表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集

粘着質な、カタクリさん

作者: 飯塚 喆

あなたは何を隠し、何を見つけましたか…?

 今日も彼女は俺の背後、電柱の影に身を潜めている。

 いったいなんなんだという思考を反芻させつつ、欠伸を垂れ流して登校する。

 17歳の5月。特に言ってこれというものはない。一時期は青い部屋に飛ばされて自分の分身が出てきたりとか、憂鬱ぶったツンデレなやつとかいないかな、とかちょっと思春期真っ只中のノイズと言いますか、何やらそんな一抹の思考が飛び交ったりしたが、そんなこと俺の周りにとってはどうでもいいことのようだ。

 いやいや、後ろにくっついてくるなんかやばい奴がいたわ。かと言ってこんなことになろうとは実際に被る身になってわかったことだが、大変なことこの上ない。

 ひょこっとこちらを見る彼女は中も外も個性的だ。

 まず、どう見ても髪の毛がうぜえ。暑くなり始めたこの季節において見るだけでこっちまで暑くなっちまう。

 そしてだ。ついてくる割にはこっちが見つめ返すと引っ込む。よく見ると顔はとても形は整ってるし、仕草も少しは可愛げがあっていいとは思う。思うが…見たり引っ込んだりの堂々巡りで、「おいおい俺はどうすりゃいいんだ…」でいっつも終わっちまう。

 そうして学校につく。

 学校の門には謎に鳥居があって、ここを潜るたびに懐かしいような、悲しいような押しつぶされる気持ちにいつも襲われる。

 というのはどうせ気の所為なのでどうでもいいが、学校についても相も変わらず、こんなにしっとりと追跡される。

 当然、俺についてくるカタクリさんこと、“片栗 時子”はあまり良くない意味で学校中の噂になっていた。当然俺もアンハッピーセットで、だ。

 俺はいつもクラスメイトに心配の眼差しを向けられる。カタクリさんも。

 そう、カタクリさんは同じクラスで後ろの席なのだ。

 視線が怖い。話しかけても喋ろうとはせずに一つ微笑みだけを返してくる。

 気になってしょうがない。

 気になりすぎて授業に集中できな…


「…くん…馬鈴くん!ちょっと聞いてるの?」


「う、あ、すみません。なんですっけ。」


「もう、授業ちゃんと聞いてよー?ここの3桁目の値の話!」


 はあ…これじゃカタクリのせいでダメになっちまう。

 俺は意を決してある計画を立て、実行することにした。

 下校の時、カタクリはいつも俺の家の前まで来るとボーっと突っ立った後に諦めて帰っていく。

 俺はそこに着目した。

 インターホンのカメラでカタクリが身を翻したことを確認した後、そっと後を追うことにした。

 ストーカーになれたせいなのかカタクリは足腰が強いようだ。ついて行くので精一杯。

 数々の交差点や歩道橋を抜けて行った。

 辺りは薄暗く真っ赤な焼けが空に広がっていた。

 カタクリはどこに行くのやらと思いきや、たどり着いたのはなんと学校だった。

 いつもと違う異様な雰囲気がおどろおどろしく、足を踏み入れづらかったが、好奇心が勝ってしまった。鳥居を潜るとやけに心を冷たい手で撫でられるような感覚がした。

 カタクリについていく。

 しかし、校舎の敷地に入り切る前に右折した。

 別の道に入って行った。

 こんな道あったんだと、異界の要素が俺を圧倒し、流石に帰ろうと思ったのだが、振り返ってはいけない気がして前に進むしかなかった。

 カタクリはズンズン進んでいく。

 すると、突然道が開けたと思ったら、カタクリが急に消えて、目の前には大きな池があって、その手前には祠と花が備えてあった。カタクリの花だった。

 あ。ハ…

 何も考えずに祠の前に足を運んでいくね。

 やめろ。

 やめろ。

 ヤめろ。

 やめろ。

 俺の意思じゃなかった。

 でも、祠の前に来た時にあることに気がついた。

 祠の扉が開いていた。

 中からクら闇が出てきて、俺にシん実を見せてきた。

 

 そうだよ。

 君のせいで私はここで眠ってる。水に溶けている。

 それでもあなたは懲りずにいた。

 私がどうしても欲しくてここに身を投げたよね。

 でもあなたは私を知ろうとはしなかったネ。


 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ…


 響き渡る声が静寂を狂気に変えた。


「はぁはぁ…そ、そんなことはないんだ。ななな、ちがっ…俺は君が欲しかっただけなんだ…」


「だから、いま、あなたはわたしとひとつだよ?」


 口が勝手に動く。

 狼狽えて池の前に手をつくと、水面に映った顔はカタクリだったが、だんだん中身が裂けて内側から俺の顔が覗き込んでいる。

 そうか、オレはカタクリだったんだ。 

 最初からそうだった。

 片栗じゃなくてカタクリ…

 そうだったんだよ…

 あははっはっはっははははっははっははははっはっはっははっははははっははっはははっはははっははっははっはあっはっははは!!!!!

 口が3つに裂けているから、笑い声が重なった。

 彼女とやっとひとつになれたあああ!!

 ケタケタケタ…ケテ…

みっつのケタでみつけた…なんつって…グフッ…

+ケテでたすけて…なんつって…グフフフ…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