気持ちの先
「先輩、私たちもそろそろ部屋で休みましょう」
「そうだな」
夜月は旅行帰りの疲れがあるのか、足早に部屋へと歩いて行く。
『マスターはあの嬢ちゃんにはやけに素直だな』
「何だ?急に話しかけてきたと思ったらそんなことか?」
クルスリアは俺の気遣いに違和感があったのか、面白そうに突っかかってきた。
「確かに。あんた、夜月に後ろめたいことでもあるのかしら?」
彩花は夜月の話題になった瞬間、話に割り込んできた。
「何だよ。彩花もかよ」
『いや何。私はそっちの嬢ちゃんへの対応と違うのが気になっただけだ』
「は?私に文句でもありそうな言い振りね」
クルスリアは彩花へ揶揄うことを忘れずに尋ねてきた。
「全くお前は…。夜月に対して…色々と迷惑をかけた所があっただろ。何かそろそろ怒られそうで…」
『はは。マスターは怒られるのが嫌なのか?』
「何ですか?先輩。そんなことを考えていたのですか?」
「げ…聞いて…いたよな」
夜月は俺の前で腕を組み、鋭い目を向けてきた。
「全く。先輩はまた変なことを考えていたのですか?私は一応、先輩を監視してますし、いざとなったら処理する予定ですから」
「って、学園に来てからてっきり監視を解かれたと思っていたが…」
「……そう…ですか…。まあ、先輩ですから私が居ても勝手に誰かが殺しに来ますよね。私なんて先輩のお荷物ですし」
夜月は俺の疑問に一言だけ呟き、部屋に入って行った。
『はぁ…』
「あんた…」
クルスリアはため息を吐き、彩花に至っては落胆の目で見つめていた。
「彩花も前に言っていただろ。俺と居ると危険だって」
「あれは夜月が本当に心配だったし、あんたのことだって敵だと思っていたから」
彩花は困り眉をつくり、俺の方を見つめてきた。
「でもまあ、急に友だちが危ない所に行ったら不安にもなるのも分かるわ」
「あんたに私のことを知られるのは癪だけどそう言うことよ」
彩花は恥ずかしそうにこちらを見つめ、俺はそれが面白く感じた。
「何よ」
「彩花は本当に頑固だな」
「うっさいわ…。それと夜月はあんたのことを怒ることはあっても絶対に離れることはないから安心しなさい」
「断言するのかよ」
「当然でしょ。私があの子と何年付き合いだと思っているのよ」
彩花は俺に言い切ると勝ち誇った表情で俺を見下してきた。
「彩花は本当に好きなんだな」
「まあね」
彩花は嬉しそうにニコニコした顔で部屋へと歩いて行った。
「俺も部屋に戻るか」
「二人の痴話喧嘩は終わったの?」
彩花がいなくなり、ひと息吐いていると横から囁き声が俺の耳元に聞こえてきた。
「うわ!いたのかよ。美沙…」
「うん」
俺は思わず耳を押さえて驚いて体を引いた。
「魔王さまが笠木さんに『夜月は俺のものだ!』って言っていた所から」
「言ってねえよ!」
『ははは。マスターもスミに置けねえな。そうだったら私も助けてやるって言うのに』
「ちげえだろ」
冗談を言う美沙は揶揄うクルスリアとの相性が良く、俺はため息が出てしまった。
「魔王さま?疲れた?」
「まあ、旅行の疲れがな」
「じゃあ、私が癒す」
「クルスリア、どう思うよ」
『あの愉快な男が喜ぶことなんて結果が見えていると思うぜ。マスター』
クルスリアは俺の質問に迷うことなく返してきたため、さらに身を守ろうと構えた。
「安心して良い」
「じゃあ、俺の部屋に着いたことだし、やって見せてくれるか?」
美沙は軽く頷き、部屋に入るとベッドに腰掛けた。
「魔王さま、私が膝枕してあげる」
「マジで!やったー」
『おい』
警戒心のない俺をクルスリアはツッコミを入れた。
『マスターだけズルいぞ。私もやれ!』
クルスリアは人の姿となり、美沙も足に摺り寄った。
「どう?」
「ああ。最高だ」
美沙の膝は柔らかく、ほのかに暖かかった。
「眠っても良い…」
「…そっか」
俺は美沙の囁き声で力が抜けていき、ゆっくりと目を閉じた。




