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義確認飛行化学生命体  作者: 鮭之氷頭
7/10

首だけロイドはレモン電池の夢を見るか?

前回の襲撃から三日が経った現在、少し面倒な問題に直面している。

ロボットの修理だが…腹部の破損がかなり深刻なため、胴体の修復が出来ないのだ。

何とかして、代わりを見つけなくてはならないが、こんなにリアルな物は何処を探せば見つかるんだ?


「少し酸っぱいですが、悪くありませんね。」

「呑気を言っている場合か。」


どうやら、頭部は無事に済んだ様なので現在はレモン電池に頭を繋げている。

冗談半分で繋げたのだが、まさか起動するとは。


「胴体の代わりが見つからないんだ。」

「ワタシを作ったところへ行ってみては?」

「何回も言ってるだろ…お前を作った会社は存在しないのだぞ。」


製造元へは連絡しようとしたが、会社の情報が一切見つからないのだ。

なんだよアメリカって!何処にあるんだよ!


「一体、どうすれば…」

「ではシリーズを探してみませんか?」

「シリーズ?」

「はい、ワタシは元を辿ればメイドロボットです。こう見えても世話焼きロイドシリーズとして生まれたのですよ。」


「何だそれは?」


聞いた事が無いな、そんなロボットシリーズ。

って言うかこいつみたいなのが大量生産されているのか?


「世話焼きロイドとは多種多様な次元に蔓延るロボット達です。」

「嘘だろ…お前、他の次元から来たのか?」

「そんな感じですね。ワタシはポンコツだったので、この次元に捨てられてしまいました…」


ポンコツだったら直せばいいだけだろ…何で捨てたんだ?


「途方も無く彷徨った挙句、ワタシはとある人に拾われました。」

「イルカ男か?」

「そうです。最初はせこいナンパかと思ったのですが人身売買だったのですね。」


人身売買?ロボットなのに?


