ちがうよ。僕は太郎だよッ!」

 と、言って、飛んでいってしまった。

「……しまった、怒らせてしまった……」

 僕はそう言って、緑門を潜って敷地の中に入った。六弦琴(ギター)をかき鳴らす擬似生命彫像(ガーゴイル)の前を通って母家の前までいくと、唐破風の真下のドア――アール・ヌーヴォー様式の――が開いて見事な身体付(プロポーション)、所謂、助平好み(エチエチボディ)女召使い(メイド)がこちらに向かって駆け寄ってきた。アリエムの使い魔のダーリアだ。

「アレン、いつもありがとうございます」

 ダーリアは、そう言ってぺこり、と、頭を下げた。豊満な胸が、ゆさっと、揺れる。あー、いつ見ても目に毒だよな、この素体流(スタイル)。なんで、淫魔なんて使い魔にしたんだか……。いや、すけべジジイのことだから理由なんて一つしかないはずだよな。うん。

「はは、感謝される程じゃありませんよ。……与えられた仕事をこなしているだけですからね」

 動揺を隠しながら手紙を彼女に手渡す。王立魔法学園(アカデミー)からの招待状らしい。

「おー、アレン。来ておったのか」

 そう言って、奥から野菜達を従えた陽気な白髭の男がやってくる。彼がこの屋敷の主人である魔法使いアリエムだった。

「こんにちは、アリエムさん」

 僕がそう言って頭を下げると、アリエムは目を細めながら、うんうんと、頷き、

「……ところで、アレン。お主、今、暇かえ?」

 と、聞いてきた。そして、

「どうせ、暇じゃろ?……さ、こっちに来なさい」

 と、言って、僕の手を引っ張って、母家の中に入っていき、よく晴れた――ダヴィンチやチェンニーニが言及しているような天気――白漆喰(スタッコ)で作った浮き彫り――伊豆の長八の漆喰鏝絵によく似た――のある伊太利亜文芸復興(イタリアルネサンス)様式の回廊のある中庭を通って、サウンドチキン達が軽快な律動(リズム)に乗って踊っている時に現れる立派な正面外壁(ファサード)を持った建築物の群れを通り過ぎ、連続する迫持(アーチ)が美しい羅馬式水道橋を渡った先にある彫刻のある伊太利亜広場の真上に昇った太陽の影――キリコの絵のような――の中に入っていった。

 中は、夜だった。陶磁器製薄板(タイル)で装飾された廊下を通って、牛乳を注ぐ女――フェルメールの絵のような――に道を聞いて厨房に入っていく。厨房では、女召使い(メイド)と料理人が話をしていた。

「今日は月が一段と綺麗ですね」

 大理石の箱に豚脂(ラード)香草(ハーブ)を入れながら女召使い(メイド)のレディがそう言うと、料理人(コック)のコックスが、ガスの(コック)を開けながら、

「全くだね……。……知っているかい?こういう日は空から阿弥陀如来が二五菩薩の音楽隊を率いて転生者を連れてくるんだよ」

 と、言った。

「女神様じゃないの?」

「まあ、女神様の場合もあるけどね」

 コックスはそう言うと、アリエムと僕の方を向いて、

「ああ……、アリエムさん。他の方は既にお待ちになってますよ」

 と、言った。

 アリエムは会釈をすると、厨房の奥にある扉の回転式錠前(ダイアルキー)を四五〇回、回して開けた。扉の先は絢爛豪華な――ベルサイユ宮殿のようなロココ様式の廊下で、壁には狩野派の描く障壁画のような絵が描かれている――廊下だった。臙脂色の絨毯を歩きながら奥にある金色に輝く荘厳な扉――ギベルティの作った天国の門のような見た目――を開けると、異国の音楽――二胡が紡ぎ出す絹のような美しく澄んだ震えるようなほどに繊細な音色――が流れる部屋の真ん中で白い髭の見窄らしい姿の老人と品のある、しかし、厚みの少ない頭巾を被った男――役行者と三国伝来の薬師如来――が円卓を囲んで囲碁を打っていた。

「やあ、アリエム。待ちくたびれたぞい」

 老人がそう言うと、アリエムは、

「おや、善光寺と嵯峨のお釈迦様はどうしたんだね?」

 と、言った。

「ああ、善光寺如来様は新幹線で今、向かっているそうです。本当なら飛行機って、手もあるんですが、何せ、閻浮檀金ですからね、重いんですよ。……あと、嵯峨のお釈迦様はさっき、東京についたそうです」

「君もお釈迦様と同じ京都だろ?……随分と早いじゃないか?」

「ああ、私は空を飛べますからね」

 男はそう言うと、にこりと微笑んだ。

 そのあと、僕は自分に隠された新しい能力について知ることになるのだが、それはまた別の話である。

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