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義確認飛行化学生命体  作者: 鮭之氷頭
2/10

買い物と人生は前途多難

「クソ!こいつメ!」

「何やってるんだ?お前?」


何か飲みにキッチンへ行くと幽霊が海老と戯れていた。


「晩飯は海老ダ、だがどうも活きが良くテ…」

「暴れるのはいいぞー!どんどん壊せー!」


ポルターガイストは遠目からカスタネットを鳴らし、挑発している。

特に意味は無いだろう。

海老は掴まれては暴れ、シンクに逆戻りする。


「もう鍋に入れて、煮ればいい。」

「かわいそウ…」

「料理する奴が言う言葉かよ。」


幽霊は可哀想と言っておきながらも無慈悲に海老を鍋へ掻き込ませると水を入れ、火に掛けた。

窓から外を眺めると、裏庭で助手とロボットが大きなカエルの頭をレンガで潰している。

解剖か何かか?


「アイツら何してんだ?」

「食材調達だネ。」

「晩の献立は?」

「海老とウシガエルの薬膳煮込みだぞー私の好物だー」

「嘘だろ…」


すげぇマズそうな名前だな…


「中々、大きいのが取れたっすよ、食いでがありそうっす。」


助手はこちらに血と泥に塗れた大きなウシガエルを差し出す。

まだピクピクと少し動いて、気持ち悪い。


「早く鍋にぶち込んでネ。」

「洗え!」


ジャブジャブと洗われたカエルはまだぬるま湯の鍋に、投入される。

陸のカエルと海の海老が出会うのはある種の奇跡と言えるだろう。


「ア…コンソメが無イ…買ってこなくチャ。」

「買い物か…私が行こうか?気晴らしに散歩も兼ねて。」


言ったは良いが、コンソメ買いにわざわざ行くのもなぁ…

だが妊婦の下見にはちょうど良いよな。

私はまだ、諦めないぞ。


「拙者もお供するっす、ついでにカップ麺のストックも買いに。」

「普通の街だぞ?地下街じゃないぞ?」

「ワタシ、上の街に行ってみたいです。」

「じゃ、3人で行くか。」


助手はともかくロボットはかなり背が高いため、目立つな…


「ロボット、地味な服に着替えてみろ。お前は目立ちすぎる。」

「ストリップですね!ではここで。」

「向こうで着替えろ…」


助手の自室


「これなんてどうっすか?結構、地味ですよ。」


助手はグレーのツナギを取り出す。

サイズはかなり大きめだ。


「デカいな。どうしたんだコレ?」

「屋敷に置いてあったっす。」

「ワタシはコレが良いです、色も暗いですよ。」

「それは水着だよ…目立つなんてもんじゃないよ。捕まるぞ…」


ロボットは水着を置くとツナギに着替え始める。


「良いねー良いねーセクシーすよー」

「ビデオカメラ回すな。」

「これ、本当に脱ぐだけですよね?」

「お前も乗ってんじゃねぇ!」


ふざけつつも着替え終わるが…


「どうです?これで私も忍者ですね。」

「デカい以外は目立って無いっすよ。」

「しょうがない…これで行くか。」


何を聞かれても成長期って言えばごまかせるかな?

背が高くて困る事なんて、特に無いだろう。


「では、わちきもマスクを着けて…」

「どうして顔を隠すのですか?」

「助手は訳ありなんだよ。地下ならともかく地上なら顔を隠さなくてはならない。」

「そうそう。」


屋敷の外に出れば清々しい程の晴れでも凍える様な寒さだ。

歩きで街まで行くので1時間ぐらいかかるだろう。

車が欲しいな…でも置き場所が無いよな…


「遠いですね、街。」

「車を買っても道路がないんすよ。」

「でも良い運動になるだろ?」

「……物は言いようですね。」


しばらく歩いていると、一枚のビラが流れて来る。

その紙には…


「あ、僕の顔っすね。」


行方不明者、情報求む。

○○年、7月27日より行方不明。

当日午後9時に家を出て以来、目撃情報一切なし。


そう書かれた紙の真ん中にはデカデカと助手の顔写真が。

今より少し顔付きが幼いな。


「博士…誘拐ですか?」

「ンなわけあるか、自分から来たんだよ。」

「止めて欲しいっすよ、昔の事なんて…」



「久しぶりの都会っすね…あー空気がクソマズイ。」


都会に着くと激しい騒音と臭い排気ガスが辛いな。

なんでみんな此処に住もうとするんだ?

