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義確認飛行化学生命体  作者: 鮭之氷頭
3/10

破竹の勢いで

とある事情により、激流の如く腹を壊した私は酷く苦しんだ…

それでも、勇敢に腹痛と戦った私は見事、勝利を手にした。

だが、人生は甘くなかった…

それを実感したのは腹痛が治った僅か2日後訪れる。


とある日の夕食。


「今日はタケノコか。」

「新鮮な物が手に入ってネ…」


食卓にはタケノコの煮物やお吸い物が並べられていた。

どれもいい味をしている。

欲を言えば煮物が少し薄いな…


翌日の昼食


「何だ?昨日の残りか?珍しいな。」

「煮物は昨日より染みてるヨ。」


私は朝食を食べないが皆は食べている筈だ。

なのに昨日と同じ献立が並んでいる…

作りすぎたのか?


同日の夕食


「またか…」

「もう飽きたっすよ…」

「そんな事言わないデ…まだあるかラ。」


そう言えば今日の昼食から助手たちの顔色が浮かないな…

しかも、煮物のタケノコの切り方からするとコレは余りではなく新しく作った物だと分かる。


「ほラ、今日の煮物はツナが入ってるヨ?」

「タケノコも入ってるじゃん…」


ポルターガイストもうんざりの様だ。

それから今日の夕食。

もちろん昼食を経由して。(助手達は朝食も)


「いい加減にしろ!もう常人の一年分は食ったぞ!」


今日もタケノコだ。

流石にここまで来れば私も怒る。


「焼き物もあるヨ?それに…」

「タケノコ以外が食べたいんだ!ポルターガイストを見ろ!」


ポルターガイストは煮物のタケノコを切られる前の形に戻す遊びを発明した。

ある意味天才だ。


「分かってル…分かってるヨ…!でも博士ガ!」

「え?私?」


私が何かしたのか?


「博士ガ…品種改良したタケノコを植えたかラ…すごい勢いで増えて大変なノ!」

「え…あー…」


確か…半年程前にそんな実験をした覚えがある…ような…

1週間経っても生えて来ないので失敗かと思ったが。


「そんなはずは無い。現に今、外には一本も生えてないじゃないか。」

「ちょっと来イ!」


幽霊に導かれたのは地下室。

その壁には大きく穴が開いている…


「穴を掘ったのか?何のために?」

「掘ったのはタケノコだヨ…タケノコが穴を掘ったんダ…」

「馬鹿を言え、コレは明らかに自然の穴ではない。」


穴に対しては素人だがこの穴に関しては誰もが人工の物だと思うだろう。

穴はとても綺麗で尚且つ崩れないように竹で補強されている。

竹で…


「博士、ここ最近ロボットの姿が見えないよネ?」

「そういえばそうだな。」


確かにロボットを見てないな…


「何処にいるんだ?」

「中に入れば分かるヨ…」

「え…怖いよ…」


私は狭い所や暗い所は息が詰まって落ち着かないのだ。

寝る時だって小さい電気を点けている。

ウジウジしていると幽霊が呆れた顔でポルターガイストを呼んだ。


「お前、博士と一緒に行ケ。」

「えー博士と?何もしないでね。」

「博士にそんな度胸無いかラ。」

「お前ら…」


ライト付きのヘルメットを被り私を前に穴へ入る。


「博士!カンチョー!カンチョー!」

「止めろ!」


尻への攻撃を耐え抜き、かなり進んだところで大きな空洞へ出た。

そこに居たのは縛られ、袋叩きにされているロボット。

袋叩きにしているのは…


「ヒャヒャ!コロセ!コロセ!」

「な…タケノコ…?」


手足が生えた様なタケノコ?みたいな生物。

竹槍を持っている者もいる。


「アーン?ソコノヤツ!ダレダ!」


見つかった…

だが引くわけにはいかない!

コレを作り出したのは私だ、私が一番知っているはずだ。

それにしても…知能や手足を得るとは…やっぱり私は天才だな。


「マタヘンナヤツガキタゾ!コロセ!」

「殺すだと?生意気な奴だ。」


穴から這い出る。

タケノコの大きさは普通のタケノコより少し小さい程度であまり強くなさそうだ。


「カカレ!」

「痛い!あまり痛くないのが辛い!」


タケノコは細い手足で殴ったり柔らかい竹槍で私を刺す。

チクチクする程度で痒いな。


「どれどれ…」

「ワー!」


何も持っていないタケノコを掴んでみた。

根っこの様な手足は邪魔なので引っ張ると、プチっと簡単に抜けた。


「ギャアアアアア!イタイヨー!」

「ほう…痛覚は有る様だな、コレは皮膚か?」


皮をペリペリと剥く。

何重にも重なっており、根気よく剥いていると中から色々出て来た。

内蔵か?


