陽炎の傷跡②
「でも良かった~。夜月の家まで壊れていたら私が寝泊りする場所がなかったから」
彩花の家は封魔と夜月の家より中心部に近くにあったため、更地になっていたようだ。
「恐らく。私の部屋も汚くなっていると思いますが…」
「私も部屋の片づけ手伝うから」
「お願いします。彩花さん」
そんな風に話していると夜月の家に着いた。
「大体、どうして夜月が魔王の家の横に住ませるのよ」
彩花はまだ入院している封魔に怒る。
「仕方ないですよ。先輩ですし、麻奈ちゃんだって」
「本当に二人揃って危険対象って好きねぇ」
彩花は夜月が封魔に思う印象を下げようと言い続ける。
しかし思った以上に下がった気配もなく、少し沈んだ空気で沙希が言っていた孤児を集めた所に着いた。
「ここみたいね」
そこには、『癒しの国』と書かれた看板と『お探しの子がいらっしゃる場合は係員にお尋ねください』と書かれていた。
二人が仮設テントの中に入ると多くの子どもたちが集まっており、遊んでいた。
「どうかされましたか?」
受付の保育士のような女性が突然、入って来た二人に聞いてきた。
「えっと。」
彩花が不自然にもじもじしながら周囲を見回す。
「私はMIOの魔導士、九重夜月と申します」
「私は笠木彩花と言います」
突然、現れた魔導士は子どもたちを撫でるように見ており、不審者そのものの変態と呆れて相手にしない女性二人。
「あっ。あのぅ。申し訳ありませんが親御さん以外の関係者を禁じて居まして…」
そう言われた夜月は少し困った顔をする。
「もしかして。その年で…」
受付の女性は驚き、口を止めた。
「ち…違います。私が戦いの中で見つけた子どもが無事にいるのかを確認しに来ただけです」
夜月は慌て体の前で両手を合わせながら必死に言い訳を言う。
「夜月。戻ってきて。」
彩花は夜月の肩に手を置いて呼ぶ。
「その…実を言いますと、多くの子どもが親御さんとはぐれていた状況で見つけてもらったので、どの子なのか。」
夜月が再びテント内を見回すと、多くの子どもが走り回ったり、おもちゃを使い、思いのままに遊んでいた。
「ご…ご心配なく。私は一度見た子の顔は覚えていますので」
夜月は自分が見つけた子どもの年齢が分からず、未だに歩けていない小さな子どもから探し始めた。
「夜月。どんな感じだったのか覚えているの?」
彩花は心配になったため、どのような特徴があるのか尋ねる。
「可愛かったです。」
聞いていた二人は呆れた顔をしていた。
「夜月。それじゃあ。私が探そうとしても分からないよ」
「探した場所でしたら分かるのですが…。あ!この子かわいいです。」
「ちょっと!真面目に探している私のみにもなって。」
彩花は先程と打って変わって真面目にこの場に居る子どもの帳簿を見る。
「この帳簿。場所が書かれているよ」
彩花は夜月が見つけた場所を聞く。
「高校で見つけたのね。」
「細かく言うと、音楽準備室のロッカーの中です」
彩花は見つけた場所と書かれた所から夜月が見つけた子どもの名前を探す。
「音楽室…。年齢は?」
「0歳?から1歳でしょうか」
「いたわよ」
「どの子ですか?」
「この希ちゃんって子」
「その子でしたら」
受付の女性は子どもが多く遊んでいる方へ向かい、一人の子を抱っこしてきた。
「この子ですか?」
「そうです。その子です。」
夜月は心配していたが、無事見つけることができたため、嬉しくなった。
抱っこしていた子どもは夜月と顔が合うと両手を伸ばして抱っこを求めているように見える行動をした。
「ちょっと。希ちゃん」
夜月は抱っこを求める希に手を差し伸べて抱える。
「夜月を見て、直ぐに抱っこを求めるなんてね」
彩花は夜月に引っ付いて離さない希を見て面白そうに笑った。
「実は、その子昨日までずっと元気がなかったのですが…」
「そんな風には…見えないわね」
彩花は受付の女性の発言に割り込んで答えた。
「恐らく。お母さんに会えたから嬉しくなったのかと」
「お…お母さん?」
夜月はびっくりした様子で抱えている子ども、希を見る。
「あのぅ。申しにくいのですが、ここに居る子たちは、どうされるのですか?」
今回の戦いで何名も住民が亡くなったため、子どもたちの親が生きていないのではと考えた夜月は心配そうに尋ねる。
「そのですね。親御さんが来られた場合、引き取ってもらいますが。来られない場合…」
受付の女性は悲しくなったのか。何も言わなくなった。
「もし、何か問題があれば私たちに連絡を下さい」
彩花は受付の女性の手を取って言う。
「は…はい」
涙を流しながら笑顔で答える女性。彩花と受付の女性は連絡先を交換したようで、会話を始めた。
「それでは、書類を書いていただきます。」
夜月と彩花は突然な事に不思議に思っていた。
「書類とは?」
「お子さんが親御さんに戻せたかを確認してもらうために書類を書いていただいています。」
夜月は更に驚いた顔で反応する。
「えっと。」
