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季節が真夏になり始めた頃、一人の天才子役が芸能界から姿を消した。
少女の名前は星空 希
本名 二ノ宮 希美 十三歳
星空希は教育番組出身子役だが、数々のドラマや映画に出演し、安定した演技力と大人っぽく見える容姿や発言から、幅広い世代での支持を集めていた。
『どう?世間を騒がせてる心境は。』
希美に電話越しで話しかけているのは、琴ねぇこと永野 琴音。芸歴は希美の方が長いが事務所が同じ事もあり、希美は琴音を姉のように慕っている。
「なんか申し訳ないな。」
希美が辞めたことは連日大きく報道されていた。
『それだけ希美は人気者だったんだよ。』
希美は何も返さないが
「琴ねぇこれから撮影でしょ。行ってらしゃい。」
『え、うん。行ってくるよ。」
希美が急に話を変えたのに琴音は驚いたが電話を切った。
「美冴さん、私は人気者だったんですって。」
希美は自嘲気味に誰もいない部屋で呟いた。
二ノ宮 美冴それが希美の母親の名前だ。
美冴は母親には程遠い人だった。
半年前に事故に遭い帰らぬ人になった美冴は銀座のNo. 1ホステスだった過去を持っている人だ。だが希美を産んでからは、働きもしない人だった。希美が二歳の時、昔のお金も底をつき困った美冴は希美を芸能界に入れた。
美冴は何もしない為、家事をやるのは希美の担当だった。
希美はかつて美冴の部屋であった場所まで行き、ドアを開けた。
「美冴さん、一回くらい愛してると言って欲しかった。」
希美は美冴が使っていたベットまでいくと顔を歪め、小さく呟いた。