第六話
日下部 賢人 : 主人公。
結婚の約束は、幼稚園の頃からしていた。
花坂 美奈 : 恋人。
中学校の頃から、結婚したら、どちらの家で暮らすのか、あるいは、新居へ引っ越すのか。そんなことを両親に相談していた。
遠藤 彦太郎 : 親友。
二人が結ばれるために、影で色々やってた。主に、間男の排除とか。
『おや、よくもまあ』
暗闇の領域にたどり着くと同時に、着物姿の女性から声が掛けられた。
ここまで来れば、大丈夫か?
そう、思った時。
『決して振り返ってはいけない』
女性から、叩き付けられるように言われ、我に返った。
『ここは境目。向こうの手は届かぬ。しかし、色々曖昧だからのう。用心に越したことはあるまい?』
「重ね重ね、ありがとうございます。これは、お好きなように」
美奈を下ろし、二人でリュックの中身を取り出し、女性に差し出す。
『要らぬ。その棒切れだけを置いてゆけ』
……が、拒否されてしまった。
甘いものはまだ残っているのに、古木の木刀だけを要求されて少し不安になる。
態度も固い気がするし、なにか気に触ることでも……?
『人の子よ。そなたらの勇気と、固い絆と、強い愛に、敬意を表するぞ』
言われてようやく気付く。こちらが素なのだと。
これが、この威厳ある姿が、神としての本来の姿なのだと。
『さあ、ゆくがいい。生者の国へ』
「感謝致します」
二人揃って、二度、深く頭を下げる。
顔を上げ、真っ直ぐ前を向いて歩き出せば、暗闇の先に、光が見える……!
『二人の旅路のその先に、幸多からんことを』
すれ違う瞬間、女性から最後の贈り物を貰うことができた。
それは、つい、笑顔が溢れてしまうような、素敵な、素敵な、贈り物だった。
※※※
コンクリートの壁に、頭を押し付けた状態で目を覚ます。
すぐに、スマホで時間を確認。
時間は、ほとんど変わっていなかった。
それから周囲を確認。
すぐに、遠藤を見付けた。
「遠藤、戻ってきたぞ!ありがとう。お前のおかげだ!」
「そうか。ここからの帰りは付き添い必要か?」
「いや、大丈夫だ。……すまん。すぐにでも美奈のところへ行きたい。……礼はあとで必ずするから!」
我慢できずに、走り出す。……が、すぐに、ここが関係者以外立入禁止の場所ということを思い出して、静かに、焦らず、急ぐことにした。
美奈、俺の愛しい人。
待っててくれよ。すぐ、君のところへ行くから。
また、君の笑顔を見せてくれ。