表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

第二話

日下部(くさかべ) 賢人(けんと) : 主人公。

産まれた時から美奈一筋。


花坂(はなさか) 美奈(みな) : 恋人。

産まれた時から賢人一筋。



遠藤(えんどう) 彦太郎(ひこたろう) : 親友。あだ名はピコ太郎。



何もない暗闇を行く。


ここは、《千引きの岩》と呼ばれた壁の先。


現世(うつしよ)常世(とこよ)の境目。


本当に、何もない暗闇だ。


だというのに、地面があるのが分かるし、なんなら、砂利道で、少しばかり下り坂になっているということも分かる。



なにせ、さっき説明を受けたからな。



《千引きの岩》(という名の、鉄筋コンクリートの壁)に、両手と額をつけて、美奈を連れ戻したい!ということを強く願ったら、あっさりと通ることができた。


そのすぐ後のこと。


何も見えない暗闇で、少しばかり焦る俺に、突然着物を着た女性の姿が浮かび上がり、声を掛けて来たのだった。



曰く、


・生者が《千引きの岩》を越えてくるのは、幾久しい。


・坂を下る者の魂を連れ戻すには、守らなければならないことがある。


・一つ、決して相手を間違えぬこと。


・一つ、決して相手を恐れぬこと。


・一つ、惑わす亡者どもに、返事をせぬこと。


・一つ、決して手を離さぬこと。


・一つ、決して振り返らぬこと。


・どれか一つでも守れない場合は、相手だけでなく、そなたも黄泉の国の住人になることだろう。


・ついでに。幾久しく生者が訪れていないため、守り人どもも怠けていることであろう。変化を、警告を、見逃さぬこと。聞き逃さぬこと。



とても重要なことを、丁寧に教えてくれた。

なんともありがたいことだった。


……そして、とてもとても暇そうだった。


まだしゃべりたそうにしていた女性に、まだ何かある?と問えば、警告は以上!と言われたため、返礼品を贈ることにしよう。



膝を付き、背負っていたリュックから木製のお盆と包みを一つ取り出す。

お盆の上に紙製の丸皿を置き、コンビニスイーツの抹茶ロールを載せ、ペットボトルの濃い緑茶とプラスチックのフォークを添えて、女性へと差し出した。



……こんなときに不謹慎だが、驚きで目を見開いている女性は、なんだか面白く、ささくれだっている心が、和むのを感じた。


……こんなときに不謹慎だが、差し出された抹茶ロールを前にした女性の、ねえ、食べていい?と言いたげな表情に、笑顔が込み上げてきた。


……こんなときに不謹慎だが、抹茶ロールを満面の笑顔で頬張る女性に、美奈がケーキや甘いものを楽しむ姿を重ねてしまい、微笑ましい気分になった。



そして、改めて誓った。


美奈を、恋人を、俺の半身を、必ず連れ戻すと。



……抹茶ロールを食べ終えた女性の、もうないの?と言いたげな、何とも悲しそうな顔に、とうとう我慢できずに吹き出してしまった。



「ありがとうございます。この礼は、必ずや」



前金代わりに卵ボーロを一袋。


ぱあっと花が咲くような笑顔になる女性を見て、心が軽くなると同時に、引き締まった。



女性が指差す方向に、迷い無く進む。

愛しい女性を、連れて帰るために。



謎の女性:親切な暇人。甘いものが大好き。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 謎の着物女性が、むっちゃ可愛いんですけどww [一言] この警告、実際に行うとしたら何気に難しいでしょうね。 特にこの主人公はホイホイお土産与えそうですもん(^_^;) さて、次も楽し…
2020/08/01 15:30 退会済み
管理
[一言]  これは……、結末次第でジャンルが変わりますね……。現時点では何とも言えませんよ……。  道中、どんなことがあるのでしょうか。楽しみです。
[良い点] 栗山千明が主役だった、死国のような、 ホラーテイストのヒューマンドラマなイメージですね。 こういう不思議な雰囲気は良いと思います。 [一言] 最後まで投稿が終わってから、 一気に読みたいと…
2020/07/23 16:13 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