「私たちはそんなつもりでは」
夜月と彩花はただ、迷子の子が無事なのか確認しに来ただけだったが、知らぬ間に親断定されていた。普通であれば、言われない事態にびっくりする。
「失礼致しました。てっきり、親御さんになられるかと。」
希を養子として受け取ると思っていた受付の女性は直ぐに謝罪した。そのまま抱っこされている希を受け取ろうとする。
「あとのことは我々、保育士に任せて下さい。」
希は夜月が離そうとすると、必死に服の袖を掴み離れそうとはしない。
「希ちゃん?」
0歳に近い子が良く分からない状況で他人から離れようとしないことは、滅多にない。親でもない夜月は、悲しい顔をしながらお別れをする。しかし、一向に離れない希に次第に受取書類ペンに伸びていく。
「夜月?」
「わ…私が…受け取ります。」
赤面の夜月いつもより緊張している様子で書類を書き始める。断れない空気に負けてしまうのが九重夜月という人だと知っていた彩花は、子どもが来る嬉しさと断れない夜月に難儀な人だと思っていた。
「それでは、今回は特例ですが」
申し訳なさそうに夜月と彩花が一礼して仮設テントを出る。
「それじゃあ夜月。買い物に行こう。」
彩花はわくわくしながら新しく家族となった九重希の生活に必要なものを買い物に誘う。
そわそわしている時間も冷えてきた外の温度に覚めてきたとき、彩花が気になった事を夜月に聞く。
「そういえば、夜月の魔導書になった…アイリアさんだったかしら。あの後、どこに行ったの?」
『こちらに居ます』
アイリアは呼ばれると、夜月の首に掛かっていた。
「不思議よね。魔導書なのに自我があって。」
「うぅ。」
首の突然、現れた本に希は興味津々目を光らせて握りしめる。
「そうですか?」
『魔導士にとってぇ。私たちは。只の道具ですから、無理もないかと思いますよ!』
希に遊ばれる魔導書。とても面白い光景だが、アイリアが夜月に助けを求める。
『わ…私は食べ物ではないですよ~。』
アイリアは再び怯えるように希の手から消えた。
「希にとってアイリアは、玩具ね。」
島のお店も壊れ、大型がショッピングモールも見るも無残な状態になっている。無数の仮設テントの中で、買い物、仮設商店街のようになっている場に多くの物が売られており、幼児用品も多く売られていた。
哺乳瓶、大量の水、粉ミルクにガスコンロセット。電気も水もガスも全く動かない島で生活することは何もかも足りない。買い終えた夜月と彩花は、MIOの司令局に向かい、支給品配布を行っているのか見に行く。
「保存食。配給をこちらで行っておりま~す。」
大きな声で呼び掛けをしている女性どこかで聞いた事のある声の先へ向かうと、美沙と鵜月が段ボール片手に声掛けを行っていた。
「夜月さん。彩花さん。…おめでたですか?」
「違います。」
夜月が抱えている子どもを見て言う鵜月にすばやく言い返す夜月。冗談で言っているというと、夜月は目をつぶって「分かっています」と答える。
「その子、この間の子よね。」
美沙は一緒にいたため、夜月に敬意を察して同情していた。
「はい。希ちゃんというお名前でした」
「よろしく。希ちゃん。」
可愛い子に目がない女子が集まった結果、仕事そっちぬけで可愛がっていた。
「あ…あのぅ。」
順番の列。最前列の人が声をかけて再開した。
多くの人が保存食を求め、向かって来ていたため、終わったのは、それから三時間後、いつの間にか潰した段ボールで座らせていた希は、ぐっすり眠っていた。
「私たちはこれから仮設病院に向かうわ。」
「学園長から緊急で指令が入ったの。」
鵜月と美沙は、少し浮かない顔をして話す。
「緊急ですか…。」
「私たちも必要であれば連絡を下さい。」
彩花は厳しい顔をしている三人の中で、冷静に返事をする。
「ありがとう。彩花さん。でも大丈夫だから。二人は、家に帰ってその子のこと。家の掃除したら?帰っても寝れないと大変だから」
「…はい。」
彩花は少し心配だったが、言われた通り家に帰ることにした。
「ちょっと。もしかして、それ全部持って帰るの?」
鵜月は夜月と彩花が後ろに積んだ物を見て尋ねてきた。
「大丈夫です。私が夜月に代わって全部持って帰りますので」
「水が入った段ボール二箱と粉ミルクって重くないの?」
彩花は段ボール二箱の上に粉ミルクを乗せて持ち上げる。
「このくらいでしたら平気ですよ」
重さ10キロ以上はある荷物を軽々と持つ彩花と大事に子どもを抱えて家へ帰る。
「本当に大丈夫なのかしら?」
中央区画から夜月の家までは、近いとは言えない距離にある。その上、かなりの重さがある荷物を持っているため、鵜月と美沙は心配そうに見る。
「彩花さん。大丈夫ですか?」
夜月は子どもを抱えているだけで、彩花に全て任せていると思ってしまった。
「夜月は気にしなくて良いから、希ちゃんを大事に抱えていて」
彩花は夜月に心配されまいと希を任せた。
夜月の家まで休むことなく歩いて帰った。




