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季節は巡りついに卒業式を迎えた。希美は結局、全ての定期テストで学年一位を取り一度も学校には通わなかった。その後、記者が押しかけることもなく平穏に過ごしていた。
『希美、本当に出るの?卒業式。』
「出るよ。」
『記者がいるよ。絶対。』
「わかってる。」
『本当に気を付けてよ。』
「うん。」
希美は琴音との電話を切った。
卒業式に変装なしで出ることにした。学校側から「卒業式は出ろ」と言われ仕方なく出ることになったが、変装がバレると今後面倒くさいため、そのままで出る事にした。
学校着いたが記者らしい人は見当たらない。希美は急いで職員室に向かった。
学校に入ると感じる視線は久しぶりのものだった。
「お久しぶりです。青葉先生。」
希美はテストを受けに来てはいたが前のテストから時間が空いていた。
「来たか、二ノ宮。来ないと思っていたぞ。」
「頼まれたら来ない訳に行かないじゃないですか。」
希美に来るように頼んだのは青葉だった。学年一位が卒業式にいないのは異例な為、答辞をしない代わりに出席をしつこく頼んできたのだ。
「入場までここにいろよ。騒がしくなるから。」
希美にはありがたいお願いだった。
卒業式が始まる前に希美は自分の教室に入った。思った通り希美が入ると騒がしかった教室は一瞬静かになり、また騒がしくなった。希美は我関せずで自分の席に着いたが、すぐに移動が始まった。
式が始まり希美が入場すると一瞬ザワっとした。だが一番ザワっとしたのは希美の代わりに答辞をした颯太の言葉だった。
「今日の良き日に卒業できた事を先生方や両親に感謝したいと思います。僕がこの学校に入った理由は知りたかったからです。異母兄妹のことを。そしてもう一つ復讐のためでした。」
会場がざわつく。教師たちが壇上に上がり颯太のことを止めようとするが、颯太は止めようとしない。
「ですがその子はある日から来なくなりました。なので、ここでその子の名前を言おうと思います。二ノ宮 希美、君だよ。」
颯太が希美の名前を言ったところで副校長が颯太の言葉を遮った。
式はその後、何もなかったかのように終わった。
〜〜笠森 颯太〜〜
俺の母は自殺した。父が浮気をして僕と同い年の子供がいるらしい。母もそのぐらいなら耐えられたかもしれないが、父は母の前で「俺が愛してるのはあの人だけだ」と言ったらしい。母の前で言った意味はわからないが、母の実家の後ろ盾が欲しかった完全な政略結婚だった。
母は父をすごく愛していたみたいで相当ショックだったようで、その後から母はだんだんおかしくなっていった。
いつも「あの女の子供よりも優秀になりなさい」と言っていたが、その子は芸能人で俺より全然輝いて見えた。でもある時、急に辞めた。沢山の人に愛されているのに。俺は誰からも愛されていないのに。その時あの子に復讐しようと決めた。
母は「あの女が居なくなっても、あの人は私を愛してくれない」そう呟くようになった。
雨が降った日、母が死んだと聞いた。不思議と悲しみは湧いて来なかった。
それからあの子が転校する中学に転校した。
ある日あの子にあの事を聞いてみたが、何も反応を示さなかった。どうすれば復讐出来るかを考えていたら、あの記事が出てあの子は来なくなった。でもテストはいつも一位だった。
あの子がするはずだった答辞を俺がやることになった。ここしか無い。当日来るかわからないけど、ここでしか言う場所がない。そう思って答辞を読んだ。
あの子は全く顔色を変えずにただ前を向いていた。
俺の復讐は何だったんだろう。