「3人ほど転々として、あなたの元へ来たと言う訳です。」

「そうか…ってお前のシリーズはこの次元に居るのか?」

「100年ぐらい待てば来ると思います。」

「長いよ…私はもう我慢できない!のだ…」


どこぞのゴリラみたいな事を言ったが、我慢できないのは事実だ。

助手がトカゲになってしまった為、繊細な作業が出来なくなり、分離装置の開発が遅れている。

私一人では手に付かないのだ。


「高性能なロボットのパーツなんて一体どこに……ハッ!!」

「どうかしましたか?」


ちょうどいい場所があるじゃないか…たった今、思い出したぞ…

たしか、我が故郷、デカルタの方にはムーン・ヴァンプ社の展示館があったはず。

そしてその展示館にはこの世にたった1台だけの高性能ヒューマノイドが置いてある。

そのパーツを流用すれば…よし、たしか本社から遠いので、爆破被害は免れたらしい…


「ロボット!お前の新しい胴体が決まったぞ!」

「良いですね、期待してますよ。」

「なんか、真面目だなお前…」

「今のレモンじゃジョークを言う程、発電できませんから…」


翌日の夜


早速だが、今夜決行することにした。

計画は簡単だ、まずマイの操縦する船でデカルタの港まで行く。

そこからは私、アイ、助手の3人で展示館のヒューマノイドを拝借する。

そしてさっさとトンズラする…完璧だ。


「良いか、こんな感じだ。」

「計画に展示品を見て回るを追加して良いっすか?」

「しょうがないな…」


ついでに早く用が済んだら、ちょっとは見て回るか。


「よっしゃ、行くぞお前ら!」

「ワクワクするっす。」

「アドレナリン出まくりだよ。」

「操縦ちゃんとできるかな…」


こうして私達4人は武装すると、屋敷を飛び出して、港へ向かった。

ちなみに船は手配済みだ、昨日のうちに一隻拝借しておいたのだ。


「寒いねー」

「もうそろそろ港だ、各自武器を準備しとけ。」


デカルタの港や展示館には警備として武装した傭兵がうろついている。

こちらも武器は準備しておいた。

助手にはスタンガン、アイにはカタナを、そして私は麻酔銃…じゃんけんで負けてしまった…

一方、一人勝ちしたマイは護身用として機関銃を選んだ、留守番にしては大袈裟だ。

船を港の端へ停泊させると、誰も居ない事を確認して、上陸した。


「マイ、何か聞かれたら遠慮なく、ぶっ放せ。」

「アイアイサ―!ついでにパンフレット持ってきてね。」


身長に進んで行くと、奥の方で警備が突っ立ているのが見えた。

参ったな…あそこを通らないと、出れないのだ。


「どうするっすか?」

「ヤるしかないだろ…私が行こう。」


動物用の麻酔銃だが人間も動物なので効くだろう。

銃にダーツを詰めると、銃口を警備兵へ向けた。


「(スコープが付いてるライフル型を買えば良かった…拳銃型は使いにくいな。)」

「うん?誰か…」

「(こっち向くんじゃねぇ!)」


相手がこっちを向いて来たので慌てて撃ち出してしまった。


「が…がが…」


が、奇跡的に着弾した…相手の右目に。

何が起きたか理解できなかったようだが、相手はすぐに倒れこんだ。

流石にこのままにしておくわけにはいかないので、何処かへ隠すか。


「(とりあえず、ダーツを回収…)あ。」


眼球ごと取れてしまった…そういえば、針に返しが付いていたような気が…

大丈夫だ、戻せば…戻せば…

グチュグチュと音を立てながら眼球を戻そうとするが、中々良い感じにフィットしない。

こうなったら無理やり…


「あ…潰しちゃった…」


力強くねじ込もうとした結果、眼球は汁を飛ばしながら、プチトマトの様に潰れた。


「こうなったら…切るしかないな…」


眼球を本体と繋げている紐みたいなものを切って、気絶している内にコンテナの裏に隠した。

ダーツは潰れた物と共に本人のポケットに入れておいた、記念になるかな。


「おい、行くぞ。」

「やけに遅かったすね。」

「早くしないと明日の日が沈んじゃうよ。」


私達は急ぎ足で展示館へ向かった。

展示館…の裏


正面から入るなんてただのバカだ。

例え成功したとしても監視カメラに写っていては意味が無い。

まずはカメラから潰そう。


「裏口に一人いるっすね…拙者が行くっす。」


助手はスタンガンを取り出すと、裏口に居る奴に正々堂々と近づいた。


「何だお前!」

「今日、此処に来たんすよ、財布落としちゃって。」

「怪しい奴…付いて来い。」


警備兵が裏口の鍵を開けた瞬間に助手はスタンガンで相手の後頭部をぶん殴った。

スタンガンなだけあって相手はへなへなと倒れた。


「いやー良いすね、スタンガンは。」

「使い方はともかく気絶したなら良いか…」

「それなら早く、中へ入ろうよ。」


気絶した警備はゴミ箱に隠して、ちゃちゃっと中へ侵入した。

やっぱり、真夜中だけあって、静まり返った薄暗い廊下は不気味だ…

音を立てぬ様に歩いて行くと、警備室を発見した。


「鍵は掛かってない様だな。」

「中からも音は聞こえないっすね。」


ゆっくりと扉を開けると、中には誰もおらず、大量のモニターが点灯しているだけ…


「今のうちにカメラの記録を消して、電源をオフにするぞ。」

「じゃあアイ達は見張って……誰か来てる!」

「何だと…」


カメラをいじる前に誰かが来てしまう!早く隠れなくては!

アイはロッカーに隠れ、助手は天井に張り付き、体の色を変えた。

えーっと…私は一体どこに!ええい!こうなったら!


「ん?人の気配が…気のせいか…暇だしアイツのアカウントでゲームでもすっか。」

「(た…助かった…)」


なんとかドアの後ろに隠れて、やり過ごせたようだな…

監視員はそのまま、モニターでゲームを始めた。


「モニターが沢山あるから攻略を見ながらプレイできるぞ!さて…爆発する奴は猫が嫌いなのか…」


呑気にゲームを始めやがって…こいつもやるか。

私は保護色に染まった助手に目を向け、奴をヤれと合図した。

そうすると助手は尻尾を伸ばし、監視員の首を絞め上げた。


「!?ググ…これ…は…」


そのまま助手は監視員を絞め殺した。


「ふぅ…なんとかセーフだ。」

「こういう尻尾の使い方もアリっすね。」

「ハァ…ハァ…この中、汗の匂いがしてキツかった…」


さっさとカメラを細工するか…そのついでに監視員が遊んでいたゲームのキャラクターを溶岩に落としておいた、どうやら死ぬとそれっきりの設定の様だ。

カメラはオフにしたのでいよいよ次は、本体の拉致だ。


「監視カメラの映像を見るに、館内には警備員は居ない様だ。」

「掃除とかも全部、ロボットにさせてるっすねー」


道中はせっかくなので、見て回ろう。

少しは頭が良くなるかも?


