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044、衝突

 リービーは目の前の状況を整理しようとした。


 シャルロッテに少々痛い目を見てもらって、実家に送り返せばいいだけ。彼女の進めようとしているプランに対して、リービーの取ったやり方は障害の大きさを知ってもらって諦めてもらうという――彼基準では――穏当なもの。それが果たせないのは、プランのごくごく一部ではあるものの、問題を解決しそうな手段を魔術とは違う技術の中に見つけたことと、


(その技術者が協力的だったこと、だな)


 目の前の男。先ほどヘリコプターから飛び降りたときにクッション代わりにした男だ。結果として崖下に落ちていったように見えたが……。


 ふむ、と口から吐かぬ息をもってその事実を反芻する。先ほどの接触の瞬間には石に守られただけのただの人間でしかなかったようだが、今は大分とその様相を変えている。衣服の破れは崖落ちのせいだろうから除外するとして、肉体にかなりの変化がみられる。具体的に言うなら、


(今度は足場にならなそうだね)


 次はそれをやすやすとさせてくれそうには思えない。


(たしか、この国にはピンチになったら覚醒するというような物語が多いんだったかな?)


 確かそんなようなことを聞いたような気がするが、と、彼は思い。だったら目の前のこれもその一例なのか、と思っておくことにする。


――目の前にいるのは今や普通の人間ではない。現状を評価するなら、魔術の失敗の成れの果て、というのにも見えるが、先ほど、流暢な人語を話していたことからすると、理性のない何かに乗っ取られたというわけでもないのだろう。


(意識が人間の側にあるということは魔装? 憑依? 血統に関するものではないだろうから……ふむ、どちらにしても、アイゼナッハとしては興味のある術式になっているのだろうね)


 ナイフを握りなおす。翡翠のナイフはシャルに砕かれた分しかない、というよりも、シャルを傷つけないで思い知らせるために、翡翠のナイフを使用したのだ。それ以外の装備としては、鉄のナイフが二本に、投擲用の和釘が数本、あとは魔術師としてのいくつかの技量程度だ。


 相手が意思を決めていないらしい、と感じたので、リービーは先に動くことにした。

 

――靴を鳴らす。



 靴音がして、走り出したのかと思えば、彼の位置は動いていなかった。

 いや、違う、


『礫!』


 マリーの警告がこちらの意識していなかった攻撃を認識させる。リービーのスーツの色と見合った石は方向的にも重なっているから見えづらかったが認識していても対処できないというほどではない。移動術、速度でもって移動する――


『ウア!』


 それに対して『もう一人』のとがめの声が来た。何をと思ったが、それは、回避しようとしていた先に対しての咎めでもあって、こちらの移動先に置くようにして投じられていた、


――鉄!


 先端がある、鋭い金属ということは分かった、重い、ということはわからなかった、が、それは身で知ることになる。

 つまりは、命中した。


「ぐ!」


 当たったと思い、感覚でうめき声をあげる、が、二つのことが分かった、

一つは今の状態ではさほどの痛みを感じないのだ、ということ、

 もう一つは、


(重――!)


 見た目からは想像できない、その重さ。命中個所は左手、その手のひら。たまたま当たったというのではなく、払おうとして、刺さったという感じで、さらに言うなら最後の瞬間には自分の意思に反していたから、きっと『もう一人』が最後の補正を入れてくれたのだろう。


 そのことからわかることは二つ、戦闘になれない僕に代わって、客観的な視点から体を動かしてくれるものがもう一人いるということ、そして、もう一つは、


(この体の操作の、絶対権があるわけじゃない、のか)


 その事実をどう受け止めればいいものなのかは扱いに悩むが、それについて、マリーが申し訳なさそうな感情を送ってきていて、僕は、そういう風に思ってくれる人がいるということ、それ自体を心に置くことにする。


 追加で言えば、腕を動かしていた瞬間にも意識が途切れていたわけではないので、完全に乗っ取らずともそういうことができるということだ、逆に意識の乗っ取りができるかどうかは別に確認しないといけないことだろう。


 体が重い、いや違う、血が重い。

 感覚を思うと体が反応を返す、理由の説明を、


「――っ!」


 『もう一人』が内容を説明してくれたのだとわかるが、それは内容を『投げた』のに等しい。言語として違い、情報処理速度としても違うにも関わらず、回線がつながっているから、という理由で送ってきたようなものだ。理解はできない、が、それでも何もわからないというのではなく、断片的にだが情報が入ってくる。それ故に完全なシャットダウンもできないというジレンマがあるが、


(――なるほど)


 何となく、本当に何となくだが脳内に浮かんだイメージから把握できたのは、今、『もう一人』は血液に乗ってこちらと重なっていること、形態としては流動性を持つレベルまで小さく分散した粒子が血液に溶け込んでいる状態で……。


 勿論、物理的には為しえない部分があって、そこは魔術的な処理を行っているようだ。だが、それにより、この状態――つまり、血液中に溶け込んで一体化している状態は長く保たないのだと理解させられる。


 それは『もう一人』が主をこちらとして重なっているために、魔力の生成がこちらの体でしかできず……、要するに、『もう一人』の体を分散させる魔術を保持し続けるだけの生産能力が無い体ではこの状態が維持できない、ということ。


 入れるより出る方が早ければいつか枯渇するという当然の事実だ。形態を維持しているだけでかなりの加護を得られているのだからその代償としては小さいくらいなのかもしれないが……。


『二分です』


 マリーの補足が入る。端的に要点だけだが、この状況でそれを聞き返すほどの間抜けではない、活動限界時間だ。自分では論拠がわからないがマリーを信用しない理由は無い。二分が、戦闘の時間として長いのか短いのかすらわからないままに、動きを再開する。

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