「ア…アア…ア!………」

「あ、死んだ。」


ひん剥かれたタケノコはグッタリして動かなくなってしまった。

もっと調べたかったのに…

死体は瑞々しくておいしそうだ。

試しに内臓を除去してかじってみる。


「甘いな…」

「ヒィィ!アクマダ!」


他の奴らはすっかり怯えている。

当たり前だ、仲間が手足をもがれ、皮も剥がれて食べられているのだ。

トラウマどころではない。


「博士!こいつらやわっこくて面白いね!」


ポルターガイストはタケノコを蹴とばしたり踏んづけたりして遊んでいる。

鬱憤でも溜まっていたのだろう。

私も近くの奴を軽く蹴り飛ばすと、吹っ飛び、壁に激突して散った。

何故か私は軽い快感を覚えた。


「中々、面白いな!もっとやるぞ!」

「やったー!」


それから私たちはタケノコを虐殺した。

掴んで握り潰したり、床に投げつけたり、皮をゆっくり剥いたり。

とにかく叫ぶので面白い。

街を襲う怪獣はこんな気持ちなのだろうか?


「おやめなさい!野蛮人!」

「あ?」


少しするとひと際大きなタケノコ…か?

何か長いな、淡竹と言うべきか。

それにしっかりと言葉をしゃべっている。

手には銃が…と思ったが輪ゴム銃だ…


「私はタケノコの王、すぐに虐殺やめてください。」

「やだねー!死ね!」


ポルターガイストは淡竹を掴むと膝を使い、二つに折った。


「がぱぱぱぱ…びびびび…」


あっけない最後だな…


「何してるっすか?」

「何だ来たのか。」


助手もやって来た。


「酷いっすね…」


タケノコ狩り…と言えば良いのだろうか?

この惨劇を見れば誰もが言うだろう。

食べ物を無駄にするなと。


「さて、ロボットだが…」


何故、やられたのだろうか?

こんなに弱いのに。

ロボットを再起動してみると…


「再起動しました、前回のシャットダウンにより幾つかの作業が…あれ?私はタケノコを。」

「気が付いたか。」


ロボットは辺りを見回す。

この惨状を目に何かを察するだろう。


「何故、弱っちい奴らに負けたんだ?」

「それが…痛ぶるのに夢中すぎて…オーバーヒートしてしまいまして…」

「まぁ…良しとしよう。(何がだ?)」


道は奥にも続いているな…


「このまま、進むぞ。」

「まだいるのでしょうか…」

「いると思うっすよ。」

「潰すのは楽しーからな!」


道は奥に進むにつれ、どんどん狭くなり…

這うほどに狭くなった。


「あ…塞がれているな…」

「行き止まりっすか?」

「いや、板で塞いである。」


前には薄い板で塞がれているというより立てかけてある程度だ。

奥からは何やらざわざわ声が聞こえてきている。


「突入するぞ。」


前の板を殴り飛ばすとそこには、数え切れぬほどのタケノコ。

中央には太い竹が見え、天井に咲く、無数のつぼみは今も、動いている。


「ワ!ナンダ、コイツラ!」


タケノコは呆気にとられている。

こちらから仕掛けるか。


「行くぞお前ら!一匹たりとも逃がすな!殺し尽くせ!」

「楽しめそうっすね…これだけ居れば。」

「関節のギアはどれも快調です。」

「何か気分のってきたー!」


始まる…真のタケノコ狩りが…!


「ギャアアアアア!」



「全部…潰した…か…」


どれだけの時間が流れたか分からないが…凄いなコレは…

辺りはタケノコの死骸で満ち溢れている。

水煮の工場みたいだな。


「つ、疲れたっす…」

「今宵だけの宴、存分と楽しめました。」

「全身、お汁まみれだ…」


生まれる所をじっくり見たいのでつぼみは一つ残し、それ以外は全部潰した。

中央の太い竹も残してある。


「そろそろ、生まれるみたいだな。」


つぼみの動きは活発になり、徐々に開き始める。

開いたつぼみからは粘液に塗れた竹の赤子が出てくる。


「これは、何と言うか…キモイっす…」

「宇宙人みたいですね。」

「ドン引きだー…」


みんな、軽く引いている様だが私は素晴らしいと思う…多分。

しっかり確認した後は礼儀正しく仲間の元へ送ってやった。

残るは太い竹だが…


「ロボット、レーザーでこの竹を細切れにできるか?」

「出来ますよ。」


ロボットは目を赤く発行させるとまさに、目にも止まらぬ動きで細切れにした。

これでもう生えて来ないだろう。


ピシッ!