慣れかな…


「人間というのは公害よりも便利を優先するのだな。」

「此処が都会ですね!空は暗く、ゴミだらけで………地下街とあんまり変わりませんね…」

「でもその代わり治安は最高っすよ?」

「まぁ、ここは工業地帯だからな。中心の方へ行くと結構キレイだぞ。」


少し歩くといつも使っているスーパーへ着いた。

このスーパーは臭くて汚いがとにかく安いのでよく使う。

外からでもかなり匂うが…中へ入るとさらに強烈だ。


「くっさ…やっぱり慣れないっす、この匂い。」

「適当に回るから欲しい物は勝手に入れろ。」

「ワタシも良いですか?」

「もちろん。」


昼間なので外にはあまり人が居なかったが店内となるとやっぱり居るな。

全員ロボットにくぎ付けだ。

「デケェ…」や「怖い…」などの単語が頻繁に聞こえる。


「あたいはカップ麺に…カップ麺…あとカップ麺!」

「せめて違う味を入れろ…全部同じじゃねぇか。」

「ではワタシはコレを。」


ロボットは魚を水槽ごと持ってくる。

その後ろからは店員が困った顔をして追いかけて来ている。


「それは売り物じゃねぇ!戻してこい!」

「そうだったのですね…じゃ、コレ戻しておいて。」

「え?うわー!」


ロボットは店員に水槽を渡すと違うコーナーへ行った。

店員はすっころんで水槽を割ってしまった。

床には魚が跳ね、大惨事になっている。

面倒なことになりそうなので急いで違うコーナーへ向かうことにした。


「もう急いで買い物を済ませるぞ、早くコンソメを取ってこい。」

「コンソメっすね。」


助手が遠くへ行っている間に私は缶詰を大量にカゴに入れ、そこら辺を軽く見回す。

近くに妊婦はおろか子連れすら居ない。

工業地帯だからな…しょうがないか。


「ありましたっす……何してるっすか?」

「いや、妊婦をちょっと。」

「博士は真面目っすねー」


真面目か…随分久しぶりに言われるな…っていかん!

感傷に浸っている場合ではない。

急いで買い物を済まさなければ!


「博士、これ欲しいです。」


ロボットが何かの箱を持ってきた。


「何だこれは……避妊具じゃねぇか!」

「駄目ですか?」

「別に駄目ってわけじゃ…てかお前無いだろ…それに、いつ使うんだ?」


こいつロボットだよな?

