心霊体験怪奇談3
十五
波長と言うモノがある。 人にはそれぞれ自分の波長を持っていて、たとえば逢った瞬間から気が合ったと言う経験はないだろうか?それが波長で、同じ周波数の波長を持っているからである。 逆にこの人とは合わないなと思う人は、波長が違うのだ。 それは皆魂レベルで持っていて霊魂になっても波長はあり、正雄は同じ波長が合う霊を観ているのだ。 ラジオの周波数みたいなモノと想像すれば分りやすいかも知れない。 たまに強い力を持った霊が居るが、それは強力な波長を持っていて、違う波長の人でも観えてしまうのだ。 電波ジャックみたいなモノだ。 それは人でも同じで、修行をすれば波長は広がるのだ。 また修行かぁ、正雄はこの修行が大嫌いなのである。 瞑想も最近はやっていない。 元来が怠け者なのだ。 面倒くさい事は出来ればやりたくないタチなのだ。
寝入ったばかりなのに、いきなりの金縛りに少し正雄は驚いた。 金縛りの日は前もって分かる様に成っていたからだ。 前もってのアポ無しの金縛りは初めてだ。 いつものように力技で解く事にする。 今回は怒りの気持ちを込めて、いつもより強い力を込めて一気に解いてやった。
バッチィ~ンッ!
いつも以上に身体には悪そうで大きな音がして金縛りは解けた。 ホントにいつも思うのだが、身体は大丈夫だろうか?きっとこの解き方は正解ではないだろうなと思いながら観ると、見るからに中学生くらいの少年が座って居た。 猫峠で会った中坊とは違う。 このガッキャァ(ガキ)今寝入ったばっかりなのに、何て事をしてくれているのか、明日も仕事やぞぉ、クソがぁ。
「おい、ゴルァ!(コラァとゴラァの中間で発音)この中坊がぁ、今寝入ったばっかろやろがぁ!クソガキがぉ」
おっと、この中坊反抗的な目付きしている。
はぁ~ん、そう来る、可愛げないのね。 この前のおばさんを製品で例えると完成品、それを言いくるめるのは骨が折れる作業だ。
だが中坊となるとまだまだ、製品で例えるのなら組み立ての途中、かわいいものだ。 楽勝だ、この勝負貰ったようなものだ、取り敢えず正論でもぶち込んでみるかな。
「それが何?」
ん?何って?あれ、この子全然理解しない。
ん~、仕方ないなぁ、こう言う困ったちゃんには、やっぱり恐怖を植え付けるしかないのかな。 可哀そうかなぁ、でも早く寝たいしなぁ、ま、でも仕方ない、行きますか。
「お前なぁ・・・え?何?どうした?」
言った途端に、バッチ・バチッと至る所からラップ音が鳴りだした。 観ると中坊の眼が白になって居る、色付きだ。 金色や銀色ではないが、色が付いているのは良くない。
「うそぉ~ん!この子強いヤツやん!」
色付きは基本強いヤツなので、いつもはとにかく関らない様に努めて居るのだが、今回ここまで関ってしまっては無事では済みそうにない、ヤバイなぁ、オワタ。 そう思った瞬間だった、一瞬目の前が真っ白に光った。
まるで稲妻が光った様だ。 その時に中坊の霊が窓の外へと吹っ飛んで行くのがチラッと観えた。
「全く、お前が最近調子に乗っとるからこんなのが来るんやろが!」
「へ?おじさん誰・・・ですか」
「心に驕りがあるから呼び寄せるんや!馬鹿者が」
「え、あっ、はい?」
「全部自分が呼び寄せよるのが分らんのか?