「……これは…」

「これは博士っすね。」


ヒューマノイドが展示してある近くのスペースには私のコーナーがちゃんとあった。

なんだかんだで作ってくれたのか…


「若き天才科学者、その名もミ「読むな。」


助手が私の名を呼ぼうとしたところを間一髪、止めることが出来た。


「どうしたの?これ、博士じゃないの?」

「気にしないでくれ、過去の事だ。」

「すいません…」

「もういいから、早く行くぞ。」


さて本題に戻るが…ヒューマノイドはデカいな…こんなにデカかったか?

ロボットだとしても、成人女性ぐらいの大きさだ。

それにクソ重い。


「重そうっすねーどうやって運ぶっすか?」

「とりあえず袋は持ってきたが…」

「まずは入れてみようよ。」


3人がかりで何とか袋に入れたが…引きずるしかないか…

引きずるとしても重いな…馬車の馬ってこんな感じなのかな。


「ちょっと重すぎない…?」

「やはり無理か…」


こうなったら、バラすか。


「アイ、カタナでヒューマノイドの四肢を切断しろ。」

「よっしゃー!」

「なんか怖いっす…」


アイはヒューマノイドの手足をカタナで切断した。

カタナってこんなに斬れるのか…


「これで大分軽くなったな。」

「けど博士。」

「なんだ?」

「まさかそれをそのまま付けるの?ロボットちゃんに?」


ヒューマノイドと言っても見た目はメカメカしい臓物丸見えスケルトンだ。

服を着れば違和感が無いかもしれないが…裸だとグロいな。

だが選り好みする場合ではないのだ!とりあえず今はレモンがフレッシュな内に帰らなくては!


「一応、手足も持って行くか。」

「じゃあアイは両手を持って行くよ。」

「足っすか…重そうっす…」


あえて頭は残しておいた、大事な物が入っているかもしれないしな。

私達は来た道を戻って、港へ向かった。


「よし、ここまで来れば平気だな。お前らご苦労。」

「意外とうまくいったね。」

「疲れたっす…早く帰って寝たいっす…」


船が停泊しているところへ戻ると、マイがごそごそと何かを行っている。


「何やってるんだ?」

「ん!?聞いたな!死ね!」

「わー!止めんか!」


マイは私達に向けて機関銃を乱射した。

このままでは盗んだ物と一緒にハチの巣にされてしまう!


「助手!やれ!」

「了解っす!…悪く思わないでね…」


助手はマイに向けてスタンガンを発射した。


「アババババ!!………」


電撃を受けた、マイはぐったりと気を失った。

騒ぎを聞きつけた警備兵が来る前にさっさとトンズラだ!