仮に(何がとは言わないが)するとき必要ないだろ…


「分かりません…でも持ってればいずれ良いことが…」

「あるか!そんな事!」

「ある分には良いですよね?」

「もういいよ…ゴムが欲しけりゃ入れろ…」


ロボットはアレをカゴに入れる。

ところで助手の姿がさっきから見えないが…


「博士!これ欲しいっす!」


助手が掲げたのは…どっかの赤ん坊。

しかも存命。


「わー!バカヤロウ!戻せ!」

「中に?」

「近くに!」


奥から母親らしき女性が大慌てでやって来た…妊娠している…


「子供を返せ!」

「博士、どうぞ。」

「おお、これは立派な…っておい!!私に渡すな!」

「警察呼ぶから!」


女性は近くの店員に何かを伝える。

聞いた店員は店の奥へ入って行く。

警察を呼ぶ気だ。


「待て!女!」

「な、なによ…」

「この子供が欲しいか!」

「当たり前よ!」


私は赤ん坊を右手に持ち、フットボールの様に持った。


「だったら…」

「何をする気!止めなさい!」

「取ってみやがれ!!」


赤ん坊を思いっきり店の奥へ投げた。

女性は奥へ追って行き、しばらくするとドン!という鈍い音と数人の悲鳴が聞こえた。

その隙に急いでレジへ向かう。


「おい!コレ金!釣りは結構だ!」

「え?え?…え?」


あっけにとられた店員は意味が分からない様だ。

札束をバッグから取り出しレジに置くとそのまま通過した。


「急いでバッグに詰めろ!」


バッグを開きカップ麺と缶詰、コンソメとアレを詰めると出口へ向かう。


「あの!お客様!」

「何だ!」


出口寸前で引き留められる…振り返るとレジの店員が立っていた。


「ま、またのご来店…お待ち…しております…」


彼女は震えながら…でも、とびきりの作り笑顔で私達を見送る。

それに応えるかのように…


「また来てやるよ!」


私も笑顔で返すのであった。


「ここまで来れば平気か…」


路地裏を辿り、帰り道へなんとか着くことが出来た。


「いやードキドキしたっすね。」

「誰のせいだ!」

「博士の。」

「…そうか」


悔しいが何も言い返せない…


「ところで…なんでコンドームを買ったんです?」

「コ…コン!…避妊具の事か…」


助手は袋から避妊具を取り出す。


「まさか…助手である私と…禁断の…」

「するか!…ロボットのだ。」

「コレ、ずっと欲しかったんです。」


ロボットは箱を手に持ち、目を輝かせる。

まるでおもちゃを眺める純粋な子供の様に…


「ワタシ、多くの人がコレを持っているの見ました。でも、みんなコレが何なのか教えてくれませんでした…」


「当たり前だな。」

「ただのやばい奴っす。」

「こうやって手に入れた今、すべての謎が「避妊の道具だよ。」

「え?ヒニン?」


こいつ知らないで買ってたのか…


「子供を出来なくする恐ろしい道具だ。私にとっては。」

「どうやって使うのですか?」


しまった…墓穴を掘ってしまった。

ちゃんと説明するか?

だが…うーん…ごまかすか…


「それを祭壇に捧げて祈るんだ。」

「すごい道具ですね…」

「プッ!ホントに…しゅごい…ブフ!」


助手は一生懸命、笑いをこらえている。


「先輩、大丈夫ですか?顔が凄いですよ?」

「だ、だいじょ…グフ!」


手を口に当て必死に笑いをこらえる助手。

例えるならば崩壊寸前のダムの様だ。


「もしかして体調が…つわりですか?」

「つわり!アッハハハハ!」


笑いという名のダムが崩壊し、狂ったように笑い、バカ顔を晒す姿は恐怖すら覚える。

大昔の人間がこの姿を見れば呪いか奇病の一種と言われるだろう。

だが、しばらくすると落ち着いたのか、助手は蹲って深呼吸を始めた。


「………もう大丈夫っす。」

「なら、早いとこ帰ろう、幽霊たちが待っている。」

「そうですね!それに、コレを使ってみたいです!」

「も、もうやめ…アハハハハハ!」

「こ、怖いです…」


どうやら、ツボにハマったらしい。

流石に可哀想なので黙らせるか。


「おい。」

「な、なんす…カ!?」


助手の腹に自分のパンチを食い込ませる。

ぐったりと助手は人形の様にパタリと倒れ、それを肩に担ぐ。


「余計な荷物が増えたな。」

「そ、そうですね…」


助手って結構、重いんだな…


「やっと…着いた…」


普段の帰りなんて特に疲れないが、誰かを担ぐとなると話は別だ。


「ワタシが変わると何度も言いましたよね?」

「お前は、持ち方が雑なんだよ。」


途中で一回、ロボットに助手を持ってもらったが、乱暴に足を持って引きずるのでやめた。


「おかえリ、コンソメ…」

「ほら、ちゃんと買ってきたぞ。」

「いヤ、実ハ…買い置きが棚にあっテ…」

「そうか…」


幽霊は新品のコンソメを申し訳なさそうに持っている。

つまり、時間の無駄?