気付かんのか?全部自分のせいなのが?」
「はぁ、すいません」
「ホンマ、負を背負ってからに、馬鹿者が」
いきなり背後から現れたおじさんに叱られたのだ。 そのおじさんは茶色系の昔に流行っ
たであろう背広を着て、靴もこれまた昔に流行った様な古めかしいモノだった。
「て、ちょっと、土足、土足」
「馬鹿者!ワシの話をちゃんと聴いとるのかぁ!今後のお前の為に話しよるのだぞ」
「あ、あぁ、はい、すいません、で、おじさんは誰ですか?」
「お前・・・まだ分らんのか」
「え~と、前に何処かでお会いしました?」
「ワシはお前の守護霊じゃ!」
守護霊とは、誰にでもその人の後ろに憑いて居る霊で、その人を厄災から守ってくれて居るのだ。 またその人を良い方向に導いてくれて居る霊だと伝えられている。 もう少し深く語れば、守護霊はその人に縁があり、何代か前の先祖であったり、前世で近い身内であったりと、とにかく由縁のある霊なのだ。
守護霊の力にも大小があるのだろう、その証拠に前回猫峠の件の時はその姿さえ現さなかったのだ。 正雄はその事は忘れない。
「今回は本当に有難う御座いました」
「ん、危ないとこじゃったわい」
「はい、私には守護霊は憑いて居ないと思っていましたから、ホント感謝です」
「何が言いたい、ハッキリと言わんか」
「いえいえ、前回の危なかった時は何をされていたのかなぁと思いましてね」
「ふん、結局は助かったじゃろう」
「まぁ、そうですが、え、じゃああの時助かる事が始めから分って居たのですか?」
「馬鹿者が!遊び半分で危険な場所に自分から行きおって、そんなモノ始めから分かる訳ないじゃろ!」
「え、じゃあ何で?」
「ワシより遥かに強いのが居ったからの、任せておったんじゃ」
「そうだったのですか、納得しました」
「お前勘違いするなよ、毎回助けて貰えると思ったら大間違いじゃからの、ワシらは普段からの行いをちゃんと見とるんじゃ」
「はぁ、行いですか」
「分っておって危険な事をしおって、普通なら放っておく所じゃ。だがあの御仁が言うには、誘ったのはこっちの方だからと、何かあったら申し訳ないからと動いたのじゃ」
あの御仁とは、後輩の守護霊の事だろう。 そんなやり取りがあったのかぁ、全然知らなかった。
「お前らの行いは、ワシらに連動するのじゃからの。悪い行いを繰返せば当然ワシらの霊格は下っていく、逆に良い行いをすれば霊格は上がる。じゃからワシらは良い行いをさせる様に尻を叩くのじゃが気付かんのが多いのう。良いかワシはお前に伝えたからの、良い行いをしてワシの霊格を上げてくれや」
「何と図々しい、そんなので良いのですか」
「馬鹿者が、そうすればお前の人間性も上るんじゃ、それじゃあ頼んだぞ」
そう言って守護霊は消えた。 確かに守護霊の言う通りだ、人間性が上るのならお互いに
ウィンウィンな関係と言う奴だ。 正雄は久し振りに心から笑った。
十六
自分の守護霊と話をする事など、中々経験出来ないだろう。 自分の行い次第で、守護霊の霊格が上ったり下ったりすると言われると、悪い行いが出来ないではないか。 しかしそれでこっちの人間性も上ると言う。 まぁ確かに良い行いをすれば、良い人間に見られるから当たり前だよなぁ・・・上手い事丸め込まれた様な気がしないでもない。 それにしてもあの世と言うのは本当にあるのだなと今更ながら、思ってしまった。 成仏してしまうと全く違う次元に行ってしまうと言う事は何となく理解した。 しかしこの世を彷徨魂たちは、いったい何所に居るのだろうか。 あの世でもこの世でもない世界があると言う事だろうか。 しばらく考えて正雄が思ったことはこうだ。
例えるなら、熱帯魚店に水槽が2つあると仮定する。 それぞれの水槽に入っている魚は決して交わる事は無い。 しかし同じ空間に存在する。 熱帯魚店と言う空間は同じなのだが、魚にとって自分が居る水槽以外に、別の世界があるとは思っても見ないはずだ。
しかし同じ空間には別の水槽があるのだ。
そのような感じで、霊が居る所と、自分たちが居る所では、同じ空間であっても交わる事が出来ないと言う事ではないか。 本来はその交わる事が出来ないはずが、正雄は交わる事が出来る。 やはり、特別な何かが正雄にその力を与えたとしか思えない。 偶然では有り得ないはずだ。 悪い事には使えないなと思う。 自分の為に使うのもダメ、金儲けに使うのもダメか・・・今更ながら、しんどいなぁと思う。 そんな風に考えて居ると、携帯電話が鳴りだした。 こんな時間に誰だろうと思いディスプレイに表示された名前を見ると本田隆、昔世話になった先輩だった。
五年ぶりだろうか、こんな時間に何の様だろうか。
「お久し振りです、元気でしたか」
「おう吉永も元気だったか?」
「まぁ、ボチボチです、所で何でしょうか」
「おう、そうそう、それはそうと吉永ぁ、お前、幽霊が見えるとやろ?」
余り人には言って無いのだが、もうそんな噂が流れて居るのか・・・
「はぁ、まぁ少々たしなむ程度には・・・」
「そうか、まぁええわ、それでちょっと頼みがあるんやわ、明日、俺の家に来てくれや」
「はぁ、明日ですか」
明日は休みだ。 別に予定もない。
「なんか都合悪いんか?」
「いえ、大丈夫ですけど」
「おう、それなら頼むわ。それと、お前江藤が死んだコト聞いたか?」
「え~、江藤先輩がですか?マジですか、全然知りませんでした」
「そうか、葬式も内々でしたらしいからの」
「江藤先輩でも死ぬのですね」
「おう、俺もアイツが死ぬとは思わなかったのやけどな、マジやで」
それだけ言うと本田は電話を切った。 それにしても江藤先輩が死ぬとは・・・。 地元でも有名な不良で、それは、それは、怖い先輩でした。 数々の武勇伝を持って居て、殺しても死なない様な存在だったので、正雄は信じられなかった。 もしかして、死んだのは嘘で、明日本田の家に行ったら江藤と本田にボコられるのでは?と少し心配になったが、
江藤はともかく、本田はそんな事をするような人ではない。 やはり江藤は死んだのだ。
明日の頼みは、正雄に霊が観える事と関係があるのだ。 何か嫌な予感がして来た。
江藤の死と関係がある、きっとそうだ。