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045、一分

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「……ふうん」


 なるほど、と、相手の手を見て、手の内を推し量る。速度、そして、力、これらは十分人間を殺傷できるものだ。意識が速度についていけていない様子も見えるし、自分の力に戸惑っている様子も見えるが、数字だけで計れば、人間離れしたスペックであることに変わりない。


 瞬発的な加速から一秒たたずに、六十キロには達しているだろう。小回りが利く体重でその速度というのなら野生の動物でもその速度はあり得るが、この速度と重量を合わせて小回りが利くのはそういないだろう。


 運動中に急激に角度を変えるということはとりもなおさず足首にそのベクトルの負担をかけるということだ。恐らく、それをなしているのは、


――どっ!


 こもるような音、砲丸の着弾を圧縮したような音は敵の踏み込みの衝撃だ。

 立てている音からすれば、足首への負担が小さいはずがない、それを無理矢理に抑え込んでいるのが、


(あの黒いのか)


 赤鉄鉱、ヘマタイト、鉱物としては重要だが、宝石になるほど見目の良いものは少ない。ただ、数自体は多いので価値がつきにくい……と、そういうものだからアイゼナッハでも取り扱いが多いわけではない。


「思い出したぞ」


 なるほど、接敵経験があると思ったが、エジプト辺りだっただろうか。同じような鉱物の産地で同じようなものと戦ったことを思い出した。鉄を鍛えた一族の末裔、鉄鉱石を食み取り込んだ者。宝石使いとは別の金属使いとでもいうべき一族の末だ。


 あれはもっと単純に、取り込んだモノの能力を行使するというありふれたやり方であり、また、魔石としてのヘマタイトではなく、ただの鉄鉱石だったので、単純に同一であるとは言えないが、――比較としては近いだろう。


 違う点は、


――魔石としてのそれを取り込んでいる分、上限が高い。


 それが一つ目、恐らくは給餌を続けて性質を保たなくてはいけない『メロエの輪』と呼ばれた彼らに対して、きっと目の前の存在はそのような後付けなど必要としないだろう。


――戦士としては、現在値が低い、


 これが二つ目、最終的な上限値がどうであれ、現在の敵は巻き込まれただけの一般人とほとんど変わりない。殴れば方が付くと思っているし、直線の軌道だけを信じている。例えば、こう、


 どすっ――がららら!


 地面に釘を打ち、そのルートから回避しても敵は突っ込んできてつまずく。速度を制御できない敵は回転して――しかし、再度の姿勢制御をして着地、運動量にものを言わせて運動の連続性を保とうとする。


 その対応は正しいものの、速度にものを言わせて突っ込むのがそもそもよろしくないのだ。勝ち方というのはもっとあるのに、何とも非効率的な手段だと思う、


――まったく、気に入らない。


 三つめ、と計上するのも腹立たしいが、シャルロッテと意思疎通をして、通じ合っているなどと、まったく、気に入らないし、腹立たしい!


 直線で突っ込んできた敵の腕。右の胸部辺りを狙ったそれをこちらは右腕でとる、体重を後ろに預けるようにして右半身を後ろに回せば、右足を後ろに踏むことになる。そこで姿勢を落としてしまえば押されてしまっただろうが、既に何度もの空振りで相手のプレッシャーは把握している。


 相手の右腕が伸び切る様に引っ張れば敵は回転も止まり、直線だけの動きを残す、その上で、おあつらえ向きに背中をこちらに向ける形だ。対するこちらは右足の置き方を工夫すれば、敵に対して正面を向けられる。


 無論、敵に攻撃を割り込ませないために、半身になるという選択を捨てているのはよくないが、この状況、交差の一瞬において、無防備な相手を攻められる今はそのデメリットを呑むだけの価値がある。


――腕を引く、運動エネルギーをいなす、背を見て、


 ナイフのグリップを胸椎の背中側突起に向けて水平薙ぎでぶつけた。



――問題は。


 速度、自分の速度だ。相手に対応させないための速度。それは今の自分の体には出せる物だが、自分の意識がついていける物ではないとはっきりわかった、豚に真珠……は、価値がわからないなので、少し違うか。宝の持ち腐れ、だろうか。


 自分の体であるのに、自分に使いこなせない。『もう一人』のスペックのおかげで、自分が多少なりともその速度でまわりを見て、方向転換が出来るのはマリーのナビのおかげである。しかし、根本的にこの速度を自分の物にしていないので、どうしてもついていけない部分が出る。


 結果が――、


「ぜは、ぜひ……」


 設置罠に転ばされかけて、相手の柔術染みた動きで背中を打たれた。呼吸は……マリーの説明によれば必ずしも深いものが必要ではないということだが、いつもの調子でそれをしてしまう。染みついた癖を消すのは別の癖で上書きするのが上策だ。


 矯正するというのも、まさしく、間違っていない、真っ当な癖で上から塗りつぶすということに等しい。それを出来ていないことこそ、自分が慣れていないということを如実に表してはいるのだが。


――バイクでも乗っときゃ良かったかな、


 とそんな柄にもないことを思いながら。


『アウ』


 『もう一人』の声に耳を傾ければ、自分のくみ上げるべき戦術が見えてくる。


 防御力は高い、多分、相手のナイフでは致命傷を得ることは無いだろう。ただそれは装甲強度というよりも、『もう一人』の動的な防御によるもの、つまり、攻撃された点に重点的に鉄を集めることによる防壁。鉄の粘りをもって威力を取り込むのと、鉄鉱石の破砕をもって威力を減衰させるのと、それを多層で組み合わせるのが『もう一人』の防御方法だ。


 言葉が通じないということが相手の理性の程度を測る指標にならないことを教えてくれる良い事例だ。ともあれ、こいつに任せていいのならあとやるべきは、


『後、一分です』


 恐らく消耗に伴ない短くなった残り時間。やるべきことはこの時間が尽きるまでに相手を戦闘不能に追い込む事だけだ。

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