「あ、あれ?ここは…」

「起きましたか。」


助手が目を覚まし床から起き上がる。


「もしかして…私を眠らせて…エッチなことを…!」

「するかよ…」


特にこれと言って不調はなさそうだな。

良かった、良かった…良いのか?


「私は料理をするかラ。」

「なら、私は本でも読んでるよ。」

「オレも付いて行くっす。」

「ではワタシも。」


図書館…の隅っこ。


「何でお前ら付いて来るんだ…」

「偶然っすよ、偶然…あ、ページめくるの早すぎるっす。」

「自分のを見ろよ…」

「この本、翻訳がイマイチですね。」

「お前は寄りかかってくんな!重いんだよ!」


変な奴、2人に挟まれている状態で本を読むが…暑い…


「うっとおしいんだよ!離れろ!」

「図書館でうるさくしちゃ駄目っすよ。」

「こいつ…!」


拳を握りこみ、怒りをこらえる。

何回も手を出すのは良くないからな。


「やっぱり、気になります。」

「何がだ?」

「あなた達、二人はどうやって出会ったのですか?」

「またそれか…」


はっきり言ってあまりいい出会いでは無いんだよな…


「聞きたいなら教えてあげるっすよ。」

「知りたいです!」

「我と博士の愛と血と涙、それと穢れの欲に満ちた、最高にエロティックな逃避行…」

「変な話をするな!」


こいつは一体私の事をどう思ってるんだ?

もしかして上司としての威厳が足りないのか?


