心霊体験怪奇談4
十七
本田の家は、正雄のアパートから結構な距
離がある。 約束の時間よりかなり早く出なければならない。 正雄は原チャリなのだ。
本田は約束の時間よりも早く、家の前で待っていた。 タバコを消した吸殻がかなり溜っている、もしかしてかなりの時間そこに居たのかも知れない。
「すいません、でも時間には間に合いましたよね?」
「ん、あぁ、そんな事よりも吉永・・・今日お前に来てもらったのはの・・・」
そう言うなり本田は話し始めた。 江藤が死んで間もなく、本田の家に江藤の幽霊が出る様になったらしい。 本田自体はまだ観たことは無いのだが、奥さんや子供がちょくちょく観て怖がっているとの事だ。 なぜ自分の家に出て来るのか正雄に聴いて欲しいとの事だった。 今朝も子供が観て泣きながら本田の所に来たらしい。
「マジっすか、俺江藤さん苦手なんすよね」
「そんなこと言うな、結構お前可愛いがって
もらっとったやないか」
「いやぁ~、でも、あの人怖いですよ」
「頼むよ、お前しか居らんのやで」
「只でさえ怖いのに、幽霊でしょ・・・」
「何を言っとるのか、お前なら出来るって」
悪い予感はやはり当たった。 どんなに嫌がっても本田は聞いてくれなかった。 結局は正雄が押し切られる形で本田の家に入る事になった。 気が重い・・・。
「失礼しま~す、おわぁ!」
部屋に入った途端、江藤さんと眼が合った。
部屋の真ん中奥にある大きなテレビの上に胡坐を掻いて座って居た。 そして眼、眼が銀色に成って居た。
「吉永、どうや?居るか」
「は、はい、い、います、います」
じゃあ後は頼んだと言い残して、本田は違う部屋に逃げて行った。
「え、江藤さん、俺ですマサです」
「ん?おぉぉぉ、マサか、解るのかオレが」
「はぁ、まぁ一応、観えています・・・」
「そうか、観えるか、まさかオレもこんな成るとは思って無かったわ・・・そうか、お前には観えるか・・・」
「あ、いゃ、その・・・観えるだけですから・・除霊だとか、そんなのはちょっと」
「誰もそんなのは頼んどらんぞ、おぅ!」
「ああ、はい、す、すいません」
余りの怖さに正雄は直立不動になった。
「お前、俺と話が出来るのなら丁度良いわ、ちょっと頼みがあるんや」
また、頼みだ。 流石に江藤さんの頼みは断れない。
「はい、何でしょう、俺に出来る事なら何でも言って下さい」
「おぉ、そうか?家に帰りたいのやけどな、光り物が邪魔してな、入ろうにも入れんのやで、お前何とかしてくれや。本田にずっとその事伝えよるけど、このボケ無視しやがる、
どういう事かこれは、おぅ!」
「光り物って何ですか?」
「知るかボケ、兎に角光っていて近寄れんのやで、行って見れば分るやろ、おぅ!」
「はい、すいません、直に行ってみます」
とにかくダッシュでその場を離れた。 やっぱり江藤さんは怖い。 途中本田が何か聴いてきたが、構っていられない。
江藤さんのご両親はまだ健在で、四十九日が終わったばかりの家に尋ねて行くのは、少し気が引けた。 対応に出て来たお母さんに事情を話した。 怪訝な顔をされると思って居たが、お母さんは正雄の話を聴くと光り物に心当たりがあると言う。
「多分コレじゃないでしょうか?」
そう言って玄関に飾ってある額を指さした。
日本刀の刃やら手裏剣やらを飾ってある額縁である。 昔から刀は魔除けになると言うが、やはり江藤さんは魔物なのだと正雄は思った。 お母さんはその額縁を何所に終おうかと悩んでいる様子だった。
「宜しければ、私が処分しましょうか?」
「あら、そうして貰えると助かります」
取り敢えず、貰った額縁は自分のアパートに飾ろうと正雄は思った。 気軽に正雄のアパートに来てもらっては敵わないからだ。
そして、本田の家にまたもやダッシュして帰った。 なぜかと言うと用事を頼まれた時にダッシュをしないと江藤さんにこっ酷く怒られるからだ。 昔からなのだが、身体がまだ覚えているのだ。
「お前、使える様になったな」
それが今回の件で、江藤さんから正雄が頂戴したお言葉だった。
十八
江藤さんの件が片付いて早ひと月がたち、正雄はそんな事件があった事さえ忘れかけていた。 いつもの様に原チャリで仕事からア
パートへ帰って来た。 季節はもう冬なのでまだ夕方の六時半だが真っ暗である。
「おい!」
「ん?」
「お前、どういう事か?」
「おW?え、え、江藤さん★〇△?✕」
「何でアレがお前のトコに有るんや?気軽に訪ねても来れんやないか、おぅ!」
気軽に訪ねて来ては困るから置いているのだが、そんな事は口が裂けても言えない。
「あ、いや、その、はぁ・・・」
「何で有るんや?」
「・・・」
「何でや」
「はぃ、すいません・・・」
「嫌なんか?」
「はい、いや、そ、そんなことは・・・」
「俺の事が嫌なんやろ」
「そ、そんな事ないですぅ」
「まぁ、ええわ、俺は嫌われ者やけの」
「す、すいません・・・」
「謝るなボケが!」
「すいま、あ、き、今日はどう言ったご用件でございますか?」
「お前には世話になったから礼を言いに来たんや、ありがとうな」
「へ?」
「お前が骨を折ってくれたから、最後に親にも逢えた」
良く見ると江藤さんの眼は銀色では無くなっている。 もしかしたら、怒りとか怨みとかそんなものが、眼の色に出るのかも。 今の江藤さんにはそんな感情は無いのだろう。
「それにしても本田はつまらん」
「はい、おっしゃる通りです」
「アイツは最後まで口ばっかりやったわ」
「・・・」
「まぁ、俺ももうこっちには未練も無いし、親にも逢えたし、そろそろ行こうかと思ってなぁ」
「え、成仏されるのですか?」
「おお、その成仏しようと思ってなぁ」
「行くとこ分るのですか?」
「アホ、俺を誰と思っとるんかぃ!そんなもん解っとるに決まっとるわぃ、おぅ!」
「そうですか・・・じゃあ、お元気で」
「おぅ、お前も元気でなぁ!」
「はい、失礼します・・・」
頭を上げたときには江藤さんはもう居なかった。 しかし生前あれだけ悪さの限りを尽くして居た江藤さんが、すんなり成仏が出来るとは・・・。 世の中には成仏出来ずに彷徨霊は沢山居るのに。 人はこの世に生を受けて、人生を生き、そして死に、あの世と言う所に行く、この意味は何なのか。 何の為にそうするのか。 考えても答えは出ない。
それにしても江藤さん、最後まで男らしかったなぁ。 実は江藤さん殺されたのです。
デカデカと新聞にも載って居たらしく。 どこか九州のヤクザ組織が分裂して抗争になり
その時の関係で命を落としたらしい。 結構長い間ドンパチやっていたからなぁ。 しかし江藤さんの様な例はまれである。 何年も世の中を彷徨っていても成仏出来ない霊は沢山居るのだから。 世の中ホント分らない事だらけ、何が本当で何が嘘なのか、一度死んでみないと分らない。
ホント、こんな世界があるはずは・・・
了