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今日から希美は新しい学校に通う。今までの学校では星空希がバレてしまっている為、転向する事になった。幸いな事に今日から新学期になる為、そこまで浮くことはない。
希美はバレないために、三つ編みに伊達眼鏡をかけた。
希美が通う中学は区立の普通の中学だ。だが希美は前の中学より近くの場所あり、徒歩で通える距離にあった。
前は安全面や芸能活動を考慮して事務所が学費を全面、払うのを条件に私立の中学に通っていた。
「今日からこのクラスに入る事になった、二ノ宮 希美と笠森 颯太だ。二人とも挨拶。」
希美は今、転校生恒例の自己紹介の真っ最中だった。
「二ノ宮 希美です。宜しくお願いします。」
「おい二ノ宮それだけでいいのか?」
熱血教師タイプの担任、青葉 俊平が希美に聞く。
希美は今とても気分が良かった。何故なら転校生がもう一人いるから。しかも笠森 颯太と名乗る少年はとても明るい雰囲気を醸し出しているからだ。「彼がいれば自分の存在は薄くなるのではないか」バレずに過ごしたい希美は内向的で影の薄い冷たい少女になる事を決めたのだ。
元々、希美の性格は物事を客観的に見てそれを的確に淡白に伝えるところがあり、他の子より冷めていた。だが子役に必要なのは明るさだと散々言われ続けこの性格になった。
だから青葉の問いに希美は
「はい。大丈夫です。」
そう答えた。
「そうか。じゃ次、笠森。」
「笠森 颯太です。得意な事はサッカーです。クラスの全員と仲良くなるつもりなので、そのつもりで。」
颯太は最後、希美の顔を見て言い放った。
「前言撤回こいつは面倒くさい」希美は心の中で言った。
休み時間に入ると希美の周りには人が集まった。が全員の顔が向く先は隣の颯太であった。
「笠森くんは今までどこにいたの?。」
「笠森、今度サッカーしようぜ。」
男子も女子も思いおもいに颯太に質問していた。
「隣はすごいね。」
「…え、」
希美が本を読んでると誰かが話しかけてきた。
「あ、私 野々村 杏奈よろしくね。二ノ宮さん」
「宜しくお願いします。」
「二ノ宮さんはいいの?笠森くんに話しかけなくて。」
希美は颯太の良さがあまりわからなかった。幼い頃から芸能界に居たため周りは皆顔が整っていた。
希美が首を捻ると
「変わってるかも…。」
杏奈は不思議なものを見る目で希美を見た。
「そう言えば星空希って何処にいるんだろうね。」
教室の何処かでそんな声がすると周りは口々に話し始めた。
「星空希って自殺説なかったっけ?」
「え、ハリウッドに行ったんじゃないの?」
「そうなの?」
「でも俺だったら急に居なくならないな。だってあんな、人気なのに何でやめるんだ?」
「たしかに。」
「…あんな事やりたくなかった。」
希美は口々に自分の事を言われ思わず小さく呟いてしまった。
「どうかした?」
「ううん。何でもないよ。」
杏奈の問いに答えると希美は読書を始めた。
〜〜野々村 杏奈〜〜
クラスに転校生が二人も来た。性格が真逆そうな二人。一人は女子が喜びそうな男子。もう一人は変わった雰囲気を出している女の子。
笠森くんはずっと誰かに話しかけられてる。でも二ノ宮さんは一人。気にしては無さそう。二ノ宮さんは笠森くんに話しかけていない。変わってるかも。話しかけてみようかな。
「隣はすごいね。」
「…え、」
驚いたみたい。自己紹介してみたものの、誰とも仲良くなるつもりは無さそう。
「二ノ宮さんはいいの?笠森くんに話しかけなくて。」
聞いてみたけど「何を言ってるのかわからない」と首を傾げてる。ああ本当にこの子は
「変わってるかも…。」
思わず声に出してしまった。けど気付いて無さそう。
「そう言えば星空希って何処にいるんだろうね。」
違うグループが話してる。確かにあの子は何処に行ったんだろう。
「……た。」
二ノ宮さんが苦しそうな顔をして何かを呟いていた。
「どうかした?」
「ううん。何でもないよ。」
二ノ宮さんはまた読書を始めていた。
隣に目を向けると笠森くんが面白いものを見るかのように二ノ宮さんを見ていた。
何だか二ノ宮さん訳ありっぽいな。面白そう。
希美は厄介なのに目をつけられたようだ。