「私が話そう、それでいいだろ。」


適当に話せばこいつらも満足するだろ。


「えーっと…あれは…」


11年前 「ムーン・ヴァンプ」コーポレーション本部の所長室


「君が何故、ここに呼ばれたかわかるか?」

「…」


若き天才科学者として名を轟かせた私であったが…

ある日、所長室に呼ばれ、天才という肩書が崩れる。


「この新聞を見ろ!」


所長が突き付けたのは今日の新聞、そこには…


非道な人体実験!囚人を使った惨い虐殺。


と書かれている。

その文の横には自分の写真が実名と共に掲載されていた。


「君、一人のせいで私達の信用はガタ落ちだ!」

「ですが、それは…あなたの指示で!」

「私はバレぬようにやれと言ったハズだ!なのにお前は!」


ガミガミとうるさいジジイだな…

全てはこいつのせいだ、私はただやらされただけ…被害者みたいなもんだろ…

それに、使ったのは囚人…しかも死刑囚だ。

刑を執行しただけで何も悪いことはしていない…


「お前はクビだ!早くこの研究所…いや、大陸から去れ!」

「言われなくてもそうするよ。クソジジイ。」


所長室を出て、自分のオフィスへ行くと、荷物をまとめて機械のデータを全て消した。

不幸中の幸いと言うべきだろうか、研究内容の資料が残っていたのでこれは持っていくか。

次に地下の発電プラントへ出向いて少し細工を施した。


「もう…ここも見る事も無いのだな。」


去り際に見た本部は初めて来た時の輝きは無く、まるで工場の様だ。


「此処ではもう暮らせないのか…」


大陸から去れと言われたがやっぱり此処は私が生まれ育った国だ。

寂しさがどうしても残る…特にこのアパート。

だが、去らねばならぬ。

適当に荷物を鞄に入れると用を足し、流さずに家を出た。


「とりあえず、何処に行こうか…砂漠は嫌だな…」


何処に行こうかと悩んでいると一人の人間が声を掛けて来た。


「お前、今日の新聞に載ってたよな?」


だがそれは人間というよりイルカ?みたいな奴。

その男は近づき、ひっそり声で


「仕事がある、来てもらいたい。」

「断ったら?」

「どうせアンタ行くとこ無いんだろ?飯も食えないよな?」


イルカ男はニタリと不気味な笑顔で笑う。


「うまい話だぜ?ちょうど一人、科学者が欲しかったんだ。」

「話は聞いてやる、それから決めよう。」

「よっしゃ!」


どっちにしろ働かなければならない。

かなり怪しいがイルカ男に付いて行く事にした。


「何だ此処は?」


農場の焼け跡に連れてこられた。


「こういう誰も寄り付かない場所がちょうど良いんだ。」

「まぁ、いい…早く本題に入れ。」

「そうだな…私はとあるマフィアに属している者だが最近、薬の需要が高まって来てな…もちろんヤバイ方の薬が。だが、いかんせん物流が細くてな、作るにしても技術が無いんだ。」


「だから私を?」

「正解、どうだ?ウチのファミリーは使える奴は家族も同然。」

「良いだろう。やってやる。」


もう私は企業の人間ではない、一人の科学者だ。


「ハハハ!そうか!では来い!」


イルカ男が小型のロケット花火を空に打ち上げるとヘリがやって来る。

着陸したヘリに乗り込むと、すぐに浮き始めた。


「ところで、何処へ?」

「今から行く場所は…武力と非化学が生き残る場所…レナ・バトスだ。



「これで第一部が終わりだ。」

「ムーン・ヴァンプ?聞いた事が無いです。」

「結構、有名な企業っすよ?随分前に爆破事故で跡形も無くなったっすけど…」


懐かしいな…半年以上、新聞が同じ話題を繰り返していたな。


「その爆破事故も博士が?」

「もちろん。」

「なんか、おかしくないっすか?」

「何がだ?」


横で本をドミノ代わりに遊んでいた助手が聞く。


「それが、爆発したのは7年前っすよ?博士がクビになったのは11年前じゃないっすか。」

「4年間の空白がありますね…」

「それには、ちゃんとした訳がある。」

「訳?」


本を積み木の様に積んでいるロボットが問いかける。

今日は色々聞かれる日だな…


「11年前、地下の発電プラントに細工をしたと言ったが、細工をしたのはそこだけではない。」

「他にもあるっすか?」

「プラントに仕掛けたのは起爆装置のみだ。爆薬は材料を少量ずつ、あまり私に関係ない場所に埋め込んでおいたのさ。」


「なぜ、そんな事を?」

「死刑囚を使った実験を承諾し、万が一の時に証拠隠滅の為に作った…本来ならば私が合図すれば、爆薬の材料が地下のプラントに集まり、調合され、爆破する計画だ。だが、ムカついたのでついでに…」