全員が船に乗ると、助手が操縦して、港を脱出した。


「はぁ…なんか急に疲れたな…」

「アイが操縦するからトカゲちゃんと博士は休んでてよ。」

「悪いっすね。」


だが私は疲れている場合ではない。

帰ったら、ロボットの修理を行わなくては…

一回寝てしまうと、集中力が散漫になるので、このままオールで起きてるか。

助手はお構いなしに寝た。


「なぁ…アイ、ちょっと良いか?」

「うん?なにー?」


実は前々から気になっていることがあるのだ。


「アイとマイはどういう関係なんだ?姉妹か?」

「姉妹か…そうだったら良かったね。」

「随分遠回しに言うのだな、違うのか。」


私はずっと姉妹だと思って、接してきていた。

違うときたら一体何なのだろうか…


「アイとマイは強いて言えば、心と体を重ね合った仲…かな?」

「マジかよ…そんな関係だったのか…」

「初めての出会いだって、アイが一晩、107ズマンダでマイの事を買ったからだよ。」


しかも風俗かよ…

1ズマンダってどれぐらいだろうか…


「そのあとは本当に色々あったよ。でもそのおかげでこの星まで来れて、博士達に遭えたんだよ?」

「そうか…」

「いやー本当に感謝してるよ、毎日が楽しくて楽しくて…」


そう言われると何故だか少し、嬉しいな。


「ところで逆に聞くけど、博士はトカゲちゃんと寝たことあるの?」

「なんてことを聞くんだ…あるわけ無いだろ。」

「そうっすよ、まだキスまでっすよ。」

「心臓に悪いから急に起きないでくれ…」


やはり助手は忍者になりつつある。

早く、分解しなくては…


「キスまではしたんだ。」

「言い方って物があるだろ。あれは人工呼吸だ。」

「けど口と口は付けたっすよ?」

「どんな状況だったの…」

「随分前に2人で海へ行ったんだ、助手がはしゃいだ挙句に溺れてな。」


いくら助手とは言え、流石にあれは気持ちが悪かった…


「あの日の夜は眠れなかったすね。」

「変な事を言うな…」

「じゃあさ、博士は今までの人生で好きだった人は居ないの?」

「いるわけ無いだろ、誰も寄って来ないし好きになろうとも思わない。」


私はきっと未婚のまま、一生を終えるだろう。

流石に私が死ぬときには助手は心変わりしてると思うが…


「愛情なんて受けたことも無い。」

「面白いっすね、愛情を知らないのに愛情と言う言葉は知っているなんて。」

「けどさ、愛とかって言うのはあげたり、もらう物じゃなくて、共有する物だと思うよ。」

「ヒッピーみたいな事を言うじゃないか…愛なんて非現実的だ。」


船は進んで行く、暗い海を。

島まではまだ遠いな…


「話は変わるっすけど、アイちゃんとマイちゃんは同い年っすか?」

「え?全然違うよ。」

「じゃあどっちが上っすか?」


私はアイだと思うが…


「マイの方が5つ上で13歳だね。」

「以外っす…」

「この星とお前たちの星の1年は一緒なのか?」

「たしかこの星より12日遅いね。」


12日も違うのか…いや、12日しか違うと言うべきか。

1年と言う文化もあるのか…


「そういえばこの星の1年はいつ終わるの?」

「もう直ぐっすね、もうそんな時期か…」

「寒いときに終わるんだね、アイ達の星だと暑いときに終わるんだよ。」

「意外だな、その点は違うのか。」


やはり文化の違いは面白いな、そして実に興味深い。


「やっぱりさ、1年の最後の日にはお祝いしたりご馳走食べたりするの?]

「いや、特にしないっすね。」

「強いて言えば、夜更かしぐらいだな。」


他の島や宗教に入ってる奴らは何かするらしいが、特に私達は何もしない。

パーティーを開くとして、何を祝うのだ?


「何もしないんだ…」

「まぁな、ここら辺では祝い事をするのは誕生日や結婚式ぐらいだな。」

「たまにハイテンションな人がパーティーを開くっすね。」

「寂しいね、君たち。」


他の星の奴らは意外と寂しがり屋なんだな。


「あ!島が見えて来たよ。」

「やっぱ、都市部の方は夜景がキレイっすね。」


レナ・バトス大陸の都市はギラギラと輝いている。

都市部は商業区、工業地帯が街を囲み、さらに街の中央に軍事施設が位置している。

工業地帯の夜景は未来的で尚且つ、神秘的だ。


「う…ん」

「起きたか。」


マイが目を覚ましたが状況が理解できない様である。


「えーと、マイは…何を…あ!パンフレット!」

「あー…忘れてたな、すまん。」


そういやそんな事を言われてたな。

色々あって、すっかり忘れていた。


「そんなー…」

「パンフレットなんてただの紙切れだ。ヒューマノイドの右腕で我慢してくれ。」

「そうは言っても…まぁ良いか。」


言ったはいいが右腕なんて貰ったら、何に使えばいいのだろうか?