「あ!まずい!崩れるぞ!」


天井にヒビが入る。

真ん中の竹が支えにもなっていたのだ。


「早く逃げるっすよ!」


慌てて、先ほどの道を逆戻りした。


「みんナ、大丈夫?」


間一髪、完全に崩れる前に脱出する事が出来た。


「皆、大丈夫か?」

「拙者は大丈夫ですけど…」

「ワタシも…ポルターガイストさんは!?」

「何!?」


確かに、奴の姿が見えない…

ああ…ポルターガイスト…うるさかったが楽しい奴だったな…


「もしかして…お陀仏っすか…?」

「そ、そんな!…ワタシが不甲斐ないばかりに…」

「あいつの分まで生きよう!私たちは生還出来たのだ!」


「勝手に殺すなー!もう死んでるけど。」


壁から透けて出て来た。

そういえばコイツ幽霊か…


「これで、明日からはタケノコは出ないっすね。」

「少しもったいない気がするが…」

「明日からは分厚い肉が食えるー」


仲よく終わろうとしているが…


「幽霊!この野郎!」

「なにカ?」

「何でもっと早く言わなかった!」


もうちょっと早く言ってくれればタケノコ三昧は無かったはずだ。


「どうせ言ったら研究するデショ?」

「まぁ…そりゃ…」

「悪化するかもしれないかラ、タケノコを嫌いになるまで出したんだヨ?」

「そう…か…」


研究か…確かに使えるかもな…兵隊として。

次はキノコあたりで…


「博士、わかってると思うけド。」

「なんだ?」

「もう作らないでネ。次やったら祟るヨ?」

「わ、分かったよ…」


ロクなことにならなそうだな…やめておこう。


数日後 屋敷の庭


私は何となく庭の噴水を使ってみたくなり、枯れた噴水を直している。

助手も手伝っているが、ただ見ているだけと言った方が正しいな。

その横ではポルターガイストがロボットとフリスビーで遊んでいる。


「直りそうっすか?」

「かなり古いからな…配管ごと変えなくては。」


水道管がボロボロで買い直すしか無いな。


「ところで…何だ?あいつらは?」

「遊んでるだけじゃないっすか?」

「そうじゃ無くてな…」


2人はフリスビー遊んでいるが…ロボットは口でキャッチして、犬の様に振舞っている。


「犬だな…」

「俺様はいつでも博士の犬っすよ?何なら博士が…」

「お前って奴はな…ちょっと買い物に行くぞ。」

「手編みは良いすね…マフラーとか。」

「編み物じゃ無くて買い物だ。お前も来い。」


配管となるとホームセンター辺りか…

業者を呼んでも良いな。


「どうしたっすか?早く行きましょうよ。」

「いや、業者を呼ぼう。」

「行くの面倒だからっすか?」

「それもあるな。」


業者に電話しようとも番号を知らない…


「電話帳知らないか?」

「倉庫じゃないっすか?」


確かに使わないからと言って倉庫にぶち込んだ覚えがある。


「倉庫、行きたくないんだよな…」


あそこには使わない実験器具や大量の薬品が置いてあるが、いかんせん汚すぎる。

随分とここに住んでいるが倉庫だけは掃除をしたことが無かったな。

行くか…と言っても目の前だ。

いつの間に?