「ついでに?」

「ついでに起爆条件を変えておいた。」

「その条件とは一体何ですか?」


その条件は…


「私の資料や実験内容などの記録を掘り起こす事だ。どうやら4年程経ち、ほとぼりが冷めた頃に私の成果を横取りするつもりだったらしい。」


「でもデータは削除したって言いましたよね?」

「研究所のコンピューターだぞ?信用できるかよ。」


いくら削除したと言っても奴らの事だ、どっかのサーバーに保存しているに違いない。

自分の物が横取りされる事が何よりも嫌いなのだ。

例えそれが基盤に焼かれた文字だとしても…


「ところで、囚人を使った実験って何ですか?」

「人工の肺や心臓等の臓器移植だ。まぁ…毒見みたいな感じ。」」

「被験者はどうなったっすか?」

「大抵は苦しみながら亡くなったな。一番すごかったのは内臓の総入れ替えでな、繋ぎが甘かったせいで口から全部出たぞ。」


流石にあの時は気持ち悪くなり一か月はロクに飯が食えなかった。

でも慣れると何故か普通に飯が食えた。

今では食事中に思い出してもスラスラ食える。

人間は不思議な生き物だ。


「知的好奇心を尊重すれば見たかったっす。でも気持ち悪くなりそう…」

「その点ワタシは大丈夫ですね。食事取らないので。」

「そう言う問題か?」


こいつ等にも教育は必要だな…だとすれば近いうちにモルモットを…


「博士、続きが聞きたいです。」

「聞きたいのか?そんなに?」

「はい!貴方と言う存在を探求の限り尽くしたいのです!」

「大袈裟な野郎だな…まぁ、時間は飛んで2年後。つまり9年前だ。」


地下街 マフィアの本部の調合室


「大分、この仕事も板についたな…」


薬を調合して2年…慣れたもんだ。


「今日も依頼が引っ切り無し来てるぜ。薬剤師さん?」


イルカ男はこちらを見ながらコーヒーを啜る。

基本、こいつに薬を渡して配達してもらっている。


「ところでよ、大きい注文が入ったぜ。」

「何だ?」

「とある、資産家の男だ。スノーのブロックを一つ。」


アレか…確か貯蔵庫に6つぐらいあったな。


「上物が3つある。残りは粗悪品だ、どっちを持って行く?」

「良い方を持っていくぜ。粗悪な奴は砕いてバラ売りだな。」


イルカ男は隣の貯蔵庫からブロックを一つ持ち出す。


「お前も来い。」

「は?なんで?」


いつもなら特に何も言われず、すぐ出ていくのに今日に限って何だ?


「資産家の男が合いたいそうだ。」


私に?何の用だ?

何だか胸騒ぎがするな…


「めんどくせぇな…」


作業を中断してビニールのカーテンを出ると白衣に着替える。

入り口の装置で消毒して廊下を歩く。


「お前、そのまま持って行くのか?」

「そんなわけないだろ。」


イルカ男は持ってるブロックを飲み込む。

まさかこいつコレ目当てで?ラリったりしないのだろうか…


「頼むから消化するなよ?」

「俺は消化が遅いのさ。安心しろよ。」


出入り口付近で偶然、ボスと出会った。

ボスと言っても私よりかなり年下だが。


「ボス、お出かけですか?」


イルカ男は軽々しく話しかける。


「そうだよ。ところで最近、薬の売り上げがまた上がってね。もっと注文が増えると思うんだ。」

「任せてください!俺とこいつとで何とかします!」


勝手に言いやがって…作るの大変なのに…


「悪いね、今度食事でも一緒にどうかな?」

「喜んでお供しますよ!」

「ははは…相変わらず無口なんだね、後ろの君。」


ボスと目が合う。


「私は雇われている身ですから。」

「堅いね、君は。」


早く話終わってくんねぇかな…


「……僕はもう行くよ。頑張ってね。」


ボスは外に出て、人混みの中へ姿を消した。


「ボスと食事の約束をしてもらったぞ!幹部昇進の日は近い!」

「そうかい。」

「俺が幹部に昇進した暁にはお前にも楽をさせてやろう!」

「あ、そう。」


資産家の屋敷。


「いやーデケェな!おい!」

「うるさいよ。」


興奮するイルカ男。

屋根が高い建物を見るといつもこうだ。


「この部屋が受け渡し場所だぞ!お邪魔しまーす!」

「ほう…来たか。」

「…な!?」


部屋に入るとそこに居たのは…私の父だった。

数十年前、蒸発したきりの…


「久しぶりだね…えーっと…名前が思い出せない。」

「何だ、お前ら知り合いだったのか。世間は狭いな。」


何故、奴がここに?