背中を掻いたりすることは出来そうだが…


「もうすぐ、港に着くから、降りる準備しとけ。」

「この船はどうするっすか?」

「放置、見なかった事にしよう。」


所詮は使い捨てだ。


「いやー眠いっす…」

「お前ら、夜更かしはするなよ?」

「わかってるよ、お肌に悪いからね。」


屋敷に着くと、早速ロボットの修理を始めた。


「おい、起きてるか?」

「レモンの方が大分痛んできてます…」

「すぐ胴体を修理するから、何とか持ちこたえてくれ。」


破損した胴体をヒューマノイドの胴体に融合させるか。

それにしても凄いな…神経や筋肉の様なパーツは何で出来ているのだろうか…

構造も驚く程に複雑だ、一つ一つの作業に繊細な動きが求められる。

だが最も恐ろしいのはロボットの胴体に埋め込まれている、エンジンだ。

厄介なことにこのエンジンは燃料としてウラン鉱石を使う。


「もしもエンジンを壊せば即、被曝するな。」

「気を付けてくださいね、あなた以外に直せる人は居ないのですから。」


もし、胴体を融合させたとしても腐りかけの死体の様な見た目になるな…

それに強度だって前の物には劣るだろう。

分離装置が完成したら、ちゃんとした胴体を作ってやるか…


「完成…した…かな?」

「早速、結合、復活。」


何とか胴体を完成させたが、ロボットが節電モードに入り、単語しか話せなくなってしまった。


「繋げるぞ。」

「了解。」


ロボットの首を電池から外して、胴体へ繋げた。

エンジンのスイッチをオンにすれば…


「あれ?」


エンジンが動かない…


「オラァ!…お!」


思いっきり叩いてみると、ようやく動き出した…これで良いのだろうか…

以前にも増して、ポンコツ度が上がった様な気がする…


「胴体の結合を感知。起動します。」

「…どうだ?」

「なんだか前より元気な気がします!バッキバキのギンギンです!」


どうやら前のロボットに戻った様だ。


「けど博士。」

「なんだ?」

「足は何処に?」


足の接続はまだ行っていない。

腰の損傷が原因で動かなくなってしまったのだ…


「ヒューマノイドの下半身を作ってみたが…付けるか?」

「動けなければ意味がありませんですし。」


一応、替えも作っていたが、ガワが無いので配線やフレームがむき出しだ。

少しグロテスクで気持ち悪い…


「身長は変わらないと思うが、歩いた感じはどうだ?」

「少しふらつきますね。けど使えないことは無いですよ。」


とりあえず、足はこれで代用するとして…私は寝る…

外を見ろ!もう朝じゃないか!小鳥も囀りまくってるし!

なぜだか、どっと疲れが出て来たな…早く羽毛の海へ飛び込みたい。


「私はもう寝るから、後片付けをやっといてくれ。」

「了解しました、ご一緒にポテトはいかがですか?」

「は?ポテト?」

「すいません…なんか勝手に口から出てしまいました…」


大丈夫…だよな?

だが、放置すると、悪化する恐れが…


「ロボット、ちょっとうなじをこっちに。」

「どうかしましたか?最寄りのアズマ―トなら、此処から8キロ先の地点にございます。」


ロボットのうなじにはメモリープラグの穴が開いている。

コンピューターを経由して覗いてみるか。


「えーっと…一体これは…」


ロボットのプログラムには謎のデータが上乗せされている…

まさかヒューマノイドの物か?


「博士、ワタシ一体何が…ちなみにガムはシュガーマント社のパイン味がおすすめです。」

「…広告か?」


あのヒューマノイドって宣伝用のロボットだったのか…

だがどうやってプログラムに書き込みを?

それはともかく、このデータは削除しておくか。


「…!?ンガガガ!!ギャガビビム!!」


ロボットを起動したままだったので、すごい事になってるな。

人間で言えば、生きたまま脳をほじくられるのと一緒の感覚なのだろうか?

壊れないと良いが…


「大丈夫か?」

「何がですか?何かありましたか?」

「特に何も…この部屋、片付けといて。」


記憶は少し、吹っ飛んだ様だが本人が知らなければ良いか。

もうクタクタだ…早く部屋に戻って、寝よう。


「あ、もう直ぐっすね。」

「例の番組か?」

「正義のヒーロー、ヴァシピコスっすよ。カッコいい…」


一年の終わりと分離装置の完成が近づく、某日。

最近、助手はとある特撮番組にハマっている。

アクションフィギュアやコミック本まで集めているほどに。

ストーリーはそのヴァシ何とか?って言う奴が悪の組織と戦うという、なんともありきたりな物だ。


「それって、面白いのかよ?いつも同じ奴と戦ってるじゃねぇか。」

「何言ってるっすか、先週はロボット軍団でその前は…」

「改造サル軍団だろ。いつも数の暴力じゃないか。」

「けど今日は遂に、組織のボスとの決着なんです!見ないわけにはいかないでしょう!」

「落ち着け、語尾を忘れているぞ。」


私はファンでは無いが、毎週見ている。

いつも気になる所で終わってしまうのだ…もうすぐ始まるな。


【現在、アズマ―トでは24時間営業を行っております!】

「もどかしいっすね…」


番組の前のコマーシャルは変にドキドキする。

この現象にも名前は付いているのだろうか?

レナ・バトス帝国、公式テレビ放映局


「プロデューサー、大変です!」

「どうかしたか新人。」

「何か急に、番組はいるみたいです…5分後に。」

「じゃあ、どうすんだよ!ヴァシピコスは一番人気の番組だぞ!」

「一つ、提案が…」



【お待たせしました、今秋の正義のヒーロー、ヴァシピコスですが…】

「遂に始まったっすね!」

「少し様子がおかしくないか?」

【急遽、スポーツ特番が入る事になったため、再編集版を放映、致します。」


再編集版?何だそれは?

