第四話
日下部 賢人 : 主人公。
中学生の時、初めて美奈をお姫さま抱っこしたが、重さに腕が耐えきれず、二人してこけて泣かれた、苦い記憶がある。
花坂 美奈 : 恋人。
中学生の時、初めてお姫さま抱っこをしてもらったのに、落とされて泣いてしまった。以降、ダイエットに励んだ。体重と共に胸のサイズもちょっとダウンして、ガチで泣いた苦い記憶がある。
遠藤 彦太郎 : 親友。
既婚者。リア充。遠慮なく発破掛ける側。
今の美奈が軽いことを幸いに、急いで登りきろうとしてしまう。
が、無理をしようとすれば、腕の中の美奈が俺の胸元をきゅっと握り締めてくる。
ペース配分を担当してくれるらしい。
本当に、ありがたい。
白い着物の列とは逆に、登っているからこそ気付くこともある。
白い着物の集団や下帯姿の細マッチョとは違う、おたふく仮面を被ったムキムキのゴリマッチョな女性(推定)が、密かに混ざっていることに気がついた。
そのゴリマッチョ、女性ボディビルダーのような体格に、胸元と腰を隠すための布を巻いた原始的な姿だ。
高い背丈に広い肩幅、盛り上がっている筋肉など、認識してしまえば恐ろしいが、行きの時はなぜか認識できなかった?
……こんなに、存在感に溢れているというのに?
控えめにいって、とても怪しい。
しかし、そんな不審者も、列を乱そうとするものが出ないなら、大人しいものだった。
さっき、騒いで列を乱した白着物に対して、このゴリマッチョの右フックで一発ノックアウトだった。
正直、チビりそう。
美奈も、震えて服を掴む手に力が入っていた。
今の美奈、表情はないけど、感情はありそうでちょっと安心できたけど。
……で、そのゴリマッチョ、横を通り抜けるたび、ちっ!と舌打ちするんだよなぁ……。
全部のゴリマッチョがそうなんだよ……。
そんなゴリマッチョにビビりながらも緩い坂を登り続ければ、列の最後尾と思われるプラカードが見えてきた。
今すれ違ったプラカードの日付から、登りの道のりはあと半分くらいと思われた。
あと半分。体力は十分。気力もまだまだ。
恋人を連れ戻すまでは、へこたれてなんかいられない!
……と、思っていたんだが……。
列の後ろの白着物たちは、ごく最近死んだせいか、まだ元気なのだろうか?
『ちっ!ぺっ!』
と、舌打ちの後に唾吐き掛けてきたり、
『リア充爆発しろ……』
と、呪いの言葉を吐き掛けたり、
『うほっ、イイ男♪』
と、野太い声を掛けてきたりと、俺の精神をガリガリ削ってくる。
やかましいわっ!と叫べたら、スッキリするのかもしれないが、
『惑わす亡者どもに、返事をせぬこと』
という、暗闇の中の女性の言葉を思い出したため、なんとか我慢だ。
……しかし、
『もおおぉぉぉぉっ!!我慢ならぬ!!』
辛うじて女性と分かる、鬼のような雄叫びを、ナニモノかが上げた。坂の、ずっと、したのほうで。
……で、坂の下の方からズンズンと足音を響かせ、何かが駆け上がってくる音がした。
……怖ぁっ!?そして、下の方がめっちゃ気になる……!!
「美奈、リュックの中から、干しぶどうを出して、そこらにばらまいてくれ!」
動作は遅いが、言うことを聞いてくれる。
それで、助かった。
猛スピードで坂を駆け上がってくるナニかは、干しぶどうを一粒ずつ拾い、ゆっくり味わって食べているようだった。
……うん?何で様子が分かるかって?
それは簡単な話。
その、何者か、動作の一つ一つを口に出していたからだ。
『ナニか、黒いものが撒かれたぁぁぁーーーっ!?』
『これは、干しぶどうかね!?一粒ずつ、拾って、味わって、食わねば……』
『うむ!わずかに酸っぱく、仄かに甘い!これは、他のものにくれてやるわけには……キサマ、ナニをする!?ぶどうが欲しければ、拾えばよかろうがっ!?』
……で、凄まじい戦闘音が聞こえてくるわけで……。
「ちょっと、急ごうか。奈美、また干しぶどう撒いといてくれ」
食べ物を捨てるような真似は、非常に心苦しいが、今だけは見なかったことにしてくれ!
祈るような気持ちで坂を登れば、列の最後尾のプラカードを持った細マッチョが、ちっ!と舌打ちしてきた。
なにげにこの舌打ち、精神をガリガリ削るんよ……。
ほんと、やめて欲しい。
ゴリマッチョ:おたふく仮面を被り、胸と腰に布を巻いただけの姿の巨漢。
食べ物には、すぐに夢中になる。
女性(推定)
変態(確定)