「まぁ、いいや。とりあえず座りなよ。」

「ご遠慮なく!」

「どうした?お前も座れよ。」


突然の再開で動揺していると、イルカ男は強引に私を椅子に座らせた。


「それでは、ご注文の品を。」


イルカ男はブロックを吐き出す。

父はそれの包装を剥がし、眺める。


「中々の物だな。流石だ、我が子よ。」

「なんだ、家族か。」

「違う!こいつは家族なんかじゃない!」


そう言うと父は笑う。


「お前、人体実験で人を殺したんだろ?」

「な!」

「ははは!血は争えないな!」


父は私と同様優れた科学者だった。


「お前の腕は確かな様だな。飛んだアホが生まれたかと思ったが此処まで来るとな…」

「突然、蒸発しやがって!お前は!お前は!」


呼吸が乱れ、脈が速くなる。


「どうだ?私の所で働かないか?薬を作っているのはマフィアだけじゃないぞ?」

「何を言うか!」


まさか父がこんなところで薬の販売をしていたなんて…


「私は…私は…ずっと…あなたの様になりたかった…なのに…」


子供の時に見た父親の姿は偉大なる科学者…

それに憧れた私は研究員として働いていたのだ。

そして、ムーン・ヴァンプに入社したのも父の手がかりを探すためだ…


「私の様にか?面白いことを言うな…大問題を起こした奴が…」


いつしか私は命令で働く「駒」として研究をしていた。

上の命令を聞けば、私は天才科学者と呼ばれ、有名になっていた…父と同様。

そうなったのも全ては父に見つけてもらいたかったのだ。


「子供の時、あなたは私の事を何度も殴り、蹴り、罵倒した。でも、私は認めて欲しかった…!一人の人間として!」


「ああ、認めてやるよ。お前は最低最悪の人間だ。嬉しいか?」

「この野郎…」

「一つ良いか?」


イルカ男が声を上げる。


「一通り聞いたが…要約するとアンタは馬鹿が生まれたから蒸発して、有名になったから此処に呼んだのか?」


「何が言いたい?」

「俺からすればお前が最低最悪な人間だぜ?」

「何だと?」

「良いか?たとえ、どんなバカが生まれようと自分の子供の責任は取るべきだ。アンタは使えない、めんどくさい、とかの理由で逃げたわけだ。そんな奴最低最悪にふさわしいぜ。」


「どの立場が言うんだ?半魚人。」

「一人の息子の親としてさ。俺には聞き分けの無い悪ガキが居たがそいつは今じゃ、連合艦隊を率いる男だ。立派になったもんだぜ。」


マジかよ…こいつって息子居たんだ…


「アンタは自分の子供を道具としか見てないんだよ。ハッキリ言って切った方が良いぜ?お前の○○○。そうした方が世の中、少しは幸せな奴が増えるってもんよ。」


「好き勝手言いやがって。」

「それに!お前が侮辱したのは俺の部下だ。コレは俺達ファミリーへの宣戦布告として受け取ろう。」

「な、なにを…もういい!出ていけ!」


呆然としている自分をイルカ男は引っ張て行く。


「行ってやるよ、バーカ。」


扉を出てるとすぐ前には一人の若者が居た。


「あ、あの…すいません…聞くつもりは…」


そいつは無視して私達は地下街へ帰った。


「じゃ、その若者が。」

「助手だ。」

「ではお二人はもしかして…腹違いの…」

「違うっすよ。」


もちろんそれは違う。

こいつと家族なんてまっぴらだ。


「助手は私の父の助手の子供だ。」

「そうっすよ。」

「では、そのあとお二人はどうやってまた?」

「あれはさらに二か月後…」


地下街、とあるバー


「あの!」

「なんだ?…お前は…」


バーで話しかけて来たのはこの前屋敷に居た若者。


「わ、私…私を雇ってください…」

「は?」


出会って早々、こいつは何を言っているんだ?


「間に合っている。」

「そんな…お願いします…」


こいつ…ナヨナヨしやがって…


「駄目だ、悪いな。」

「私、科学者になりたいんです…」

「勝手になれよ。」

「違くて…貴方みたいになりたいんです。」


私みたいに?何を馬鹿なことを…


「信用ならん。」

「……そうだ!私、じつは…」


若者はバッグから一冊のスクラップブックを取り出す。


「コレを見てください。貴方が出ている新聞や雑誌の記事を切り抜いて集めているんです。」

「嘘だろ…」


こいつやべぇ奴じゃねぇか!


「お願いします!」

「お前はなぁ…私はドラッグの調合をしているんだぞ?もう過去の様な人間ではない。」

「私は科学者としてのあなたが好きなんです!薬の事なんかどうでもいい程に!」


若者は目を輝かせこちらを見ている。

野球の選手を見る子供の様に。

こいつ以外、世の中に私を今も尊敬している人間は居るのだろうか?