「入るぞ…」

「何をそんなに意気込んでるっすか?」


人生には度胸も必要なのだ。

扉をそっと開ける…


「コレは酷いな。」


埃は雪の様に積り、虫の死骸がそこらへんに…

気分は乗らないが私と助手は渋々、電話帳を探し始めた。

ついでに少し掃除するか。

そうしていると、色々と懐かしい物が出てくる。


「船の模型に骨格標本、トカゲのホルマリン漬け…ロクな物が無いな。」

「コレ、ビデオデッキすか?」


助手は古いビデオデッキの箱を持ってきた。


「それ、ベ○タじゃないか?」

「なんでそんな物あるっすか…」

「確か…随分前に…」


随分前、自室


「やった!遂にビデオデッキを手に入れたぞ!これで映画が…ああああ!ベ○タじゃねぇか!」


チクショウ…よりにもよってベ○タを掴まされてしまった…


「こんな感じだ。」

「もしかしてその時にはもう…」

「時代はV○Sだ。」


今となってはいい思い出…では無いがレアものだな。

もちろん新しいビデオデッキは購入した。

だが返品は効かなかったのだ。


「おお!コレは!」


見つけたのは学生の時に他次元異文化交流館で購入したおもちゃ。


「おもちゃっすか。」


コレは、人形の真ん中にガラス玉を入れて、発射する物。

買ったはいいが、遊ぶ相手が居なかったためすぐ飽きた。

次に見つかったのは…


「アクションフィギュアっすね!カッコいい!」

「これは…BIジョージ…だったかな?」


軍服を着たマッチョのアクションフィギュア。

他にも忍者や宇宙飛行士の物も持っている。

当時はハマったが、今も製造しているのだろうか?


「これは車の…あ!」


助手が持った、車のおもちゃはバラバラに崩れ去る。


「それはそういう物だ。名前は忘れたが壁にぶつけて壊すのが本来の用途だな。ちゃんと元に戻せるぞ。」


「それ、楽しいっすか…」

「意外と。」


なんだか楽しくなってきたな。

もっと探してみよう。


「ワー○ロにテ○ラ、コレはメロン味のアイスのカップか…」

「こっちには…レコードとヨーヨー…種類はバラバラっすね。」


鷹の剥製、古い漫画、大量のカセットテープ。

どれも懐かしいが記憶にこびり付いている物ばかり…

すっかり電話帳の事を忘れてた…


「発掘するのは良いが、電話帳を探さねば。」

「そうだったっす…」


それにしても散らかってるな。

こんなところから電話帳を探すなんて、ロックフェスで黒いシャツを着た、知人を探すくらい困難だ。

そう簡単に見つかるわけ…あった。


「電話帳あったぞ。」

「やったすねー」


表紙の埃を払うと、目に飛び込んだ物は…


「これ…10年前のだ…しかもこの国のじゃない…」

「え…」


なんでこんな物があるんだよ!