って言うか番組ぐらい、事前に把握しておけよ…


「まぁ始まれば何でも良いっすけど。」

「良いのかよ。」



前回のあらすじ。

恐怖のロボット軍団を倒したヴァシピコスの前に、突如として現れた悪の親玉、ザガソ。

そして二人の決着が遂に始まる!


「よくぞ来たな…ヴァシピコス。」

「遂に追い詰めたぞ!オレと戦え!」

「なぜ戦うのだ?お前に我々と戦う理由など無いはずだ。」

「嘘をつくな!お前は…私の両親を…!」


ヴァシピコスは過去に捕らわれ、戦うことを決めたのだ!


「お前の両親を?フン…馬鹿な事を…」

「バカとは何だ!両親を殺したのはお前だ!」

「それは違う!お前の父と母はマスタージャスティスが殺したのだ!そう、お前の師匠がな…」

「な、なんだと…」


衝撃の事実を突きつけられた、ヴァシピコス!

信頼した、師匠は敵だったのか!?


「じゃあ…お前は…何故、あの時…」

「懐かしいな…私はあの日、孫に会うため息子夫婦と共に居た。」

「つまり、お前は!」

「ようやく気付いたか、さすが私の孫だな。」


戦おうとした相手は祖父だったのか!?

はたして、ヴァシピコスの運命やいかに!?

来週は通常のスケジュールで放送します。


「え?もう終わり?」

「…」

「(助手…かなり落ち込んでいるな…)」


無理もない、楽しみにしていた番組があのザマなのだ。

私もちょっとがっかりした。


「なぁ、元気出せよ…また、来週があるだろ?」

「いや…その…そうっすね…」


この件が原因で番組は一気に視聴率が減り、訴訟までもが起きた。

そしてファンの中には涙を流す者も居た…

ちなみに、私達の間ではタブーな話題となり、今後ヴァシピコスの名が会話で発せられる事は無かった。


「ところで、分離装置の方はどうすか?」

「もう殆ど完成に近いぞ。あとは最終的な調節とテストだな。」

「テストっすか?それならやってみたい事が。」


助手が言う、やってみたい事をするため、研究室へ向かった。


「なんだ?やってみたい事って?」

「分離装置って何でも分離出来るっすか?」

「まぁな、理論上は可能だが何が起きるかは私にもわからない。」


まさか人間の肉と骨を分けたいなんて言い出さないよな?

さすがに軟体生物にはなりたくない。


「これなんて、どうすか。」

「これは…チョコだな。」


助手が取り出したのはイチゴ味のチョコと普通のチョコがジグザグに混ざったお菓子。


「コレを分離すれば、ただのチョコレートになるはずっす!」

「見たいか?そんな物…」

「当たり前じゃないっすか!世紀の大実験すよ!」


まさか第一号がチョコになるとはな…

生物を使わないだけマシか。


「じゃあ、始めるけど…チョコはどうなるか知らんぞ?」

「今日のおやつはそれだけっすからね…当然やるっすよ。」


分離装置の内部の真ん中にチョコレートを置く。

コンピューターでどのように分けるかを設定すれば、分離が始まる。

ちなみに今回は蒸らさなくても大丈夫だ。


「3…2…1…オン!」


装置が作動すると、古い洗濯機のようにガタガタと激しく揺れ始めた。

さすがにチョコレートはまずかっただろうか…美味しいけど。

そして、30秒経てば…


「…?成功か?」


分離装置のドアを開けると…チョコレートが溶けて、床にベッタリと張り付いている…

だが、左右で色が分かれているのを見ると、実験は成功しているのが分かる。

熱すぎただけだろうか?だとしても掃除が大変だ。


「これは、酷いっすね。」

「酷いって言うけど…お前のチョコだぞ。」

「分かったすよ、ちゃんと掃除しとくっすよ。」


熱の排出さえ成功すれば、分離装置は完成だな。

長かった…一番、手間が掛かった発明かもしれない。

助手の為だけに作ったとなると、なんかバカバカしくなってきた。

もう、いっその事、特許でも取ってしまおうか?

チョコレートの匂いが充満する研究室で助手が掃除し終わるの見張りながら私は、そう思った。


つづく

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