「あー言っちゃった!好きって言っちゃった!恥ずかしい!」

「お、おい…」

「この際言いますけど!私は貴方の事を愛しています!友達や家族としてではなく、一人の人間として!」


「お前、頭大丈夫か?」

「ああ…!胸が!苦しい!貴方を想う度に!」


騒ぎを聞きつけ店の外からも人がやって来る。


「私を雇ってくれないなら!一回で良い!私を抱いてください!強く!激しく!そして甘く…」

「ああ、もう!わかったわかった!付いて来い!」

「本当ですか!?よっしゃ!」



「初めからそんな感じなんですね…先輩。」

「ったりめーよ!」

「威張るな…」


助手はこれでもかと胸を張っている。


「さて続きだが…」



「何処に行くんですか?ホテルはあっちですよ?…まさか、人が居ない路地裏で…」

「誰がするか!」

「ではどこへ?」

「私の仕事場だよ…」


それを聞いた若者の表情はさらに明るくなる。


「という事は!」

「とりあえず、様子見だ。」

「ありがとうございます!」


調合室には着いたが…イルカ男が居る…


「お前、どっかで…」


まずいな…


「ち、違う…っすよ。」

「なんだ気のせいか…」

「通じてんじゃねぇよ!」

「まぁ…冗談はこれぐらいにしておいて…どうして此処に?」


私はイルカ男に事情を説明した。


「そうか…お前さん、親には何て言って出た?」

「特に何も…あんな人、親じゃないよ…」


訳ありか…


「道を外すには若すぎるぜ?」

「もう十分、外れているよ…私なんて…」

「なにがあったんだ?俺に話してみろよ?」

「実は…」


若者は自分の事を話し始める。


「私は子供としてではなく実験生物として生まれました。」

「どういう意味だ?」

「人間の異性、二人の卵子と精子を機械で育て、作られた完全なる人工生物、それが私です。」


人工生物の製造は法律で禁止されているはずだ。


「毎日、毎日、実験の日々…でもそんな中見つけたのは貴方の記事でした。」

「私のか?」

「そうです!いつも見るあなたの記事は私の知らない事ばかり…皆が知らない世の中の不思議を解明して行く貴方の姿はとても美しく、カッコいい!」


やっぱこいつやべぇ奴だな…


「あの日、貴方が屋敷に来ているの聞いたとき、居ても立っても居られずに…」

「盗み聞きしてたわけか?」

「そうです…でも、私を雇ってくれるんですね!」

「さっきも言っただろう、様子見だ。」


どんな事情があろうと無能だったり弱音を吐いたりしたら即、クビだ。


「一生懸命、頑張ります!」

「良いのかよ…」

「知らんな。」


こいつから着いて来たのだ。

何を言われようと私は少しも悪くない。


「懐かしいっすね…」


今思えばこいつも中々、成長したな…

最初の方はどんくさくて物覚えも悪かったが…性格は相変わらずだな。


「それ以来、先輩は博士に?」

「そうだな、一回も私の傍から離れたことは無いぞ。」

「今更、ここ以外に帰る家も無いっすから。」


家か…私の人生においても家らしい家はこの屋敷だけだな。


「尻も痛くなってきたし、そろそろ研究に戻るか。」

「手伝うっすよ。」

「では、ワタシは夕食までに掃除の方を。」


ああ…チクショウ、晩飯の事を思い出してしまった。

食いたくねぇな…お腹を壊しそうだ…

助手からカップ麺でも恵んで貰うか。


「ちょっと、頼みがあるんだが。」

「それ相応の返しは覚悟してもらうっすよ?」

「もういいよ…」


こいつに物を頼むと後が大変なのはいつもの事じゃないか…

しょうがない、腹を括るか、二重の意味で。

廊下には既にヤバイ匂いが充満している。

きっとそのうち晩飯の時間がやって来る…死神と共に。


つづく

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