結局、直接行かなきゃいけないじゃないか…


「ちくしょう!こんな物!こんな…電話帳なんて!」

「あ!」


腹いせに私は持っていた電話帳を思いっきりぶん投げた。

電話帳は窓を突き破り、庭へ落ちると「あいた!」と言う声が聞こえた。


「割れちゃった、屋敷の窓…」

「ふざけてる場合じゃないっすよ!窓の業者も呼ぶ羽目になったすよ!」


こうして窓は割れ、枯れた噴水は放置されるのであった。


「窓…どうするか。」

「張り替えるしかないっすよ。」


その日の夜、窓をどうやって修理するか、風呂に入りながら考えている。


「博士!大変ダ!」


湯船に浸かっていると幽霊が慌ててやって来た。


「どうした!遂にサツが来やがったか!」

「違うヨ!地下室に白骨死体ガ!」

「死体?すか?」


屋敷で死体が見つかるのは珍しい事では無いが、この慌てようは尋常では無さそうだ。

とりあえず見に行くか。


「博士!前を隠しテ!ウチにはポルターガイストだって居るんだヨ!」

「そうか、すまん。」


服も着ずに行くところだった…私も年だな。

関係ないか。


「全く、博士はおっちょこちょいすね。」

「お前も服を着ろ。」



「この下だヨ…」


地下室の奥へ行くと、酷く崩壊した所へ着いた。

ここら辺も掃除しないとな。

どうやら倒壊した棚の下にブツがあるようだな。


「良いか?1、2、3で上げるぞ。」

「了解しました。」

「そうそう3人でって…何でお前も居るんだ…?」


ロボットが急に真横に現れ、少し驚いた…


「私も居るぞー!」

「ついでに俺も、久しぶりに登場だぜ。」


ポルターガイストとネズミも居る様だ。

まるで最終回だな…まだ終わらないが。


「早く、上げましょうよ。風呂が冷めるっす。」

「そうだな、それじ「終わりました。」

「早いよ…」


ロボットは片手で棚を上げ、横に置いた。

随分な馬鹿力だ…いや、力バカだな。

そして、棚の下は。


「ぐ、軍人…?」


軍服を着た骸骨がもう一人の小柄な骸骨を庇う様に鎮座している。

きっと、感動的な何かが起こった様だが今となってはただの死体だ。

死とは生物から物に変わることだ。


「ってかお前、幽霊だろ?死体が怖いのか?」

「怖くないけド、気持ち悪いかラ。ゴキブリだってそうでショ。」

「そうっすかね?ゴキブリなんてただの虫じゃないっすか。」

「ワタシもなんとも思いませんよ。」

「結構うまいぜ?海老みたいで。」


「うるせぇ!お前ら!」


関係ない話に変わるところであったが死体へ観点を映してほしい。


「身元確認が出来そうな物をだな…」


首にぶら下がっている名札はボロボロで読めず、服を漁っていると何か、落ちる。

落ちたのは古い集合写真。

その写真には死体の同僚らしき者達が並んでいる。

古い字だ…読めないな。


「帝国空挺団、黒ツバメ部隊…っすね。」

「なんだ、読めるのかお前?」


どうやら助手は読める様だ…なんか悔しいな。


「古い字っすね…全大陸共用語になる前ってことは…」

「少なく見ても134年前、って事だな。」


この屋敷はそんなに古いのか?

それとも地下室だけ改装されなかったのだろうか。


「もう一つの方も見てみません?もうやってますが。」


ロボットとネズミは小柄な骸骨を物色している。

死体漁りみたいだな。


「ロケットペンダントがポケットに入ってました。」

「鍵がかかってるな…作業室へ行くぞ。」


幽霊二人組が居ないな…飽きたのか?


「さて、こじ開けるが…なんか罪悪感が。」


死体の物だが、少し罪悪感がある。


「「「開けろ!開けろ!」」」


バカ、3人組は開けろコールを連発している。

こいつらに人としての心は無いのか?

私も無いが。

マイナスドライバーを食い込ませ、トンカチで叩くと、古い物なので簡単に開いた。


「写真がちゃんと残ってるな。」


ロケットペンダントの右側に女性の写真、左側に古い筆記体が書かれている。

助手に読ませるか。


「これ、読めるか?」

「えーっとっすね…コレは…永遠の愛…すね…」

「キャーロマンチック!」


ロボットのくせにそういう感情はあるんだな。


「結局、わからず終いか。」

「死体はどうするっすか?」

「明日、庭に埋める、私は風呂に埋まって来る。」


幽霊2人は気になってたくせにどっか行ったな。


「ワタシは掃除の方に。」

「俺はキッチンに戻るよ。」


ロボットとネズミも立ち去る。

ネズミはまた出番が少なくなりそうだ。


「某も一緒に入るっす。」

「きもちわりーな、同性だろ。」

「同性で入る事自体は普通すよ?もしかして性的な目で…!」


めんどくさいし無視するか。

翌日、庭


「穴を掘るなんて、久しぶりだな。」

「ワタシは好きですよ?穴掘り。」


翌日私はロボットと遺体を埋める穴を掘っているが、キツイ。

こんなに腰に来るとは…

ちなみに、助手は買い物だ。


「これくらいですか?」

「駄目だ。もっと深く掘らねば野生動物が掘り返す。」


最低でも10メートルは必要だが。


「あーもういい!コンクリで埋める!」


疲れるし、良いこと無いのでコンクリートで埋めることにした。

手順は簡単だ。

3メートルほどの墓穴に遺体が入る箱、または棺桶を中身入りで置き。

上からコンクリートを棺桶が隠れるまで注ぎ、固まったら土を被せるだけ!

っていうのを昔、同僚から聞いた事がある。


「灰にするのは駄目なんですか?」

「この国ではタブーとされているからな。」


ただの骨が灰になるだけだがな。


「コンクリが必要になるわけだが…当然無いわけだ。」

「どうしましょう。」

「買って来い。」

「ええー!」


文句を垂れるロボットだったが強引に買い物へ向かわせた。


「さて…もう此処には誰も居ないはずだが…」


私がそう言うと地面から幽霊が透けて登ってきた。

浮いたと言った方が正しいだろうか?


「よく分かったネ。」

「霊感は無いはずだったが…案外分からない物だな。」

「呼んだからにハ…訳があるよネ?」

「もちろん。」


こいつには聞きたいことが沢山あるのだ。


「あの死体…お前らか?」

「……そうだと言ったら?」

「質問を質問で返すな…まぁ、そうだろうとは思うよ。」

「…聞きたくなイ?」


幽霊は屋敷の方を振り返る。


「あの屋敷で何があったカ。」

「聞きたいが、その前にもう一つ聞きたいことがある。」

「何ヲ?」

「あの死体は自分の物だって最初から知っていたのか?」

「…よくわからないネ。幽霊なるのは極めて不可思議デ、自分でもあまりよくわからない事ばかりダ。でモ…最初、あの死体は他の誰かの様な気がする反面、懐かしい感じもしたんダ。」


どういう意味だ…?


「それで何だか怖くなっテ…屋敷から飛び出して一晩中考えたんダ…そしたラ。」

「そしたら?」

「急に生前の記憶を少しだけ思い出したんダ。それから何回も思い出しテ…」

「結局死体は?」

「私の物だったネ。」


やはりそうだったか。

何となくは察しがついていたが…違うと言われた方が怖いな。


「だとすると、もう一体はあいつか?」

「そうだヨ、ポルターガイストだヨ。」


幽霊とポルターガイストは最初からこの屋敷に居たが、生前からとは思わなかった。


「それで本題だけド…」

「そうだった。」

「156年前…アレオ歴1252年だネ。私はこの国の「帝国空挺団」の一員として働いていたんダ。」


156年前、帝国軍 軍事飛行場 本部


私はパイロットとして働いていた。

数ある一つの人間として。

戦争なんてそうそう行かされないだろ…そんな楽天的な考えは安易に崩れ去った。

私は任命された…黒ツバメ部隊に。

もちろん直ぐに将校の所へ向った。


「待ってください!あの部隊は没案になったはずでしょう!」

「こうでもしないと勝てないのだよ。」

「勝てないって…黒ツバメ部隊は特攻専門じゃないですか!死ねって言うんですか!」

「安心しろ。君の仕事は航空機の点検だけだ。」


そういう問題ではない!


「それとも何か?君は文句でも言うのか、この国に。」

「それは…」


そんな事言ったら秒で首が飛ぶ。

物理的に。


「用が無いならもう行け。」

「…」


私は何も言えず部屋を出る…

酷いが特攻や戦地へ行かなくて良い…自分は助かるという考えが上回った。

それから私は従順に仕事をこなした。


「これで終わりか…」


数日後、仕事を終えた自分の所へとある2人組がやって来る。

一人は将校でもう一人はどうやら特攻パイロットの様だが私は彼を見てひどく驚いた。

彼はとても若く、私よりも10以上も年が下と言う。


「これが私が操縦する機体ですね!」


そして彼の表情は死への恐れを知らぬ希望に満ち溢れている。

洗脳されたか或いはただのバカか。

だが親はどう思うだろうか?

残された友人や知人は戦争に勝った自国を見ることが出来るのだろうか?

少なくとも命を犠牲にした彼は見る事は出来ない。

それが戦争だ。


僅か1年の間で私は27人のパイロットを見送った。

彼らの中には家庭を持つ者、年老いた両親を置いてきた者、酷く怯えた者…そしてその逆も。

全員、揃いも揃って飛行棺桶で命を散らした。

私は命令された自殺の手助けを仕事ととしていたのだ。

だが終わりはやって来る。

戦争は終わった…敗戦として…


「お前が空軍として働いていたのは分かったが、どうしてこの屋敷に居るんだ?」

「あれは敗戦してから半年後だネ。」


私はすっかり気が狂ってしまい、パイロットの座から降ろされた。

それどころか満足に働けなくなった私は精神異常者として解雇されてしまった…事実だが。

その後あてもなく職を転々としていた私にとある人間が声を掛けた。

それは金持ちの未亡人…ポルターガイストの母だ。


「探していました。貴方の様な汚れた、酷く醜い人間。」

「何だお前は…とっとと失せろ。」


その時は単なる浮浪者への冷やかしかと思ったが…


「貴方に頼みたいことがあるの、報酬も弾むわ。」

「人殺しか?自殺の手伝いか?もう何だって頼めよ!どうせ俺はもう死ぬんだ…死んでやる…」

「まぁいいわ、気違い。付いて来なさい。」


かなり危険な行為だったが、今更気にするはず無く、女について行くと車に乗せられた。

表面のテカリ具合から高級者、それも新車と言う事が分かる。

この女、金をたんまりと持ってやがる…


「貴方の役目はすごく簡単。」

「早く言えよ。」

「私のそれはとても可愛く、目に入れても痛くない程に…まるで人形の様な私の子…」

「なんだ?護衛か?」


最初はそんな事しか考えていなかった。

私が考える以上に彼女は恐ろしい事を言うのだ。


「違う…その子のたった一つの、この世で最も美しい物…あの子の純潔…それを貴方に汚して欲しい。」

「は?」


予想外の事を言われた…ドン引きどころではない…

純潔?


「可愛いあの子が貴方に汚され…泣き叫ぶ姿、信頼が崩れる瞬間、底のない絶望に叩き落される顔。」

「な、何を言っているんだ?」

「見たいわ…何が何でも…だから貴方に頼んだの。」

「は?何が?え?」


この女、相当ヤバイ奴だ…

そう思っている間にも彼女の顔からは笑みがこぼれている。


「断るなんて言わないわよね?」

「言ったらどうする?俺を殺すのか?」

「崖が近くに一つ、私もろとも飛び込むわ。」


ハッキリ言ってかなり迷った。

合法的に犯罪ができるのだ、誰だって迷うはずだ。


「いい、ぜ。やってやるよ…」

「そう言うと思った!」


彼女は命拾いしたような顔をする。

本当に死ぬつもりだったらしい。


「マジかよ…最悪だなお前。」

「私が言うのは癪だけド、ポルターガイストは可愛いヨ?」

「可愛ければ良いのか…」


しばらく走っているとお屋敷に到着。

立派な屋敷には重装の兵士が警備している。


「随分な護りだな。」

「宝石を頑丈な金庫に入れるのは当たり前でしょ?」


屋敷の中に通された私は着替えを渡された。


「そんな汚い服、着替えてね。あとお風呂も。」

「スーツじゃねぇか、召使いにでもなるのか?」

「当たり前よ、貴方にはまずあの子と信頼を作って欲しいの。」


信頼か…しばらくは此処に居ることになりそうだな。

風呂と着替えを済ませると、鏡の前に居たのは、気味の悪い奴だった。


「それじゃ、部屋に案内するから。」


館の通路を進んで行くと、刑務所の様な何重にも重なった鉄格子の扉をくぐり、分厚い扉の前へ。

この奥が例の子の部屋の様だ。

女は口元をいじり、笑顔を作って扉の鍵を開錠する。


「はーい!元気にしてた!」

「あ!ママ!と…誰?」


ぬいぐるみや玩具だらけの部屋に居たのは一人のか弱そうな少女…まだ年端もない子供だ。

顔も中々良いな。


「ママ…それより、トイレ行きたいんだけど…」


さっきからモジモジしているところ見ると、トイレを我慢している様だ。


「抜け出そうとした罰よ。まだ1日経ってないわ。」

「そんなー!」


何なんだこの親子は?


「おい、挨拶しなさい。」

「ど、どうも…」

「えー?また執事?7人目じゃん!」


私は7人目なのか…


「後は2人仲よくねー」

「ええ!そんなー!トイレー!」


女は退室し、部屋には自分と少女の二人だけ。

特にこれといって何も起きないはずだが。


「あー!もうダメ!」

「大丈夫か?」


少女のダムは倒壊して…大変な事になった…

それはもう前から後ろからとめどなく。

アレが溢れて…


「わー!もうやめて!昔の話なんてしないで!」


ポルターガイストが慌てて止めに入って来た。

驚いて少し寿命が縮んだ様な感じがした…


「何時から居たんだ?」

「可愛いって言われた時から。」

「止めてくれヨ…」

「もう昔の話はしないで!」


かなり怒ってるな…そりゃ、そうか。

当たり前だな。


「分かったヨ、もうしないヨ。」

「博士は?」

「もう聞かない、これで良いだろ?」

「……フン…」


ポルターガイストは屋敷へ帰った。

浮いているのでまさに、飛んで帰るとはこのこと。


「私も行くヨ、博士ハ?」

「やること無いし、茶でも飲むよ。」


自分も屋敷に帰る事にしたが…彼らの過去をいつか、知る日が来るのだろうか?

聞きたいような気がするが今は胸にしまっておこう…

それにしても空がキレイだな…雲と空の青さが良い塩梅だ。

明日は何か良い事あるかも?(この後、帰ってきた助手に怒られた。)


つづく

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